141~150
断 無 飲
太陽の放熱装置が壊れて一週間、とうとうこの区画も断水指定されてしまった。飲料水は最低限の配布が受けられるが、昼夜問わず照り続ける太陽にはまったく無意味だ。個人で使える空調設備を持っている人間はこの辺りにはいない。となるとやはり、太陽の真下を掻い潜って友達の家に行くしかないのだ。
強 病 交
重い雲の下で今日も町は水浸し。積もるように力強く振り続ける雨は、こうして眺める分にはとても美しいと思う。私の目には天から垂れる糸のように細く見えるが、実際は丸い粒の形で落ち続けるのだ。点と線の交わりをずっと見ていたい。しかし、半年以上も休まず振られるといい加減に気が病んでくる。
悲 声 楽
真っ赤な靴を履いたピエロが色とりどりの風船を配っている。大観覧車がゆっくりと巡り、ジェットコースターはロケットのように飛び回る。しかしここには誰もいない。あたりを走り回る子供たちも、楽しく悲鳴を上げる大人たちも、あるのは声を持たないピエロや着ぐるみだけ。何もない遊園地の夢だ。
美 生 精
どんなに優しい人も、奥深くに濁った淀みを抱えている。それは人として正しい姿なのだろうが、人の心を無差別に見てしまう私は大変つらい。赤ん坊の精神ばかりを移り歩いていくようになった。何も知らない小さな子供は美しい世界で生きている。そんなことを繰り返すうち、私の肉体はとうに滅んでいた。
美 想 荒
厚いスモッグに遮られて日の射さない荒野を歩く。規則的に並ぶかすかな街灯の光が、ここがかつて文明の栄えた土地であったと想像できる。ふと、足元に小さな花を見つけた。汚染された土の上にも、美しい命が芽生えていると人々は喜ぶだろう。私はそれを踏みにじる。この完成された世界には不必要だ。
怖 生 精
生きていくのがこんなに辛いとは思わなかった。人と会うのが怖い、相手が何を考えているかわからない。仕事に行くのが怖い、他人が原因で叱咤されるのが怖い。家に帰るのが怖い、明日を迎える場所が怖い。精一杯やっているつもりでも、周囲のそれには遠く及ばない。それでも全てを投げ出す気力もない。
掘 眠 無
人の夢を覗くのは楽しい。それぞれの意識が反映された眠りの国は、美しいものもあれば痛みを伴うものもある。夢の主に見つかって歓迎されることも、ひどく拒絶されて追い出されることもある。覗き屋の中には、あまりに人の意識を深く掘りすぎて、その人の無意識と混ざって戻れなくなる人もいるらしい。
根 肉 人
ざりざりと、夜の森に不可解な音が響く。風に吹かれる枝や、小さな生き物の動く音とは違う、それは人間がたてる音だった。ひときわ強い風に雲は押され、満月があらわになる。闇の中、光り輝く夜の陽が音の主を照らし出す。大木の根元で一人の男が指の肉が削げるのにもかまわず、力なく穴を掘っていた。
持 晩 酒
今晩は新月。夜の太陽に眩むことなく降り注ぐ星空の下、乾いた草の上に敷布を広げ、客人のための準備を始める。酒瓶、盃、そして円形の鏡。待ち合わせの時刻、鏡面を空へ向けて見えない月をなんとか映す。いくらも待たないうちに鏡から数羽の兎が飛び出した。月の兎は持参した団子を見せて笑っている。
抜 触 困
抜けた歯を枕元に置いて眠ると歯の妖精がコインと取り換えてくれのは常識だが、なんでそんなことをするのか、誰も知らないようだ。シーツをすっかり被り、歯に巻いた糸にそっと触れる。別に捕まえたり、困らせるつもりは毛頭ない。妖精たちは歯を集めて何をするのか、どうしても突き止めたいのだ。
次の漢字を全部使って文章作れったー
https://shindanmaker.com/128889
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます