第7話 『代償』
…………ここは……この天井……村の宿屋か……。
見覚えのある天井にホッとしていると何かが俺の手に触れていることに気づく。
視線の先ではリリアがベッドの脇に座り寄りかかるようにして眠っていた。そしてその手は俺の包帯まみれになった手を握り、その寝顔には泣いていたでろう涙のあとがある。
心配かけたな……頭もだいぶはっきりしてきたしそろそろ起きるか。リリアを起こさないようにゆっくりと体を起こす。
「痛ッ……!」
全身を襲う痛みに声が漏れ――そして次の瞬間、それに反応するようにリリアがぴくりと反応し突然起き上がった。ビビってジッとしていた俺と目が合う……こんなとき、何を言うべきか。
「……や、やぁ…………おはよう?」
「…………お、おはようじゃないよぉ……ずーっと起きないんだもん……もう起きないんじゃないかってぇ……よかったあああぁぁ…………っ」
「すまん、心配かけたな…………ずっと看病してくれたのか?」
リリアだってかなり疲弊していただろうに……悪いことをしたな。
感謝と謝罪を込め泣き伏しているリリアの手を握る。しばらくして落ち着くとリリアは顔を上げ、あのあとのことを教えてくれた。
「ごめん、もう大丈夫……そうだ、おばあちゃんは無事だったよ。ドラゴンが来る前に子供を村に送ってたんだって」
「そうだったのか、いや~探しても見当たらなかったからさ。まぁ、ドラゴン相手に探している暇なんてほとんどなかったんだけど」
「そういえばドラゴンはどうして逃げていったの? 助けに来てくれた冒険者の人もおかしいって言ってたし、レニ君の体も……傷一つなくて念のために回復薬を塗っただけだって……」
「俺、あのとき職業をもらったんだ。それで気づいたら体も回復していて」
「ほんと!? ついにもらえたんだ!」
「うん、それであの場はなんとかなったんだが……」
俺がドラゴンとの
「おっ? やっと目覚めたか」
「見た感じ問題はなさそうね」
「あっ、タイラーさんソフィアさん、助けてくれて本当にありがとうございました!」
この人たちはあのときいた冒険者か。この様子だとあのまま俺を助けてくれたんだろう。
「俺はタイラー、で、こっちがソフィアだ。よろしくな」
「助けて頂きありがとうございます。俺はレニです」
「おう、話は聞いている。お前、ドラゴン相手に戦ったんだってな? ほんと無謀というかなんというか」
「体調のほうはどうかしら? あなた、三日間も寝たきりだったのよ」
「………………えっ、三日間? えええええええッ!?」
なんとなくだが一晩かなと思い込んでた……まじで三日も寝てたのか……。
「そこの嬢ちゃんが付きっきりで看病していたんだ。ちゃんとお礼いえよ?」
「リリアちゃん、疲れたでしょう。もう休んでてもいいのよ」
「い、いえ、あとでちゃんと休みますから今はまだ…………」
そういうとリリアは俺のほうをチラッと見てきた。
心配なんだろうか? ここはちゃんと言っておいたほうがいいな。
「リリアも疲れただろ。俺はもう大丈夫、無理せず休んでいいんだぞ」
「ッ! わ、私は全然大丈夫、平気なのっ!」
「……くくくっ、嬢ちゃんも大変だな」
「あら初々しくていいじゃない? 私はこういうの、好きよ」
顔を背け髪を直すようにいじり出すリリアと、動けないながらもそれを心配する俺を見て、タイラーさんとソフィアさんはなぜか静かに笑っている。
「さてと、喋る元気もあるようだし起きて早々すまんが本題に入らせてもらう」
タイラーさんはまじめな声で仕切り直し、腰につけていた小さい鞄に手を入れ何かを取り出した。
「お前、これをどうやって手に入れた?」
そう言ってドラゴンの鱗を俺にみせる。
「それはッ! 返してくだ――ぐっ、痛うぅ……」
「ま、まだ動いちゃダメだよッ!」
「すまん勘違いさせたな、これはお前にちゃんと返すよ」
「まずは説明が先ね。レニ君、よく聞いて――ドラゴンの鱗が傷もなく、魔力を宿し完璧な状態で落ちてるなんてこと……普通はありえないの」
「だからな、
そう言ってタイラーさんは俺に鱗を渡す。
「俺、今まで職業をもってなくて……でもドラゴンと対峙してるとき、奇跡的に職業をもらえたんです。それでなんとかあの場は凌げたんですが……」
そこまで説明すると俺はハッとした。
――卵を盗んだものがいる――
どこの誰かなんてまったく検討もつかないが、この二人が関係していないとも言い切れない。
約束について言ってもいいものか悩んでいるとタイラーさんが口を開く。
「……やはり、
「………………もし、どちらかだったとしたらどうします?」
「それならば簡単だ。話せないのならば話すと何かデメリットのある契約か呪いでもかけられているんだろうよ。王都の教会で調べればいい、子供の悪だくみでドラゴンの鱗を取れるなんてことはまずないからな。そしてもう一つ、話すのに値しないというのは信頼されていないというだけだ」
タイラーさんが慣れた口調で言い終えると、ソフィアさんが近くにきてプレートを見せる。プレートには「S」の文字が刻まれていた。
S級冒険者……国や各ギルドで多大な貢献をした者のみが与えられるランク。力だけではなく、あるときはみんなを助けその場を収める。それができるだけの力や知恵を持たなくては絶対になれないもの。
この世界で本物の――
「私とタイラーはS級なの。あなたを助けることができるかもしれないわ」
少し悩んだが今の俺には犯人のてがかりや何かあてがあるというわけでもない。それにもし、仮にだがこの世界のS級が盗みに関わっていたりしたらもう何も信じようがないだろう。
まぁ、前世じゃ真っ黒なお偉いさん方がたくさんいたが……あれは地球での話だ。ここは別世界、信じてみるしかない。
「……わかりました、嘘みたいな話ですが聞いてください」
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