18 最重金属の巨人
「━━━━━━━」
拳を押し返された黒ゴーレムは、無機物らしく何の感慨も見せず、自動的って感じで次の攻撃を繰り出してきた。
上から押し潰すような左拳。
さっき俺が防いだのと、ほぼ同じ攻撃。
素材が良くても、デカくても、やっぱりゴーレムはゴーレムか。
こいつらは決まった動作をなぞるロボットみたいにしか動けない。
たまに例外がいるらしいが、多分こいつは型通りタイプだろう。
今回は守るべき相手が近くにいるわけでもないので、素直に後ろに下がって避ける。
せっかくのカンスト耐久力がもったいない気もするが、ゴーレムの攻撃って重い代わりに遅いから、避けた方が楽なことも多々あるのだ。
「ハッ!」
そして、後ろに下がった空いた距離を助走距離に使って、加速!
制御できるようになった最高速度を拳に乗せて、黒ゴーレムの胸部を殴りつける!
ゴォォン! というデカい音が響き渡ったが、黒ゴーレムは無傷。
体勢すら欠片も崩れていない。
チッ!
これじゃダメか!
相変わらず、自分の攻撃力の低さにはうんざりする。
この世界に来てからの半年ちょっとで俺も少しは成長し、最近ちょっとアップグレードしたようなユリアの感覚も相まって、大分鋭い攻撃ができるようになってきたんだが、それでも、こういう耐久力のある奴相手には全然足りない。
記憶の中のユリアとか同僚の騎士達とかは、必殺スキルを使わなくても、もっと筋力以上の攻撃ができてたような気がするんだがなぁ。
やっぱり武器スキルの有無か、それとも武器の質か。
武器スキルはもうどうにもならないとしても、そろそろ武器くらいはまともなのを持つべきかもしれない。
下級冒険者のお給料で買えるような剣は、この馬鹿力で振るうと数回で砕け散るって理由で、最近は拳や盾でぶん殴るスタイルが板についてしまったが、お金が貯まったら絶対に良い剣を買おう。
ユリアは剣術もめっちゃ頑張ってたんだから、その腕が死蔵されるとか、哀れにもほどがある。
「せい!!」
そんなことを思いながら、俺は黒ゴーレムが拳を空振って上体が泳いだタイミングで、全マッスルを使って奴の足を払った。
どんなに重い奴でも、バランスが崩れた瞬間なら倒せる。
柔道をかじってた親父の言葉だ。
なんかカッコ良かったから耳に残ってたんだが、ホント無駄な経験ってやつはないな。
「ハァアアアアアッ!!」
そして、俺は倒れた黒ゴーレムの胸に飛び乗る。
その胸に思いっきり腕を突き刺し、強引に左右に引きちぎる!
パンチは重さが足りなくて効かなかったが、こうして直接掴んでしまえば重さは関係ない。
あとは純粋な馬力がものを言う。
ぶっちゃけ、守るべき仲間と一緒に戦うんじゃなければ、俺は組みついての絞め技が一番強いまであるからな。
その証拠に、黒ゴーレムの胸部が、ピシリ、ピシリ、という音を立てて、どんどんヒビ割れていく。
「━━━━━━━━━」
黒ゴーレムが抵抗するように、胸の上の俺を何度も何度もぶっ叩いてくるが、効かぬ!
こちとら防御力だけは世界最強の自信があるんだよ!
おら!
大人しく俺の
「ふんッ!!」
必☆殺!!
女騎士マッスルブレイク!!
