第18話「オルドス村に帰還」

 オルドス村に帰る段になって、シャルロットはフレアに担がれて運ばれることを断固拒否した。


「もう二度とゴメンですわぁあああ!」

「急ぐんだよ! 贅沢言うな!」


 早く炭をなんとかしないと、あの魔物みたいな伯爵夫人がヨサクを襲うと思っているフレアは必死である。

 話し合いの結果、食料や日用品などを積んだ馬車を冒険者の護衛付きで出してもらうことになり、シャルロットはそれに乗って帰る事となった。


 もちろん、馬車に炭俵すみだわらを大量に載せて帰ってきてくれることを期待しての投資だろう。

 しかし、フレアはとにかく急いでいる。


「先生乗って!」

「そうなるか」


 ヨサクもできれば遠慮したいのだが、仕方がない。

 子供くらいの年齢の弟子に担がれるってどうなんだと思いながら、ヨサクがフレアに乗ると、物凄いスピードで走り出した。


 ドドドドドドッ!


 砂煙を上げて、高速で移動するフレア。

 これは、なにか言ったら舌を噛むとヨサクは無言である。


 街道には、ゴブリンなどのモンスターが出没するのだが、あまりの勢いにモンスターが逆に逃げていった。

 全てを振り切って走るフレア。


「嘘だろ」


 半日も立たずに、村についてしまった。

 乗馬とかそういうレベルじゃない。


 勇者フレアは、おそらく世界のどんな生き物よりも速い。

 村で降りずにそのままドドドドドドッと山に駆け上がるフレア。


 どこまで行くのかと思ったら、壊れた炭焼小屋のところでようやく止まった。


「先生、炭を作るにはどうしたらいい?」

「あ、ああ……ちょっとまってくれるか」


 ぐらんぐらん、地面が揺れている。

 冒険者として鍛えてきたヨサクですらこれである。


 これは、訓練していないシャルロットが吐くはずだ。


「ねえ、どうしたらいい」

「ちょっと、今揺らさないで……。木、とりあえず木を切るかな」


「わかった。でやー!」


 フレアが、あたりの木に手当たりしだい斧をぶつけていく。


 ミシミシミシと、嫌な音を立ててバタンッ! と、大きな木がぶっ倒れる。


 ミシミシミシ、ミシミシミシ、ミシミシミシ、ミシミシミシ、ミシミシミシ……。


「まてぇ!」


 バタンッ! バタンッ! バタンッ! バタンッ! バタンッ!


 ヨサクが止めた時には、当たり一面の木は全て倒れていた。


「なにかいけなかった」


 不安そうに言うフレア。


「全部切ったら、はげ山になっちゃうからね」


 このあたりのクヌギの木は、どんぐりを落としてくれる恵みにもなる。

 必要な分は切っていいが、全て切り尽くしてしまえば森の獣も困るだろう。


 もっとも、人の手の及ばぬ広大無辺こうだいむへんのヒルダ大森林の木を全て切り尽くすことなどできようもないので心配ないと思うけど。

 相手は、他ならぬ勇者フレアだ。万が一がある。


「ごめんなさい!」

「ああ、謝ることじゃない。俺の指示も悪かったし、このあたりの土地を少し広げようと思ってたところだから大丈夫だよ」


 ヨサクは切るときは間隔を空けて、間伐しようと教える。


「わかった。じゃあ、もっと切ってくるね」

「ストップ! とりあえず落ち着こう。ほら、神獣のシンもずっと留守番させてるでしょ」


「あーいけない。忘れてた」


 そう言って、フレアは笑う。

 ほんとに忘れていたのか。


 フレアは一つのことを考えると、他のことを忘れるタイプらしい。

 これは、手綱を握るのが大変だぞとヨサクは焦る。


「ともかく炭焼には時間がかかるから、一旦村に戻ろう」


 なんとか、フレアを言い聞かせて村に戻る。

 村では、さきほどフレアが凄まじい砂煙をあげて通り過ぎて言ったので、何事かと騒ぎになっていた。


「みんな、ただいま」


 ヨサクが、声をかけると子供たちが集まってくる。


「ヨサク、お土産は!」

「ああ、みんなに菓子があるぞ」


「やったぁ!」


 甘いものに飢えている子供たちは、我先にとフレアが取り出した菓子に手を伸ばす。

 光り輝く宝石のようなタルトに、みんな舌鼓を打った。


「菓子がもってこれたのは、フレアのおかげなんだからみんなお礼を言うんだぞ」

「お姉ちゃんありがとう!」


 子供たちにお礼を言われると、フレアもモジモジして、まんざらでもなさそうに笑った。

 そして、フレアはオルドス村に結界を張って守っていた神炎の剣シン・シールを引っこ抜いてやる。


「わおん! わおん!」


 やはり寂しがっていたのか、すぐ神獣化して主人であるフレアに抱きつく。


「ほら、シン。よく留守を守ってくれた、お土産だぞ」

「わおん!」


 ヨサクが赤い帽子をかぶせてやると、神獣シンはまんざらでもなさそうな顔をした。


「みんな、食べたところで悪いがちょっと手伝ってくれるか。これから、炭焼小屋を直して炭を焼かなきゃならん」


 紅王竜の肉を食べたおかげか、元気いっぱいの子供たちは、はーいと手をあげる。

 こうして、本格的な炭焼きが始まった。

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