4 これからどうするか

 おっぱい様に悩殺され、水場で色々と遊んでしまった後。

 ユリアの感覚が混ざっちゃったせいなのか、途中でなんか虚しいという感情が湧いてきてしまい、ため息を吐きながら水浴びを終わらせ、ついでにボロボロの服も洗った後、俺は考えた。

 ずばり、これからどうするのかを。


 煩悩に揺れはしたが、元の世界に帰りたいという思いは消えていない。

 妹を始め残してきた家族もいるし、こんな魔獣あふれる危険な世界に永住したいとは思わないからな。


 では、帰還のために何をすればいいのか。

 とりあえず、絶対にやらなければならないのは、ユリアの故郷の仇である虎と、その裏にいる魔王の討伐だ。

 これはユリアの境遇に同情したからっていうのもあるが、それ以上に混ざってしまったユリアの残留思念が、滅茶苦茶せっついてくるからっていうのが最大の理由。


 そのせっつき具合は恐ろしいの一言だ。

 ちょっとでも俺が仇討ちなんてやりたくねぇなとか思ったら、容赦なく大切な人達が死んだ時の記憶と感情が流れ込んできて、壮絶な頭痛と吐き気に襲われることになる。

 こんなもんを抱えながら生きていける自信はない。

 よって、奴らの討伐は最優先事項だ。

 それに、もしかしたら、ユリアの未練を晴らすことで俺は肉体から解放されて、元の世界に帰れるかもしれないし。


 というわけで、まずは魔王討伐に向かって突き進むとして。

 そのために必要なこととは何か。


 まず、俺個人で魔王を倒すのは多分無理。

 ゲーム要素だけが全てじゃないってたった今気づいたところだから絶対に不可能とまでは言わないが、まあ、十中八九無理だろう。

 相手の攻撃も効かないが、こっちの攻撃も効かない相手をどうやって倒せと?

 しかも、魔王は物理で殴るしかないこっちと違って手数も豊富。

 縛り上げられて生コンクリート詰めエンドが見える見える。


 一人じゃ勝てない。

 だったら、仲間を集めて一緒に戦うしかない。

 大本命はゲームのストーリーと同じように、勇者パーティーに参加することだな。

 ネタとはいえレベル99だし、役に立たないってことはないはずだ。

 ないはずだと思いたい。

 ゲームだとこのネタユリアは、魔王戦において仲間達におんぶにだっこだったという事実は考えないようにする。

 ゲーム要素だけが全てじゃないさ(震え声)。


 さて、そうなると、次はいかにして勇者パーティーに入るかだが。

 ゲームだと、どういう経緯だったっけ?

 ユリアは序盤で仲間に加えられるキャラだったが……ああ、そうだ。

 確か、勇者が最初の仲間である聖女と一緒に旅に出た後、初めに立ち寄った町で、凄腕の冒険者として名を馳せてたんだ。

 そこで仲間にするイベントが起きて勧誘って流れだったはず。


 ちなみに、こうして仲間になった時のユリアのレベルは25だったんだが……ユリア弱すぎないか?

 故郷では騎士の位も持ってたし、次代の王国最強を担う天才って呼ばれてたのに。


 しかも、魔王討伐時に推奨される勇者パーティーの平均レベルは70だぞ。

 急成長しすぎじゃね?

 ゲームならそんなもんだと思って疑問に思わなかったが、こうして現実になってみると違和感がある。

 なんか、カラクリがありそうだな。


 まあ、その手の考察は後でするとして。

 今は勇者パーティーへの加入方法だ。

 ゲーム通りにいくことを期待するんだったら、冒険者になって活躍して、ゲームと同じ時期に同じ町に行けばいい。

 だが、ここで大問題が一つ。


 肝心の町の名前を忘れた。

 ついでに、勇者召喚の正確な時期もわからない。


 ……詰んだのでは?

 いやいや、だって仕方ないじゃん!

 好きなゲームっていっても、プレイしてたのは数年前だぞ!