俺の腕がゴーレムの胸部をぶっ壊してご開帳させ、胸の奥にあるゴーレムの弱点、核である魔石を露出させる。
そして、最後にむき出しの弱点に向けてパンチを一発。
心臓部を破壊されたことによって、ゴーレムは糸の切れた人形のように機能停止した。
攻撃の重さには驚いたが、終わってみれば大して強くなかったな。
攻撃力と防御力は凄いが、動きは単純で遅かった。
Cランク以下には脅威かもしれないが、Bランク以上なら勝てなくても負けはしない相手だったと思う。
多分、チャラ男でもどうにかなっただろうな。
攻撃力不足で勝てないが、黒ゴーレムの攻撃もチャラ男には当たらなかったはずだ。
Aランクパーティーが苦戦したっていうのも、あくまでも攻撃力不足で倒すのに時間がかかったってだけの話だろう。
正直、化け猫の方がよっぽど強い。
「よし。終わったぞ!」
チャラ男を思い出したので、あの時の反省を踏まえ、ちゃんと黒ゴーレムが死んでる(壊れてる?)ことを指差し確認してから、ミーシャとラウンの方に振り返る。
ミーシャは慣れたように「お疲れ様」と言って、普通のゴーレムであれば一番高く売れる魔石の回収を始め。
ラウンはアゴが外れたような顔で絶句していた。
「ユ、ユリアさん、大丈夫なんですか……?」
「ああ。私は頑丈さにだけは自信がある。せっかく買ったばかりの鎧はボロボロだが、体は無傷だ」
「え? 化け物?」
「一応人間だ」
この戦い方を見た奴は、必ずそんな反応になるな。
いや、わかるけれども。
俺だって目の前にこんなのがいたら、腰を抜かして命乞いする自信があるし。
「魔石の回収終わったわよ。やっぱり、凄かったのは材質だけで、中身はこの前のジャイアント・ゴーレムと変わらないわね。サイズは大きいけど、純度が低いから杖には使えないわ」
「そうか。ありがとう」
ミーシャが回収した魔石の欠片を詰めたと思われる袋を片手に、そんな報告をしてきた。
特定の場所や特定の魔獣の体内から取れる魔石には色々と使い道があるみたいなんだが、一番わかりやすいのが魔法使いの杖の素材にすることだ。
加工法によっては、魔石は魔法の威力を跳ね上げる発射装置に生まれ変わる。
ミーシャの魔法がステータス以上の威力を誇ってる理由の一つも、学園時代の恩師にもらったっていう、かなり高品質な赤い魔石を使った杖のおかげだからな。
そう考えれば、いかに武器が重要なのかがわかる。
やっぱり、近いうちに良い剣も買おう。
だが、今はその前に……
「ラウン、悪いが、今日の授業はここまでにして帰還してもいいか? 早くこれをガーロック殿に届けたい」
「……凄い嬉しそうな顔ね。先輩のそんな顔、初めて見たわ」
なんかミーシャが微妙そうな顔してる。
そんな顔しなくてもええやん。
クール系(笑)にだって、はっちゃけたい時はあるんやで。
「あ、えっと、き、帰還ですね。わかりました。こんな異常事態が起きた以上、ダンジョンにい続けるのも危険ですし……って、ええ!? それ丸ごと持って帰るんですか!?」
「もちろんだ。できれば余剰分で加工費まで
黒ゴーレムの足を持って引きずる。
くっ……! やっぱり、かなり重いな。
自分達が若干勝ってる時の綱引きくらい重く感じる。
これを地上まで運ぶとか、この体じゃなかったら確実に体力が切れるだろう。
だが、ただでさえ体力のあるユリアの体に、『状態異常耐性:Lv99』による疲労への耐性まであるんだ。
根性さえあればやれるはず。
ぬぉおおお!!
頑張れ俺!! 頑張れぇ!!
そうして少しずつ、少しずつ、二人の歩くスピードと同じくらいの速度で黒ゴーレムを引きずっていく。
ラウンは最初、引きつった顔で冷や汗を流していたが、平然としてるミーシャを見てるうちに慣れたのか、索敵と罠探しに集中してくれた。
というか、ラウンがいるだけで道中の安心感が段違いな件。
ラウンは色んなことが高水準でできて当然の『まとも』な高ランクパーティーではお荷物かもしれないが、特化型二人のキワモノパーティーである俺達にとっては、割れ鍋に綴じ蓋なのでは?
一時的な教師じゃなくて、ちゃんとパーティーを組んでくれるように頼んでみるか?
いや、でも、それだとあの良い奴らの心遣いを無為にすることになるよな。
俺達と組んだからって、ラウンが劇的に活躍できるとは限らない。
むしろ、守るべき対象が二人になったら俺がポカをやらかして、死なせてしまう未来だって見える。
迂闊なことは言えない。
ミーシャとも相談して、しっかりと審議した上で決めよう。
「でも、ホントに、なんでグラビタイト・ゴーレムが上層に……」
地上への帰還が成功した時、ふとラウンがそんな呟きをもらした。
なんかフラグっぽいセリフだなとは思いつつも、化け猫の一件を経験した俺とミーシャは、まあ、そういうこともあるだろうと思ってスルーしてしまった。
これが本当にフラグだったと気づいたのは、しばらくしてからのこと。
気づいた時、曲がりなりにも長年冒険者をやってきたベテランの勘は侮っちゃいけないのだと、俺達は思い知ることになる。
◆◆◆
「ふんふんふ〜ん♪」
ギガントロックの町近くのダンジョン。
その最深部にて、
ピエロのような姿をした一人の男が、何かを弄りながら鼻唄を歌っている。
「よしよし。やっぱり、
前回の『猫』を始め、今までのダンジョンは理想とはほど遠い結果にばかりなってしまいましたが、今度という今度こそいけそうで嬉しいですねぇ!」
ピエロは興奮しながら作業の手を進める。
自分達が生まれ持った使命を達成するために。
己の存在意義を証明するために、作業の手を進める。
「さぁて、もう頑張りしますかねぇ。全ては、━━魔王様のために〜♪」
全ての元凶と、異端の女騎士の邂逅は近い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます