脳筋ネタキャラ女騎士(防御力9999)!
虎馬チキン
1 プロローグ
「このゲームも結構遊んだなー」
ベッドに寝転んだ状態でゲーム機をポチポチやりながら、俺はそんな独り言を漏らした。
今やってるゲームは、数年前にリリースされ、当時は結構なヒットになった王道バトルRPG『ブレイブ・ロード・ストーリー』だ。
魔王の脅威に晒された世界に、勇者として異世界から召喚された主人公。
その主人公を操作して戦い、仲間達と共に魔王討伐を目指すという、清々しいほどになんの捻りもないストーリーだが、当時はそういうのが一周回って新しいみたいな感じで評価されてた。
グラフィックも結構凝ってたし、ストーリーも良かったし、バトルシーンも迫力あったし、やり込み要素も中々だったしと、総合して普通に面白かったので、ヒットしたのも頷ける出来だったと思う。
俺も当時はかなりハマってたわー。
だが、そんな熱意も今は昔の話だ。
ひと通り遊んで満足した後は押し入れの肥やしになって、たまに思い出したかのように引っ張り出して遊ぶだけになった。
世代遅れのポ◯モンみたいな扱いだ。
たまにセーブデータ消して最初からプレイしたり、やり込み要素をやり込みまくったりすると普通に楽しいから、中古として売り払ったりはしてないあたりもそっくり。
で、今はそんな感じで久しぶりに押し入れから引っ張り出して遊んでる最中だな。
今回はデータは消さずに、やり込み要素の方で遊んでる。
具体的には仲間の育成だ。
このゲームでは、そこそこの人数のキャラクターを仲間にできる。
その中から勇者を含めて4人組のパーティーを作って戦うシステムだ。
王道だな。
そして、メインストーリークリア後は、勇者以外をパーティーのリーダーとして遊ぶことができるようになる。
これも王道だな。
王道一直線すぎて、たまには変化球投げろと言いたくなるくらい王道だな。
まあ、それはともかく。
今育成してるのは俺が一番好きなキャラ、孤高の女騎士『ユリア』だ。
ストーリーの序盤で仲間になるメインキャラの一人で、金髪碧眼の年上クール系ヒロインである。
俺がユリアを好きな理由は簡単だ。
見た目が一番好みだった。
巨乳は正義(異論は認める)。
だが、ユリアは決して
全キャラクターの中でも屈指の物理系ステータスの高さを誇り、特に耐久力においては並ぶ者がいない猛者だ。
パーティーの盾役として持ってこいのデキる女なのだ。
個人的「くっ、殺せ!」と言わせてみたいキャラクターランキング1位の有能女騎士なのである。
しかし、そんな彼女にも欠点はある。
物理系ステータスの高さに反して、魔法系ステータスである『知力』が、どれだけ育てても低空飛行なのだ。
そのせいで、ユーザーからは脳筋娘だの、ポンコツ女騎士だの、クール系(笑)だのと好き勝手に言われていた。
そんなポンコツ疑惑のかかった有能女騎士ユリアを普通に育てた場合の最終ステータスが、こんな感じだ。
━━━
ユリア・ストレクス Lv99
HP 5500/5500
MP 1970/1970
筋力 3155
耐久 5625
知力 500
敏捷 2780
━━━
うん、知力がもう目に見えて低い。
これじゃ脳筋と呼ばれても致し方ないレベルだ。
だがしかし。
信じられないことに、これでも育成方法によってかなりマシになった方なのだ。
このゲームの育成システムは、まずレベルを上げた時にキャラごとに異なる数値の基礎ステータス上昇があり。
次に、プレイヤーが好きに割り振れるレベルアップボーナスというポイントがレベルアップごとに手に入る。
そのレベルアップボーナスとか、ドーピング系のアイテムを使ったりとか、ステータスアップ系の底上げスキルを『魔導書』というアイテムで覚えさせたりとかして、足りない知力を補強した上でこれなのだ。
そりゃ、ポンコツ呼ばわりもされるわ。
そこまで悲惨なら、いっそ足りない知力は切り捨てて物理系ステータスに極振りした方がよくね?
