魚群の中の一匹。

 国立第14黎明学園。通称永瀬学園。


 3年制で、探索者になるための最新のノウハウを学ぶことが出来、また卒業後は国からの支援も手厚い人気のハイスクール。


 それが俺の通う学園だ。


 元親友のおっ始め横道たちも含め、母校から結構な人数が受験していた。


 正直なところ誰が来ているのかわからないが、上位職は軒並み入学しているだろう。


 そして、この国立第14黎明学園がなぜ永瀬学園と呼ばれているのか。


 それはこの国にある数多の迷宮の中で、100ある真の迷宮の内の一つ、永瀬ダンジョンの真上にこの学園があるからだ。


 北は北海道から南は沖縄まで、第100まである黎明学園には、全てダンジョンの真上に学校がある。それぞれ苗字みたいな名前がついた最古のダンジョンのため、通称で呼ばれたりするそうだ。


 そしてその真のダンジョンは、各々特色というか特徴というか、全ての仕様が違っている。


 例えばこの永瀬ダンジョンはホラーハウス型ダンジョンで、出てくる敵はアンデッドばかりという話だ。キモい。


 そこに在校生は実習で潜ることになる。


 骨には勝てそうだが、深く潜れば潜るほど受肉していくそうだ。キモい。


 そしてなぜかここでは眠り耐性を身につけることが出来るという。


 これも特色の一つで、各ダンジョンごとに違う耐性を身につけたりできる。


 そしてその経験の偏りを避けるため、他の学園に遠征と称しての実習旅行が定期的にあるそうだ。


 ただ、その中の第1黎明学園だけは、皆一様に嫌がっていた。


 どうやら状態異常のオンパレードで、愛憎渦巻く凶悪なダンジョンらしい。


 身につけることの出来る耐性も未だ不明で、経験者はだいたい人間不信になって帰ってくるという。


 そしてパーティ解散率が最も高いという。


 モノリスで調べてみたら、人形のようなマリオネットばかりのポップでファンシーなモンスター紹介ページだが、どうやったらそんな事になるのか。


 まあ、俺はパーティなど組めないから、もしかしたら俺とは相性はいいのかも知れない。


 成瀬ダンジョンか…


 まあ、俺は絶対行かないけどな。





 そして迎えたオリエンテーション初日。


 一年生が全員集められての探索実習。


 大きな旅の扉を抜けた先の第一階層。


 早速作戦が行き詰まった。



「君、一人? 良かったら一緒に潜らない?」


「…あ、あっしですかい…?」



 話しかけられることなんて久しぶり過ぎて変な言葉遣いになってしまった。


 話しかけてきたのは、青いフルプレートで全身覆われた…声から女の子だと思われる。


 そんな子に話しかけられた。


 手には…大きな…大きすぎる棍棒…なんで…? 普通は剣だろ? 重戦士か?


 ちなみに顔まで覆われてるからどんな子かはわからない。


 背は女子にしては割と高く、男子平均の俺と同じくらいだ。



「そだよー。君君ー。一人だよね。良かったぁ。ペア見つかってホッとしたよー」


「……なんで…?」



 なんで俺がわかる…?


 この子…下位職か?


 だが、基本下位職でもレベル差で俺は見つけれない。そして特殊クラスでもない限り、探索者系学園ではレベル15は無いと入れない。


 ちなみに俺のレベルは5。


 ゴミだ。


 というか…この装備のブランドロゴ…やべぇ…超高級品じゃんか…これでレベル15以下ってことは無いと思うが…



「いやー、私、迷宮って初めてでさ〜…あ。自己紹介がまだだった。私、藤堂院夜蝶とうどういん やちょう。初めまして。やっちって呼んで…ってあ、あれ? どこー? どこ行ったのー?」



 やべぇ。


 これはやべぇ。


 俺はモブスキル、魚群の中の一匹(モブオブモブ)を使って壁のシミになり、全力で逃げ出した。

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