 セーブデータ消して最初からやったこともあったけど、そういう時って大事なシーン以外はスキップするじゃん!

 序盤の町の名前とかいう、それ以降のストーリーで一切使われない情報なんて覚えてられるかい!


 勇者の召喚時期に関しても仕方ない。

 せめて、ユリアの故郷壊滅がストーリー開始の何年前か正確にわかればよかったんだが、正確な数字を俺は忘れた。

 やっぱり、人選ミスだろこれ。

 チェンジを要求する。


「チェンジ。……ダメか」


 要求しても天は聞き届けなかったので、別の切り口から考えてみる。

 多分、本編開始時点のユリアの年齢は20歳前後。

 どっかのまとめサイトに、そんな感じの情報が乗ってたような気がするから、それを信じる。


 対して、流れ込んできた記憶から判断するに、現在のユリアは18歳。

 なので、勇者召喚は大体2年後くらいだと考えておこう。

 そのタイミングで、勇者の召喚国である『メサイヤ神聖国』に売り込みにいくってのはどうだ?


「悪くない、か?」

 

 元騎士のユリアなら身元もハッキリしてるし、門前払いはされないはず…………いや、ダメっぽいな。

 ユリアの残留思念から否定的な考えが浮かんできた。

 彼女の故郷はメサイヤ神聖国とかなり離れてるし、ほぼ交流も無かったから、元騎士って立場で信用してもらうのは無理っぽい。


 あなた達が名前も知らない国で騎士やってました。

 だから、お宅の最重要部隊に入れてくださいって言って、採用されると思うか?

 無理だろ。

 ユリアは国内ではそこそこ名前が通ってたが、国外での知名度は皆無みたいだしな。

 ご当地アイドルみたいなもんだ。


 なら、必要なのは門前払いされないだけの地位か?

 それを一番手っ取り早く手に入れられるのは……結局のところ冒険者だ。


 冒険者とは、世界中で人を襲っている魔獣を討伐したり、その魔獣を生み出し続けるダンジョンを攻略したりして生活している人達らしい。

 ユリアの記憶によると、登録さえすれば誰でもなれるもんだから、正規兵である騎士や兵士からはロクな教育も受けてない荒くれ者として見下されてるっぽい。


 ただし、一部の『英雄』と称されるほどの最上級冒険者だけは羨望の目で見られる。

 ゲームのユリアもそんな感じの最上級冒険者を目指し、同じ最上級冒険者の仲間とパーティーを組んで魔王を討伐するつもりだったはずだ。

 結局は序盤の勇者に可能性を感じて勇者パーティーに入ったが、その出会いがなければ、夢の最上級冒険者パーティーが結成されていたかもしれない。

 冒険者なら正規兵と違って小回りも利くし、職務に縛られて仇討ちができないなんてこともないはず。


「ふむ。これなら」


 よし。俺はこの本家ユリアの作戦にあやかろう。

 それにこの作戦なら、たとえ勇者パーティーに入れなくても、勇者の仲間にはいないような、このネタキャラ性能と相性バッチリの相棒が見つかるかもしれない。

 割れ鍋に綴じ蓋的な。

 プランBまで完備してるとは、なかなかにナイスな作戦じゃないか。


「決まりだ」


 そうと決まれば冒険者になろう。

 ユリアの記憶によれば、大きな町には大概冒険者ギルドがあるそうだから、そこで登録だ。

 第一目標は決まったな。

 まずは、どこか大きな町を目指して出発……


「……いや、待てよ」


 大きな町ってどこだ?

 というか、ここはどこだ?

 ユリアの記憶を参考にしようにも、彼女は圧倒的な攻撃範囲を持つ化け物から逃げるためにガムシャラに走ったもんだから、自分の現在地なんて、とっくの昔に見失っている。

 ………………あれ?


「まさか……!?」


 悲報。

 俺氏、異世界生活開始直後から遭難状態だった件。

 先のことなんか考えてる場合じゃなかった。

 まずは今をなんとかせねば!

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