そう思った時期もありました。
しかし、できない。
何故なら、このゲームにおいて知力は、かなり重要なステータスなのだから。
このゲームには、ステータスアップ系や『剣術』『火魔法』『索敵』みたいな通常スキルと呼ばれるスキルの他に『必殺スキル』というものがある。
レベルが上がるとキャラごとに別々の技を覚え、魔導書でも覚えられるそれらは、『
まあ、ポ◯モンの技みたいなものだと思えばいい。
この必殺スキルはMPを消費して発動し、キャラクターは基本的に必殺スキルと通常攻撃を交えて戦う。
といっても、通常攻撃は火力がゴミだからほぼ使われないけどな。
そして、ここで脳筋ユリアを悩ませるシステム的な仕様があるのだが、これがくせ者なのだ。
必殺スキルの威力は、魔法系のスキルなら知力のステータス、物理系のスキルなら筋力のステータスで判定される。
しかし、一部の強力なスキルは「筋力+知力」という計算式が適応され、文武両方の力が必要になるのだ。
その解説をするには、さっきちょっと出てきた『
これが例の「筋力+知力」の計算式で使える強力スキルの一つなんだが、このスキルは名前の通り炎の斬撃を繰り出すという非常にわかりやすいスキルである。
もう一度言おう。
炎の斬撃を繰り出すスキルである。
そう『炎』の斬撃。
まごうことなき魔法攻撃だ。
この手のスキルは物理魔法の複合タイプと呼ばれる。
そして、戦士系のキャラが覚えられる遠距離攻撃と広範囲攻撃は、軒並み全てがこの複合タイプの必殺スキルなのだ。
まあ、それだけなら筋力のステータスでゴリ押しすることもできる。
筋力100+知力100でも、筋力190+知力10でも答えは同じなんだから。
だが、それじゃダメなんだ。
何故なら、そもそもの問題として……。
知 力 が 足 り な い と 、 複 合 タ イ プ の ス キ ル は 覚 え ら れ な い。
もう、どんな手段を使っても覚えられない。
レベルアップでもダメだし、魔導書を使ってもダメだ。
多分、教科書があっても、それを読み解く知力が無いと無意味なんだろう。
脳筋は魔法使いになれないのだ。
ボス戦だけなら、まだ物理系必殺スキルオンリーでも押し切れる。
だが、ボス戦までの道中は大量の敵が一度に湧いてくることが多いので、できればパーティ全員が範囲攻撃を持ってた方が俄然楽になる。
それでユリアにも無理矢理覚えさせたんだが、その結果がこのザマだ。
知力の向上に伸び代の多くを持っていかれ、そこまでしても最低限の範囲攻撃を覚えるのがやっとという……。
なのに、これが一番使える型という事実。
これは酷い。
そんな脳筋に厳しい世の中を嘆きながら、俺はユリアの育成を続けた。
今さらになってそんなことをしようと思ったキッカケは、クリア後のやり込み要素の一つである隠しダンジョンの攻略をやってた時、ユリアがダンジョンボスの攻撃を受けてノーダメージという脅威の結果を叩き出したことだ。
まあ、単純に相手が攻撃ミスって外しただけなんだけど、その時、俺は思ったのだ。
「これ、ユリアの耐久に極振りして、ついでに防御力アップ系のスキル揃えたら、ミスじゃなくても被ダメ0にできるんじゃね?」
ってな。
隠しダンジョンの強敵相手にそんなことできたらカッコよくね? という、ちょっとした好奇心だった。
もちろん、普段ならそんな真似はしない。
好きなキャラを実用性度外視のネタキャラにしようなんて、そんな惨いことするわけがない。
が、そんなこだわりを持っていたのは昔の話だ。
押し入れの肥やしと化して、たまにリセットまでされるゲームに、今さらこだわりもクソもない。
俺は好奇心の赴くままにユリアのレベルをリセットして再育成し。
レベルアップボーナスの全てを耐久に振り、使用回数に制限のあるドーピング系アイテムを全部耐久の強化に費やし。
更に魔導書を使って、一度に覚えられるスキルの限界数である20個全部を、防御力アップ系の通常スキルで上書きするという暴挙を嬉々としてやらかした。
攻略サイトでも見れば結果は一発でわかっただろうが、それじゃつまらんし、どうせ暇潰しだと思って延々とレベル上げを行い……そして現在に至る。
「ふぅ。やっとレベルカンストか」
今の時刻はすっかり深夜。
無駄に熱中して、無駄に時間を使ってしまった。
どうせならキャラクターレベルだけじゃなく、スキルレベルまでカンストさせてやろうとか考えて無駄に凝ったのがいけなかった。
だが、その無駄こそがゲームの醍醐味ではなかろうかという、この世の真理の一端に触れるかのごとき神理論を提唱してみる。
うむ。
大分、テンションが深夜のそれになってるな。
で、それだけの時間をかけて再育成した、耐久極振りユリアのステータスがこれだ。
━━━
ユリア・ストレクス Lv99
HP 3000/3000
MP 950/950
筋力 1520
耐久 9999
知力 99
敏捷 1185
スキル
『耐久上昇:Lv99』
『耐久超上昇:Lv99』
『耐久超々上昇:Lv99』
『鉄壁:Lv99』
『神硬:Lv99』
『魔防:Lv99』
『絶魔:Lv99』
『斬撃耐性:Lv99』
『貫通耐性:Lv99』
『打撃耐性:Lv99』
『衝撃耐性:Lv99』
『火耐性:Lv99』
『水耐性:Lv99』
『風耐性:Lv99』
『土耐性:Lv99』
『雷耐性:Lv99』
『氷耐性:Lv99』
『光耐性:Lv99』
『闇耐性:Lv99』
『状態異常耐性:Lv99』
━━━
「アハハハハッ!」
俺は深夜のテンションに任せるがまま、ゲーム画面に映ったユリアのステータスを指差して笑った。
なんだこりゃ!
耐久がカンストしたのは予想外の快挙だし、スキル構成まで含めたら歩く要塞以外の何者でもないってのは凄いけど、他が軒並み低空飛行すぎる!
特に知力! お前だ、お前!
二桁っておまっwww
レベル99のキャラとして立派に恥ずかしい数値だからなこれ!
しかも、必殺スキルどころか武器スキルもないから、対応武器を装備した時の火力補正もなく、ひたすら最低火力の通常攻撃で殴り続けるしかない!
俊敏のステータスも低いから、レベル99のパーティの中だと遅すぎて、一人だけ2ターンに一回しか行動できないし、攻撃も殆ど当たらないし避けられない!
挙げ句の果てには、盾役の必須スキルである味方への攻撃を防いだり、敵の攻撃を自分に向けたりするスキルすらなく、本職すらまともに果たせない!
MP? そんなもんは、ただの飾りだ!
「これは脳筋だわ! まごうことなき脳筋ネタキャラ女騎士だわ!」
俺は深夜のテンションのせいで必要以上に爆笑して、「うるさい! 今何時だと思ってんの!?」と、隣の部屋にいる妹に壁ドンされた後。
騒ぎすぎないように自重しつつ、とりあえずこのユリアの性能を確かめてみるべく、メインストーリーのラスボスである魔王に挑んでみた。
結果、ユリアノーダメージ。
俺は再び爆笑した。
妹に壁ドンされないように、声を押し殺して笑った。
火力不足でこっちの攻撃も大して効かず、敵が自発的にユリアを狙ってきた時限定で身代わりになることしかできず、ほぼほぼ仲間達におんぶにだっこっていうのが個人的にツボだったわ。
さすがに、当初の目的である隠しダンジョンのボス相手にノーダメージは達成できなかったけど、これだけ笑えれば満足だ。
「はー、笑った笑った」
そこまでやってから、ふと時計を見れば、もう夜中の3時を回っていた。
うわ、最後に確認した時から3時間も経ってやがる。
しまった。熱中しすぎた。
こんな時間に騒いだら、そりゃ妹様だってブチ切れるわ。
「……寝るか」
明日は普通に学校だしな。
俺は高校二年生。
真面目に受験に向けて取り組まなければならないお年頃。
勉強は嫌いだし、進路なんてまるで決まってないが、学校をサボるわけにはいかない。
一気に素面に戻った俺は、セーブしてからゲーム機の電源を切った。
そのまま押し入れに戻そうとして……
「ん?」
その瞬間、ゲーム機の電源が勝手に入って、再び画面が光り始めた。
しかも、明らかに普通に起動した時とは違う、直視できないほどの激しい光を放つ。
「な、なんだ!?」
驚愕してる間に、俺の意識はゲーム機の光に飲み込まれるようにして消えた。
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