第69話 『元凶』

「よし、準備はいいな」


「うん、なんか久しぶりだねこの感じ!」


「クゥ~!」



 朝食を済ませ旅支度を整える。あとは本当にフードの男が王様を連れてくるかどうかだが、もしお昼になってもこなそうなら出発だ。



「あ、誰かきたよ」



 町のほうから二人の男性が歩いてくる。片方はあの男だがもう一人はだいぶ歳のいってそうな爺さんだった。あれが王様? 二人は俺たちの元へくると、爺さんが真っ先に頭を下げた。



「少年よ、この国を救ってくれたことを感謝する。そしてあのバカがしでかしたこと……変わって謝罪する、この通りだ」



 この声は……地下牢で聞いたあの声、あそこに閉じ込められていたのは王様だったのか。



「あんたが王様? 今まで随分のんびりしてたようだな」


「おぉ、その声はやはりあのときの……夢ではなかったんだな……」


「そんなことはどうでもいい。それより王であるあんたが子供一人止められなくてどうするんだ」


「それについては私が説明する」


「王様からじゃ不都合でもあるのか? それともあんたなら俺を納得させる自信があると」



 フードの男は頷くと、オアシスの横に作ったテーブルをみる。砂を固めただけだから壊そうと思えば壊れるんだが……。ミントが作ってくれたものだし壊すのがなんとなくもったいなくてそのままにしておいた。



「王はまだ体が回復していない、話も長くなるからあそこに座らせてくれ」


「別に立派な椅子でもないんだ、その辺に座ればいいじゃないか」


「レ、レニ君! 王様も大変そうだし座って話を聞こうよ」


「クゥー……」


「……仕方ない。倒られても面倒だからな」


「手間をかけさせてすまないの……お嬢ちゃん、ありがとう」



 俺は足早にテーブルにつく。リリアは王様を心配しているが男がついてるんだから大丈夫だろ、何かあってもそいつの責任だし。ルークには申し訳ないが椅子が足りないため俺の横で座っててもらうことにした。



「よし、それじゃあまずは自己紹介からしよう」



 そういって男はフードをとった。その顔は中年だがしっかりとした顔つきをしている。



「私の名はフラード。リリアちゃん、君の母親と同じ、とある一族の一人だ」


「えっ……お母さんを知ってるんですか!?」



 リリアは慌てて詰め寄るが俺はすぐに口を挟んだ。



「待てリリア、嘘かもしれない。ここから出さないために言ってるだけということも考えられる」


「用心深いな、まぁ仕方がない……話を戻そう。君は予言の本の中身を覚えているか?」



 あのむちゃくちゃな内容か、まるで雑に作った作り話のような内容……。



「あぁ、なんとなくだが……最後は水の国が滅ぼされるってやつだろ」


「そうだ、疑問に思わなかったか? あの内容が予言だったとして、おかしな点があることに」


「……全部おかしいだろ。何が平穏な日々だ。リリアを散々利用しようとしてモンスターの群れに連れ出しやがって……!!」



 俺はまたあのときを思い出し怒りが湧いてきた。そうだ、何が勇敢にも一人で立ち向かっただ! あの王子だって魔剣士ならモンスターを相手に戦えただろうが!!



「……ニ君! レニ君落ち着いて! 私、本のことは知らないけどそこまで酷い扱いをされてたわけじゃないんだから、ね?」



 沸き上がる感情を抑え頭を冷やしていると、フラードはリリアに優しく声をかける。



「あのときはすまなかったな、本の力の前ではどうすることもできなかった」


「力って……あの本は予言が書いてあるだけじゃないんですか?」


「いや、さきほど少年もいったが、本当に予言の通りであれば王子はまずモンスターに立ち向かうはずだったんだ」


「え、でも私は最初からモンスターを倒すのは君だって……」



 二人の話を黙って聞いているが、それだけでもイライラしてくる。それを察したのかルークが俺を気遣ってきた。



「クゥ~」


「すまんな……ありがとう」


「あの本の力、それは内容通りになるように、無理やりにでも周囲を動かそうとする力があるということだ」


「どういうことだ、そもそも王子は本を利用していたんだろ?」


「正確に言えば利用しようとして利用されていた」


「あの、周りの人は止めようとしていなかったような気がしますが」


「それについては儂に話をさせてくれ」



 さっきまで黙っていた王様が口を開く。その目は弁解しようとか、何か誤魔化そうとしてるような感じはなくただ一つ、真実だけを伝えようとしていた。



「あの本が置かれてから数年、あやつ王子と周りの様子が日に日に変わっていった。そしてあるとき、儂はオアシスに不思議な少女が倒れていることを聞いた――そう、君だ」


「私は王子様が助けてくれたって聞いてましたが」


「そう、ことが動き始めたのはそれからじゃ……まるで予言の本の内容通りに周りが動き始めていると悟った儂は、衛兵たちを集めモンスターが来ることを危惧し対策を練った。一度、子供に助けられたという歴史が儂にそうさせた」


「私がここへきたのもちょうどその頃だ。あろうことか王子は、王が錯乱したと言い出して王を幽閉してね」



 王子が王を幽閉って普通そんな簡単にいかないだろ……それも本の力だっていうのか。



「儂に協力的だった兵たちもみな捕らえられてな、牢に入れられとった」


「そんなの全然内容と違うじゃないか、何が平穏な日々を過ごしただよ」


「そこだよ。本の力の一番厄介なところ――あの内容は私たちから見て平穏だとかは一切関係ない。まるで物語を読んだ人物だけが分かればいい、そうなるように動くんだ」


「どうしてそこまで知っていながらすぐに壊さなかった? そのせいで俺の仲間がどうなったか見ただろ……リリアがどうなったか……見ていただろ!?」



 俺は立ち上がり声を荒げるとフラードを睨む――しかしフラードは少し考えるように顎に手を当てると口を開いた。



「あの本は内容以上の強いイレギュラーを起こさなければ壊すことはできん。それほどの力を私は持っていないからな……そして、本さえ壊せれば力も消える。今回のようにな」



 たぶん、この人だって壊そうとやれるだけのことをやったんだろう。それでも怒りの収まらない俺に対し、リリアが話題を変えるように口を挟む。



「あの、私も似たような本を持っているんですがそれとも何か関係が?」


「いや、あの本は君のとは似て非なるもの……これ以上私からは何も言えん。だが真実を知りたければ本を探し、そして壊せ」


「勝手なことを言いやがって……もうこんなところ出よう、いちいち危険を冒してまですることじゃない」


「レニ君……」



 そう、あの本は俺たちだけでどうこうなるものじゃない。今回だけでもリリア、ルーク、そしてミントがいたからこそ……そして犠牲も大きかった。それこそ、一歩間違えればもう…………想像するだけで反吐がでそうになる。


 この世界には正体不明のアビスだっているんだ、さっさと立ち去るべきだった。俺は立ち上がるとルークとリリアへ出発を促す。



「リリアちゃん、もし両親を探してるのであれば水の都へいけ」


「えっ……」


「さぁ行くぞルーク、リリアも早く」



 俺はフラードの言った言葉に聞こえないフリをしその場を去った。

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