第67話 『特訓開始②』
ミントからの攻撃を避けすぐさま魔法陣を描き始める。さらに横から飛んでくる攻撃を避けながら途切れないように描き続けた。
「よし……えいッ!」
≪タカノツメ≫
形の崩れた魔法ができ上がり人形に向け飛んでいく……だが、魔法は曲がり人形から逸れていった。
「あーダメかぁ……」
「ほら、脚が止まってるよ」
「きゃッ!」
「クゥー!!」
ルーちゃんが今だとばかりに攻めるが、カウンターのように魔法を受けてしまう。しかしルーちゃんは気にせず人形を壊した。
「はいストーップ…………だーかーらぁ、確かに君は体が頑丈だけど単調になりすぎだって! 今の魔法だってもっと威力が高かったら危ないかもしれないんだぞ」
「クウゥ」
「君の危険かどうかの察知能力はすごいと思うけど、何か裏があったらどうするのさ。目くらましに使われてる可能性もあるんだからもっと慎重に攻めないと」
「クゥ~……」
「私も描きながら避けようとするとイメージが崩れちゃうなぁ……どうしよう……」
「まったく、本当によくこんなんでここまでこれたね。
ミントはずばずばと痛いところをついてくる…………。だがそれは疑いようのない事実、王都でルーちゃんと戦ったときもソフィアさんがいなければやられていた。
あれほど注意するよう言われてたのに……そこから学ばずにずっと頼り続けてきた結果が今なんだ。
水分補給をしながら、辛い現実に心が折れそうになる……だけどこの程度でへこたれてるようじゃ、
「ルーちゃん、こんなところで立ち止まっちゃいられない。レニ君のためにも、私たち自身のためにも頑張ろう!」
「クウゥー」
「ねぇ僕だって疲れるんだけど……聞いてる?」
「さぁ、もう一度よ!」
「クゥ!」
「もう……デザートは僕が多めにもらうからね」
なんだかんだ練習に付き合ってくれているミントには本当に感謝しかない。こんなことをやれるときなんて旅を再開してしまうと滅多にないから、少しでも何か掴まないと! 私は乱れた髪を結び直す。
「さぁこい!」
「もういってるよ」
「おっと! もうその手には乗らないよーだ」
「クゥー!」
何度も魔法をぶつけられたせいか、全身の感覚がアンテナのように鋭くなり、視界にはいった魔法はすぐに察知できる。全身、汗でぐっしょりしているがそんなこと構っていられない。
当たれば死ぬ――ミントはそう言っていたが魔法を使う者にとってそれは当たり前のこと。魔法使いは魔法の詠唱中こそ無防備、だからこそそこを狙われる。
ソフィアさんやミントのように精度と速度をあげなければ――色々と試してみるが、結局うまくいかず時間だけが過ぎていった。
「はぁ、はぁ……」
「もうすぐあいつも戻ってくるし、そろそろ終わりにしたらどう?」
「も、もう一度!」
「仕方ないなぁ、これで最後だからね」
ミントが魔法を放つ。それを避け、すぐさま魔法陣を描いたそのとき、次にくる魔法の軌道が魔法陣に被ってるのがみえる。こっちはダメだ……だったら……こっちから描く!
いつもとは違う順番で魔法陣を描くと、体は大きく動いたが逆に視野も広がってみえる。完成した魔法陣はいつもより大きくなってしまったが……。それにもう疲れ切ってへろへろなのに描きやすかった。
あとはイメージがうまくいったかどうか……。余計なことを考える余裕もなく、人形を倒すことだけ考えていた。どうなるかはまったくわからない。
「さぁ勝負よ!」
≪タカノツメ≫
「げッ!?」
ミントは魔法を見て驚いた――それもそのはず、でてきたのは爪ではなく鳥――小さい頃に見た、空の狩人そのものだった……。人形に向け魔法を放つと、翼を広げ面積も少し大きくなり当たると思った瞬間、人形は器用に避ける。
「今のは惜しかったね~驚いたけどそれじゃあ」
「まだだ!!」
私が強く念じるとまるで本物の鳥のように空中で向きを変え、ほぼ真上から急降下する。そして爪で切り裂くと人形は崩れ落ちた。
「……や、やったー!!」
「クゥー!」
「な、なにそれズルい……」
喜んだのはいいが達成感と疲れから私はその場に倒れるように寝転ぶ。もうどれくらい汚れているのかもわからないし今更気にしてられない。
「お疲れのところ悪いんだけどさっきの感覚を忘れないようにして。今の魔法は詠唱も早かったし動きもよかったよ」
「う、うん、わかった」
私はとりあえずその場に座り、夢中で動いていた感覚をジッと思い出す。
いつもは魔法陣を作りながらイメージをして……と考えて動いていた。いや、考えるのは当たり前なんだけど……さっきのは自由だった。
これがこうで、この順番で、などと考えている余裕がなかった。こっちがダメならあっちで、あれがダメならこれで、狭いなら大きく、遅いなら速く、ただひたすらそんな感じで思考していた気がする…………。
色々と自問自答しながら思い出しているとミントが声をかけてきた。
「そろそろあいつが戻ってくるから水浴びでもして綺麗にしたほうがいいんじゃない?」
「えっ、もうそんな時間!? ルーちゃんいくよ!」
「クゥ~」
大慌てで服を脱ごうとすると砂の壁が出来上がる。ミントが気を利かせてくれたのかな……あとでお礼を言わなきゃ!
ルークと一緒に急いで水浴びを済ませ、着替えて出ていくとレニ君が戻ってきていた。
「おかえり!」
「お、ただいま~……って随分疲れてるようだけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫! 水浴びしてきただけだから!」
「そうか? 疲れてるなら早く寝るんだぞ」
「そんなことよりもどうだったのさ、デザートのほうは」
「ばっちりだ、必要な材料も買うことができた」
「ほ、ほんとか!? 早く食べよう!」
「落ち着け、いったん買ってきた物を整理するから。それにデザートは食後だからその前に夕飯にするぞ」
そういえばレニ君が料理してるところをちゃんと見たことがなかったな……。私だって料理も上手にならなくちゃ!
「レニ君、私も覚えたいから見てていい?」
「それだったら一緒に作るか」
「えっ、いいの? やったー!」
「ミントも後で必要なときに呼ぶから力を貸してくれ」
「デザートのためならいくらでもいいよ。そのかわり多めにお願いね」
「クゥクゥ」
「ルーちゃんは私と一緒に食器を運ぶのを手伝ってくれる?」
「クゥッ!」
こうして準備にとりかかる。料理を作るレニ君はとても手際がよく丁寧に教えてくれた。いつも通りで何も変わった様子はない、ミントやルークも楽しそうに手伝いをしてくれている。もしかして……私の勘違いかな。
しかし、あのとき崩れたものは大きかった――それを
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