第18集:星よ。今夜は慰めないで
ここは、とある豪華な屋敷の一角。
辺りが夜になっても、執事室は日中と変わらず慌ただしいままである。
だが――それは当然!
お嬢様の執事たる私の仕事に、休息はありえないのである!
はてさて。もうすぐで午後11時。
そろそろ私を呼ぶお嬢様の声が、屋敷中に響く時間である。
「執事ー!ちょっと来てくれるかしらっ!」
「はっ。ただいま向かいますお嬢様」
執事は足早にお嬢様の部屋へ向かう。すでに彼女は薄い桃色の頬を膨らませており、ベッドの横に佇んでいた。
そして待ち侘びた様子で、
「執事。星が美し過ぎて、寝られないわっ!」
幼さの残る声色を跳ねながら言葉を紡いでいく。
「一体どうしてくれるのかしらっ!!」
…はてさて。
ここからが私の仕事である。
「申し訳ありませんお嬢様。ではお嬢様の願いとは?」
するとお嬢様は意地悪気な笑顔を浮かべてみせた。どこか憎らしくも思えるが、年齢相応の無垢な少女の微笑みである。
彼女は
「私を寝かしつけなさい。以上よっ!」
不敵な笑みを浮かべており、まるで執事を試している様子だ。しかし言動は、やはり子供そのものである。
星が美し過ぎて寝られない――ふむ。まったく関係は無い。
だが!
ここでお嬢様の願いを叶えられないようでは、それは三流執事!
残念ながら私は、一流執事なのでございます…。
「承知しました。それではここで一つ提案がございます」
執事は下げていた頭をゆっくりと上げて、瞼を細めてお嬢様を見つめた。
その瞳に応えるように、執事は答える。
「私、実は詩を書くことが趣味でございまして…」
「ふふっ。今夜も待ってたわ執事」
彼女は待ち侘びたように、乾いた唇を小さく舐めてみせた。
「お嬢様。寝る前に詩など如何です?」
◇◆◇◆
【第18集:星よ。今夜は慰めないで】
青い 青い空に
透明な万華鏡 転がして
淡い 淡い色に染め上げて眺めていたい
着せ替えのような昼を脱いで
静かな地球 寝息の中
冷えた手に吐息 掛けて唄う
月明かりのベールの下
瞬き1つせず あなたの名を叫ぶよ
すべてを忘れたい夜でさえ
あなたの温もり 忘れた時は無い
流れ星に願い 添えて待っている
この柔らかい光の中に
白い 白い雲に
精一杯腕 広げて
強く 強く抱き締めれば心も晴れるかな
脱ぎ捨てた昼に振り向かず
煌めく宇宙 神秘の中
過去の栄光の影 映して眠る
吸い込まれそうな黒の
散らばる星屑に あなたを想うばかり
何も動けないような夜には
あなた求めて 残り香へ視線動かす
銀河から見下ろす歴史はどう見える?
この底冷えの大地の中に
孤独な惑星から
降り注ぐ淡い旋律
今夜だけは 孤独に身を任せてみたい
明日も見えないような夜には
あなたの言葉 思い出さない時は無い
思い出の星 探して空見上げる
この美しい世界の中に
◇◆◇◆
「――さて如何でしょう?お嬢様」
「すー…すー…」
おやおや…。
どうやらお嬢様は、眠ってしまったようでございます。
はてさて。もう夜も深い。
それではあなた様も、どうか良い眠りを。
え?
私はいつ眠るのか、ですって?
いやはや…お優しいお心遣いありがとうございます。
しかし心配はご無用でございます。
執事たる者。
お嬢様のためならば休息など必要ございませんゆえ…。
それにまたすぐに、お嬢様から呼ばれるかもしれませんから――ね。
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