失恋

朝が来た。いつも通りの朝だ、ベッドから起き上がり、リビングに向かう。


キッチンに目をやると、母がいつものように朝ごはんを作っている。


僕は「おはよう」と言うと、母は振り向いて、笑顔で返事を返す。


「おはよう太一。朝ごはんもうすぐできるから、座って待ってて」


僕は言われたまま、椅子に座って、テレビをつけた。そうしてすぐ母さんが朝ごはんを持ってきてくれた。


僕はありがとう。とだけ言って、朝ごはんのパンを手に取って食べた。母はいつもコーヒーを飲んでいる。


朝のニュースの音と母のコーヒーを啜る音が飛び交う静かな空間は僕は好きだ。


歯を磨き、制服に着替え、靴を履く。少し時間に余裕があるので早く行こう。


ドアを開け、「行ってきます。」と言い、家をでた。


通学路を歩く途中、声を掛けられた。


「あっ!おはよう太一くん」この人は美緒ミオと言う。クラスメイトだ。


「あぁ。美緒ちゃんおはよう。」僕はこう返した。至ってクールさを演じてるが、美緒さんに会えて内心とても嬉しかった。僕は美緒さんのことが好きだ。だって....


優しくて、思いやりがあって、可愛くて.....


一緒に歩く通学路、いつも僕に話題を振ってくれる。一生懸命僕と話そうとする。


こう考えているうちに学校に着いた。上履きに履き替えて、一階の階段に登って教室のドアを開けた。


自分の席について、授業の準備をする。教科書やらなんやら机に入れた。


準備が終わって少しボーっとしていたところチャイムが鳴った。


担任が少しして、ドアを開けて、「あーごめんなみんな。遅れちゃったー」と言い教室に入った。


「なにやってんだよーおかもっちゃんよー」

みんなが笑い出す。担任の名前は岡本先生と言う。初老の先生だ。みんなとは仲が良く、親しまれている。


「ほいほい、日直日直〜」「あっ!起立、礼、着席」


いつも通りで平凡な毎日だ。そう思い美緒の方を見る。あぁ可愛いな。付き合いたい。なんならお嫁に.....。そんなことを思っている間に1限が始まった。


数学の授業を担当するのは杉本先生だ。杉本先生の授業はとても分かりやすいと、評判がいい。だが自分は上の空。ずっとずっと美緒のことを考えていた。美緒と出会ったのは、きっちり覚えている。あれは4月の時、始業式の時だ。


僕は俗に言う、「コミュ障だ」周りの人間と話すのが、少しばかり苦手なのだ。クラスのみんなが仲良くしているのを見て、内心焦った。また友達ができず、孤立するのか....。と思い心が重くなった。クラスが賑わう中、1人だけ席に座り絶望した顔を僕を見かねたのか、1人だけ僕に喋りかけてくれた人がいた。「美緒」だ。


美緒は言った。「太一くんだよね?初めまして。私美緒っていうの。よろしくね!」

僕は戸惑って「へ?あぁ...えーと、うん」と曖昧な答えで返してしまった。普通ならここで会話が止まるのだが、美緒は気にせず会話を広げようとしてくれた。趣味の事、好きな食べ物、そして、好きな色とか、いろいろ話してくれた。


僕はこの時、美緒に恋に落ちた。なんて素敵な人なんだろう。


そう考えているうちに、あっという間に授業が終わった。放課後だ。美緒は、

「それじゃあ、バイバイねー!」美緒は笑顔で手を振った。僕は「うん」とだけ言って、少しばかり手を振った。帰る途中、僕は気づいた。「あ!」忘れ物だ。体操服を教室に忘れたようだ。そうと分かれば取りに帰らないと。急いで学校に戻り、体操服を取りに戻った。


教室のドアを開け、自分の体操風を取り、帰ろうとした。「ふぅ気づいてよかった」そう思い教室のドアを開け廊下を歩く時、気づいた。


廊下には小さい窓があるのだが、小さい窓からは体育館の裏が少し見える。そこに人が2人立っていた。


「なんだろう」そう思い、きっと告白なんだろう。と思い、目を凝らして見た。あの人、美緒に似てるなー。と軽い気持ちで見ていたが、見れば見るほど、美緒にしか見えなかった。 いや、そんな馬鹿な。美緒のそっくりさんなんだろう。そう思い何度も何度も見ても、美緒にしか見えなかった。


嘘だ。嘘だ。いや、きっと違う。まだ確信が持てなかった僕は、近くで見ることにした。


急いで体育館の裏に向かおうとして、今までにないくらいの速度で廊下を突っ走り、急いだ。体育館の裏に近づいた時、心臓が破裂しそうなほどだった。


そーと、そーと音を立てないように、体育館の裏に近づいた時。


美緒の声が聞こえた。「はい!喜んで....」僕は心の底で叫んだ。「うんむぁ」


僕は走った。告白した相手の顔を見ておけばよかったと思うが、そんなことすらどうでもよかった。


自分の家の玄関のチャイムを押し、母がドアを開けたが、母は驚いた。「どうしたの?!太一」そりゃあ無理もない、いつも無表情な息子が、荒れ狂った顔で立っているから。だが母の問いは答えなかった。無視して、どかどかと家の中に入った。


僕は部屋に入ったなり、涙より、怒りが溢れた。


「あぁぁぁぁあっぁぁあ」と叫び、手当たり次第のものに殴りかかり、投げ狂った。

部屋がある程度散らかると、物足りなく庭に駆け寄った。母の趣味は園芸だ。庭にはたくさんの花が咲いている。僕は紫色の花を見つけ、思い出した。美緒さんは紫色が好きなんだって...。


僕はその花に駆け寄り、唾を吐き、蹴り倒そうとした時...。


「おい?!何すんだよ!」と花の方から聞こえてきた。花がしゃべった?そんな馬鹿な、僕の頭はまだ正常だ。ふざけるな。もう一度蹴りを入れようとすると、


「おい!やめろ馬鹿」反射的に、「何が馬鹿だ!ふざけるな」と怒鳴った。

「何があったんだ?話してみろよ」と花は答える。僕は何かを言おうと思ったが、先に涙が出てきた。


「何泣いてんだよ?俺に唾吐いて、怒鳴り散らかし、泣き散らしてよ」

「まずは何があったか話せよ」


「僕の愛する人を他の男に奪われたんだ」

「何?浮気されたのか。」と少し声が弱々しくなった。だが違うとだけ言って、事情を話した。


「は?それお前の女でもないだろ?自己中すぎるだろ。」僕の心は折れかけた。

「あの女は僕は裏切ったんだ!僕と喋る時はいつも笑顔だったんだ、畜生」

「お前以外と喋るときはもっと笑顔だったと思うぜ。」僕の心はきっちり折れた。


「お前さ、その女がいつからお前のことを好きだと錯覚していたんだ?」

「喋りかけてくれるし....。笑ってくれる....。」

「お前から喋りかけた事は?本当に笑ってくれたのか。」

............................。

「もっと自分から喋りかけろ。お前は独占欲が強い。そう強いんだ。」


「他の人と、もっと自分から喋りかけろ。甘えるな」


その時、母が庭のドアを開け、僕の事を怒鳴った。


「何してるの?!今日おかしいよ!太一」

僕は驚いた。僕の母は優しかった。一度も僕の事を叱った事ないし、だからこそ驚いたんだ。


僕は母に勉強のストレスだって言って部屋に引きこもった。


気がつけば朝になっていた。床から立ち上がり、いつも通りリビングに行った。

母は少し心配した顔で、朝ご飯を持ってきてくれた。いつも通り歯を磨き、制服に着替える、風呂.......。


いつも通りドアを開け、「行ってきます。」と言い、家をでた。

歩いていると美緒と会った。


「あ。おはよう太一君。」反応は薄かった。

「あぁ。おはよう。」僕は答えた。


沈黙の中、2人で歩く通学路はこの気まずさは初めてだった。


そういえば、あの花が言ってた、自分から喋りかけれってさ。

納得いかないが、試してみよう。


「ねぇ、美緒ちゃんってさ、昨日テレビ....見た.....?」

「え?あ。うん!見たよ...~!」

少し戸惑ったのか、ひきつった笑顔を見せた。


本当にこれでいいのかわからないが、少し変わる気がすると思うんだ。


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