素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬(イタチ)

第1話 『出会い』

「「やーいやーい!」」


「か、返してよぉー!」


「お前、森から出てきたってことは魔女だろ?!」



 なんだ騒がしいな……?


 村の子供たちが走り回っている――その中でピンク色の長い髪をした少女が一人、しゃがみ震えていた。


 この辺りじゃ見かけない子だ……それにしてもあいつらまた……。



「も、もうやめて……返して……っ」


「うわ、魔女が泣いた! 呪われるぞ、みんな逃げろー!」


「「「あっはっはっは! 逃げろー!」」」


「おい! この悪ガキどもそこまでだ! 今度は寄ってたかって女の子を泣かせて……今日という今日は堪忍袋の緒が切れたぞ!」


「なんだレニじゃん、またわけわかんないこと言って~」


「ニール! さっさと鞄を返してその子に謝罪しろ!」


「やだよ~だ! お前だって森の伝説・・を知ってるだろ。こいつはあそこから出てきたんだ」



 ――森の奥深く、そこには魔女が住んでいる。そしてそこへ行ったら最後、二度と戻ってくることができない――



 この話は大人がしきりに子供らへ言い聞かせていた。


 ただ、気になるのはいくら大人に聞いても行くなというだけでほかのことは一切喋らない。危ないから、とか何か害を与えるからというわけでもないようなのだ。


 危険なら森から追い出すべきだと思うのが当たり前のはずだが……どうにもできない事情があるのだろうか。まぁそんなことよりも今は、



「んなこと、どうだっていい。早く返すんだ」


「なんだとぉ……その歳でまだ職業ジョブをもらってないくせに! 剣士見習いに勝てると思ってんの!」


「「「そうだそうだ! ニールやっちゃえー!」」」



 ニールは木の枝を拾うと得意げに振り回して見せたが型も何もあったものではない。いくら職業ジョブを授かったといってもチャンバラの延長線だな。



「わかったから、そんなことより鞄を返せって」



 鞄に手を伸ばすと返ってきたのは痛みだった。くそ痛ぇ……こういうときの子供ってのは力加減をしらないから嫌になる。



「はっはっは、甘いぜ! どうだ僕の力は! いずれは伝説・・の剣士になるんだ!」


「なんだと……? お前が……お前なんかがなれるかあああぁぁ! 伝説をなめんじゃねぇ!!」


「な、なんだとこの野郎!!」



 男の子は鞄を投げ捨て一心不乱に木の枝を振り回す。

 さっきはやせ我慢で耐えたが痛いものは痛い、さすがにまた当たるわけにはいかないし、避けながら隙をみて鞄を取り返す作戦でいこう――――よし、今だッ!


 鞄に手が触れ掴みあげたその瞬間、



「ちょこまかと……いい加減にしろー!」



 大きく振られた木の枝は俺の顔面を叩き、衝撃を受けた部分が徐々に熱くなっていく。そして何か・・が頬を滴り落ちる。



「あっ…………」



 まさかこんなことになるとは思っていなかったのだろう、男の子は俺の顔を見て固まっている。子供・・のときは誰もが経験することだ。

 周りの子供たちも精神的に衝撃が大きかったのか全員が沈黙した。



「鞄は返してもらう。これ以上余計なことはするな、今後もだ。わかったな? わかったらほかのところで遊んでこい」



 俺の言葉を理解してか知らずか、はたまた反省からか各々が頷くと目を伏せ逸らす。

 これで少しは懲りただろう。


 子供たちはしぶしぶ移動を始めると、俺と少女の二人だけが残された。



「はい鞄、ちょっと汚れちゃったけど……軽く叩けば綺麗になるから、ほら、もう泣かないで」



 少女は涙を流した目で俺を見ると驚いた表情をする。



「あ……血が……」


「血? あぁ大丈夫、鞄にはついてないよ。ほら!」



 そう言って鞄の汚れを軽く叩き落としながら、血がついてないことを見せ渡す――少女は大事そうに鞄を両手で抱えるが、改めて俺の顔を見るとまた泣きだしてしまった。



「そ……そうじゃなくてぇ……血がぁ……わたし……っせいで……うああぁぁんっ」


「えっ、なに? 血が嫌いだった? ごめんね、すぐに拭くから。それより君のお家は? どこから来たの?」


「ぐすっ……も、森の中…………おばあちゃんが熱で……っ」



 森の中には誰も住んでいないはずだからやはり……それにおばあちゃんがってことは魔女の子供? どうみても人間と変わらないようだが。だがこれはチャンスだ!



「わかった、俺もいくよ。その前に……そうだな、ここじゃなんだし森の入り口で会おう。すぐ行くから待ってて」



 少女が頷くのを確認すると俺は薬屋に向け走った。そしてそのまま勢いに任せ店の扉を開けると奥で棚の整理をしていた女性に声をかける。



「おばちゃん! 薬ちょうだい!」


「おや、レニかい? なんだってそんなに慌てて――――ってどうしたんだいその顔は!」


「えっ? あ~っと、くる途中に転んじゃってさ。あははは」


「笑ってる場合かい! ほら、薬を塗るからこっちに来なさい! まったくあんたが怪我するなんて珍しいこともあるもんだねぇ」



 おばちゃんは慌てながら薬を探し始めた。



「いや~ちょっと急いでてさ……いてててっ……そうだった、そんなことより熱用の薬ない?」


「熱? 誰か風邪でも引いたのかい?」


「え、えーっと……そ、そう! 母さんがちょっと熱っぽいみたいでさ、心配だから薬を買いに来たんだ」


「あら珍しいわねぇ。わかったわ、準備するから待ってなさい。それよりまずはあんたのその顔からよ」


「これくらい平気だよ。それに今は薬代しか持ち合わせていないんだ」


「子供がそんなこと気にするんじゃないよ。悪化でもしたらどうするんだい、ほらさっささとこっちにきな!」


「で、でも……」



 それ以上何かを言うなら力ずくで――おばちゃんの目はそう語っていたため俺はおとなしく治療を受けることにした。こういうことに慣れているのか、思いのほか治療はすぐに終わり熱用の薬を受け取る。



「おばちゃんありがとう! 今度お金持ってくるからね!」


「だから別にいいって――もう行っちまった。あの子レニがあんなに慌ててるなんてよっぽどなのかしら」





 あとでお見舞いでも行こうかしらねぇ……店主はそういいながら、後片付けを始めた。

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