14 お約束っぽい何か

 どこの冒険者ギルドにも併設されている酒場の一角を、やたらとふんぞり返ってる感じで占領してる一団がいた。

 5人組のパーティーで、リーダーっぽい剣士が一人、盾を持った戦士が一人、魔法使いっぽい女が二人。

 そして、彼らの正面に立たされてる、気弱そうな中性的な少年が一人。


「え……?」

「聞こえなかったのか? お前は追放だって言ったんだ、ラウン」


 気弱そうな少年に、リーダーっぽい剣士が高圧的な態度でそう告げる。

 彼は少年にめっちゃ冷たい目を向けており、これから理不尽な言葉が飛び出してくると確信できるような状態だった。


「確かに、お前は優秀だ。マッピング、索敵、罠の発見、その対処、アイテム作り、炊事、洗濯、掃除、なんでもできる。

 そういう分野において、お前ほど優秀な奴は見たことがない」


 と思ったら、予想外に少年を褒め称える剣士。

 周りのメンバーも、うんうんと同意するようにうなずいてる。

 あれ?

 こいつら、もしかして良い奴らか?


「だが、お前の弱さだけは看過できない」


 しかし、そこで剣士の視線がもう一段階冷たくなった。

 少年はビクリと震え、他のメンバーは同情するような目を向ける。


「戦闘になるとお前は足手まといだ。力も弱い、足も遅い、魔法が使えるわけでもない。何よりの問題は、ピンチになると怯えて動けなくなる弱い心チキンハートだ。端的に言って、お前は冒険者に向いていない」


 あまりにも真っ当な言葉だった。

 追放される理由として、これ以上はないってくらいの真っ当な理由だった。

 少年は、ガーン! って感じで落ち込んでいるが、剣士に対する怒りは見えない。

 自覚してたのかもしれない。


「俺達もAランクになった。もうお前を庇いながら戦えるような領域じゃない。

 餞別は弾む。新しい仕事も探しておいてやる。絶対にお前はそっちの方が大成する。

 ……だから、お前はもう冒険者を引退して穏やかに暮らせ」


 しかも、アフターフォローまで完璧じゃねぇか。

 冷たい視線なんて俺の勘違いだった。

 多分、元々ああいう顔なんだ。

 人を見た目と第一印象で判断してはいけないというお手本のような奴なのだ。


「ッ……!」

「ラウン!?」


 だが、それでも少年には納得できない何かがあったようで、涙を浮かべながら、ギルドから走り去ってしまった。

 剣士以外のパーティー全員が、心配そうに彼の背中に手を伸ばす。

 めっちゃ良い奴らじゃねぇか。


「やめろ!!」


 そんな良い奴らを、リーダーっぽい剣士が一喝して止めた。


「わかってるだろう。これがあいつのためだ」

「で、でもよぉ、グラン……」

「くどい! 半端な優しさはあいつを苦しめるだけだ。本当にあいつのことを思うなら、傷つける覚悟を持て」


 そう言う剣士の拳は強く握りしめられ、爪が食い込んでポタポタと血が流れていた。

 顔は相変わらず絶対零度の表情だが、もう最高に良い奴にしか見えない。

 お友達になりたいタイプだ。


「行くぞ。とっととダンジョンを攻略して、この町を出る。……気の迷いが生まれる前にな」

「グラン……」

「グラン様……」

「くそっ!! 一番辛いはずのお前にそんなこと言われたら、何も言えねぇじゃねぇか!!」


 そうして、良い奴らはギルドを出ていった。

 人を見下したような絶対零度の視線の剣士。

 どう見ても半年前のホモどもの同類にしか見えない、悪人面の盾持ち。

 悪女っぽい雰囲気の魔法使いの女に、清楚系ビッチっぽい雰囲気の治癒術師っぽい少女。


 見た目はそんなんなのに、印象と内面が180度違う。

 うんこの見た目した極上カレーみたいな人達だ。

 今度会ったら、仲良くなりたい。


「先輩、何止まってんの? 行くわよ」

「あ、ああ」


 ミーシャに促されて、受付に行く。

 そこでとりあえず、うんこの見た目したカレー、じゃなくて、あの良い奴らのことを聞いてみた。


「ああ、あの方達は最近Aランクに上がったパーティー『グラウンド・ロード』ですよ。とっても仲が良かったんですけど……あんなことになって悲しいですね」


 おい、パーティー名。

 あのリーダーっぽい剣士と、追放された少年の名前が入ってるじゃねぇか。

 もう涙腺緩みそうだわ。

 けど、涙腺緩ませる前に、こっちの目的も果たさなくては。


「実は、私達は今、手伝いと引き換えにダンジョンでの戦い方を教えてくれそうなパーティーを探しているのだが、彼らに頼むことは可能だろうか?」

「え? う、うーん……難しいと思いますよ? 性格面では可能性ありますけど、本当に早くこの町を出たいみたいですし、そんな時間は取ってくれないと思います」

「そうか……」


 まあ、そう都合良くはいかないか。


「一応、打診があったことは伝えておきますね。それと、彼らに断られた場合に備えて、他の声をかけられそうなパーティーも探しておきます」

「助かる」

「いえいえ〜。初日でいきなりジャイアント・ゴーレムの素材を持ち帰った期待の方々ですしね。これくらいはお手伝いさせていただきますよ〜」


 ぽわっとした笑顔で、受付嬢は仕事を快諾してくれた。

 ここの受付嬢は、ゆるふわっぽい見た目だ。

 そして、最初の町で会った受付嬢と同じく、おっぱいが大きい。

 色んな意味で嬉しい。


「それと、装備の新調がしたいんだが、良い武器屋を知らないか? 鎧と盾の品揃えが良いと嬉しい」

「それなら、ガーロックさんのところがオススメですね。待っててください。今、簡単な地図を描きますから」

「何から何まで助かる」


 やっぱり、Cランクともなると、ギルドの対応も違うな。

 確か、Cランク冒険者は中堅。

 見習いEランクバイトDランクを経て、ようやく正社員になれた感じだ。

 バイトと正社員じゃ、そりゃ待遇も違ってくる。


 そうして、色々と便宜を図ってもらい、武器屋への地図をもらってからギルドの外へ。


「やはり、コツコツと実績を積み上げて正解だったな」

「いや、あの受付嬢、先輩の顔が好みなだけだと思うわよ」

「む」


 マジか。

 じゃあ、そのうちベッドにお呼ばれとかしないかな?

 あ、残留思念ユリアから断固として断るみたいな感情が伝わってきた。

 これに逆らうとロクなことがない。

 どうやら、巨乳美人とのキャッキャウフフの夢はモヤと消えたようだ。

 心の底から無念……!

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