38 『洗教星』
「まったく、力を与えてやったっていうのに、こいつはてんで役立たずだったタコ。やっぱり、人間はクソってことだタコ」
イライラをぶつけるように、タコは触手で自分の体を……不健康男の体を叩いた。
ボキリと、肋骨が砕ける音がした。
「貴様ぁーーーーー!!!」
それを見て、バロンが激昂。
タコに向かって突っ込んでいく。
「いいんタコか? こいつ、一応生きてるタコよ?」
「ッ!?」
「まあ、致命傷だけど」
タコは、さすが一部の地域で『デビルフィッシュ』と呼ばれてるだけのことはある悪魔のような言葉でバロンを躊躇させ、そこに向かって黒い水鉄砲を発射した。
不健康男が使ってた時より遥かに強い!
というか、あの黒い水、何かと思ったらタコスミかよ!?
道理で変な臭いがすると思った!
「ハッ!」
俺はタコスミ鉄砲を盾で止める。
まだまだ、この程度ならどうということはない
総重量10トン以上のユリア戦車を舐めるな!
「……お前、やるタコね。ボクが直接出てきたのに、普通に止められるとは思わなか…………ん? もしかしてお前、トリックスターが言ってた、やたら硬い女騎士タコか?」
そこでタコは俺を改めて注視して、驚いたような顔になった。
いや、タコの表情なんざわからんけど。
なんとなく、雰囲気的に。
「一年以上も続報が無いから、どこぞで四大魔獣にでも踏み潰されたと思ってタコが……まさか、よりにもよって、
タコは「くっくっく」的な雰囲気で「タコタコタコ」と笑い、どこか愉快そうな雰囲気で俺を見た。
笑い声までタコかよ。
作者が二秒で考えたような雑なキャラづけしやがって。
「面白いから、少し遊んでやるタコ」
そうして、タコはパチンッと指を鳴らした。
自分には指が無いから、寄生してる感じの不健康男の指を鳴らした。
それを合図として、兵士達と戦っていたスーパー貧民星人達がこっちに来る。
そして、タコを守るように俺達と対峙した。
兵士達は既にボコボコにされてて、こっちには来れない。
しっかりしてくれ正規兵!?
「なっ!? 君達、何故そいつを守る!?」
「ボクの能力は『人間を操る力』。ボクの言葉に心から賛同した人間を強化し、自我を奪い、ボクの手駒にする。
そういう意味だと、適当にこいつらの心に響く言葉を吐かせるスピーカーとしては、こいつはそこそこ役に立ったタコ」
「貴様……!! どこまで彼らを弄べば気が済む!?」
バロンが咆える。
怒髪天を衝く勢いで咆える。
内なるユリアもキレてるし、俺としても胃酸の流動による吐き気をハッキリと感じるくらいに不快だ。
画面ごしに見るのとは全然違う。
チャラ男やピエロに始まり、この二年弱で外道は何度も見てきたが、見る度に心に刻まれる。
生の『悪意』の醜さ、恐ろしさ、悍ましさを。
「毒を持って毒を制すと言ってほしいタコ。まあ、人間なんかにわかられたくもないタコが。━━行け」
「「「アアアアアアアアアアアアッッッ!!!」」」
スーパー貧民星人達が襲いかかってくる。
理性を感じない目で、ヨダレをまき散らしながら。
酷ぇ……!
マジで人をなんだと思ってやがる……!
「先輩! どうすんのよ!?」
「心情的には殺さずに制圧したいんだが……そんな余裕はないかもしれないな……!」
多数の敵を相手にする時のお約束として、ラウンと一緒に俺の背後に駆け寄ってきたミーシャの言葉に、そう返すしかない。
嫌だが、マジで嫌だが、この世界で生きる以上は甘いことばっかり言ってられない。
「基本は生け捕りで頼む! だが、自分や仲間の身が危ないと思ったら、躊躇なくやれ!」
「わかったわ!」
「はい!」
作戦名、二重の意味で『いのちだいじに』だ!
「まずは生け捕り優先! ラウン、頼む!」
「わかってます! えい!」
ラウンが向かってくるスーパー貧民星人達に向けて、煙玉を投擲する。
状態異常を誘発させる粉末の入ったやつだ。
これで一発KOされてくれれば楽だったんだが、さすがにそう上手くはいかないみたいで、スーパー貧民星人達は元気に拳を振りかぶってきた。
「アアアアアアアッッッ!!!」
「ふっ!」
その拳を盾でガード。
小柄な二人を超大型の盾の防御範囲内に庇いつつ、剣は抜かずに盾と拳を振り回して、さっきと同じようにスーパー貧民星人達をノックアウトさせていく。
だが、ここでさっきと違う事態が発生。
「そら」
「なっ!?」
タコが触手を巨大化させて振り回し、スーパー貧民星人達ごと俺を叩き潰そうとしてきた。
俺は防げるが、スーパー貧民星人達は死ぬ!
おのれ、外道戦法!
「ミーシャ!!」
「『
だが、俺じゃ防げなくとも、ミーシャなら防げる!
ミーシャの炎弾が触手に命中し、炸裂して弾き返す。
触手の表面が焼けて、良い匂いがしてきた。
そのままタコ焼きになっちまえ!
「うぉおおおお!!」
そして、俺達がスーパー貧民星人と一部の触手の相手をしている間に、バロンがタコの本体に向けて突貫していた。
「『凍てつけ、霜の斬撃!』━━『
バロンの振るう仕込みステッキの剣から氷属性の斬撃が飛びまくる。
だが、あの触手、見た目に反して硬いのか、斬撃が殆ど通ってねぇ!
いや、ミーシャの魔法ですら表面を焼く程度なんだから効かなくて当然か。
ネタにしか見えなくても、八凶星の称号は伊達じゃない……!
「くっ!?」
「バロン殿! その体ではキツい! 一度下がれ!」
「ぬぅ……! 致し方なし……!」
不健康男との戦いで傷ついているバロンが、苦み切った顔で一旦下がって俺の後ろへ。
そこですかさずラウンが回復薬を差し出して治療を始める。
回復薬はぶっかけても効果があるが、できれば飲んだ方が効くのだ。
「それは悪手タコ」
触手を引き受けていたバロンが下がったことで、八本全ての触手が俺に向かってくる。
つまり、俺に襲いかかってくるスーパー貧民星人達ごと、八本もの触手の暴力が蹂躙するわけだ。
「『
「えい! えい! えい!」
「ふん!!」
それをミーシャが短縮詠唱の炎弾でできるだけ弾き、ラウンが状態異常の煙玉を連投し、俺もできるだけスーパー貧民星人達を庇いながら戦った。
盾に張りついてきた人を全力で弾き飛ばし、触手の攻撃範囲から逃がす。
殴りにきた人を右脇に抱え込んで、絞め落とすと同時に触手から守る。
タックルしてきた人の頭を掴んで地面に叩きつけ、気絶させると共に覆いかぶさって我が身を盾にする。
ギリギリだが、どうにか今のところは犠牲者ゼロだ!
「タコタコタコ! ゴミがゴミを守る姿は滑稽タコね! トリックスターのジョークより、よっぽど面白いタコ!」
さりげなくディスられてんぞ、あのピエロ!
「もっと踊るといいタコ! 『
凄い名前の技だなおい!?
必殺スキルの数々より遥かに高い厨二濃度を感じる!
そのくせ撃ってきたのは、さっきよりちょっと強い程度のタコスミ水鉄砲だ。
バカにしとんのか!?
「む……やるタコね。ボクの最終必殺奥義を止めるとは」
最終必殺奥義だったんかい!?
至極普通に止められたぞ!?
もうこいつ、本格的に俺以上のネタキャラにしか見えなくなった。
なんで、俺達はこんなのに苦戦してるんだ……!
「!」
そんな憤りに支配されそうになった瞬間、風向きが変わった。
スーパー貧民星人達が突然崩れ落ちる。
地面に倒れ伏した彼らは、ビクビクと陸に打ち上げられた魚みたいに痙攣して動かなくなった。
「や、やりました! 効きましたよ!」
「でかした、ラウン!」
ラウンの麻痺毒が効いたのだ!
いくら強化されてるとはいえ、元がそこらのザコ魔獣にすら劣る痩せこけた人達。
ラウンお手製の毒には耐えられなかったらしい。
チャンス!
「チッ。本当に人間は使えないタコ。こうなったら最終必殺奥義すら超える、超究極最強奥義で……」
「バロン殿! 二人の護衛を任せていいか!」
「ぬ! 何か策があるのかね!? 任せたまえ!」
「感謝する! 二人とも、フォーメーションTだ! 援護を頼む!」
「「了解!」」
俺はバロンに二人の盾役の役割を任せ、タコに向かって全力ダッシュで突撃した!
説明しよう!
フォーメーションTとは、俺が単騎で敵に
脳筋戦法と言うことなかれ。
ちゃんと後衛の二人が攻撃に晒されないだろう状況を見極め、二人を攻撃させないような立ち回りを心がけてる立派な戦術だ。
ぶっちゃけ、このカンスト耐久力の最大の利点は、硬いけど吹っ飛ばされかねない中途半端な盾になることじゃなく、ゾンビアタックを仕掛けられる点だと思ってる。
できれば盾の必殺スキルが使える正式な盾役を仲間にして、俺は魔法で敵もろとも吹き飛ばしていい突撃兵になりたいんだが、勧誘が上手くいってないから、なかなか難しいのが現状だ。
「バカめ! 一人でどうにかなるわけないタコ!」
タコが八本の触手を振り回し、俺と後ろの三人を同時に狙う。
同時にタコの眼前に黒い水玉が生まれ、次から次へと補充されるタコスミがどんどん一つの水玉に圧縮されていく。
どう見ても、さっきの技より強そうだ。
より強い技があるなら、最終必殺奥義とか言うなし!
「タコタコタコタコタコタコッ!!」
触手の嵐が激しさを増す。
これで俺を弾き飛ばして、後ろの三人を倒れるスーパー貧民星人達ごと消し飛ばすのが狙いか。
考えてやがる。
「ぬん!!」
「『
「えい!」
その触手を、後ろから飛んできた炎弾と爆弾ができるだけ弾いてくれた。
向こうに叩きつけられる触手も、バロンが凄い勢いで弾いてるのか、触手にどんどん氷が付着していく。
そして……
「むぅ……!」
三人の攻撃(特にミーシャの)によって触手が傷つき、機能不全に陥る。
タコはその対応を迫られた。
不健康男の体を使って、特に傷んで殆ど動かなくなった触手を根本から切断。
新しく生やして再生させる。
やっぱりあったか再生能力!
某マッハ20のタコが脳裏に浮かんでたから、あるんじゃないかとは思ってた。
だが、自切と再生とチャージ中の圧縮タコスミ弾に意識を持っていかれたせいで、残った触手の操作がおざなりになってんぞ!
「捕まえたぞ!」
「ッ!?」
その瞬間を狙い、俺は盾を手放してタコの触手を両手でガッチリと掴む。
火力強化系のスキルを持たない俺が、このマッスルパワーを一番効果的に発揮できる形。
タコはすぐに俺に掴まれた触手も自切しようとしてきたが、遅いわぁ!
「ふん!!」
必☆殺!!
女騎士マッスル綱引き!!
掴んだタコの触手を、マッスルに任せて思いっきり引き寄せる!
「タコォ!?」
それによってタコは宙を舞い、俺の目の前にまで引きずり出された!
「バ、バカめ! これじゃ良い的タコ!」
しかし、おかげでタコはゼロ距離から超究極最強奥義とやらを放つチャンスを得た。
タコは笑いながら(やっぱり表情が読めないから多分)、奥義を放つ。
俺はタコの頭を掴んで引き寄せ、それが後ろの三人に向かわないように、照準を自分の胸元に固定させた。
「死ね! 『
「レ、レディーーーーー!?」
またしても凄い名前の圧縮タコスミ砲が放たれ、バロンの悲鳴が響き渡る。
「タコタコタコ!」と、タコの笑い声が響く。
だが、お前忘れてんじゃねぇか?
「貴様、あのピエロから私のことをなんと聞いた?」
圧縮タコスミ砲が放たれ終えた後、残ったのは……当然のように無傷の俺。
タコの笑い声が止まり、顔が青くなっていった。
今回はお前の顔色がわかるぞ。
なんせ、体全体が青くなってるからな。
「『やたら硬い女騎士』。自分でそう言った私の耐久力を侮ったな」
「タ、タコッ!?」
俺は不健康男の首に噛みついてる、タコの口の部分を掴んだ。
確か、この人は生きてるんだったな。
「『洗教星』オクトパルス。外道の報いを受けるがいい!」
「タコォオオオオオオオオオオオッ!?」
必☆殺!!
女騎士さけるチーズ風味クラッシャー!!
掴んだ部分から、タコを真っ二つに引き裂く!
不健康男の頭にヘルメットのごとく装着されていたタコは、それによって無惨な残骸と化した。
不健康男は……ボロボロだが、どうにか生きていた。
後ろを振り向いて見たところ、倒れたスーパー貧民星人達の中にも死者はいないように見える。
よっしゃぁ!
「一件落着だな」
「いや、化け物かねぇーーーーー!?」
最後に、俺のネタキャラ耐久力を見た奴共通の反応をバロンが披露したところで、タコとの死闘は終わった。
ネタキャラ女騎士VSネタにしか見えないタコ。
勝者、ネタキャラ女騎士!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます