自殺という選択肢

キヲ・衒う

第1話

 小5から自殺未遂ばかり繰り返していたせいで常に「自殺」が選択肢にあがるようになってしまった。


辛い出来事に直面しようが自殺すればそれで終わり。私は自殺を「逃げ」に利用していた。はじめは「これ以上他人に迷惑をかけたくない」という理由だったのに。




私の家族は少々特殊な職についていて逆恨みをされやすい。

幼い頃は親から何度も「犯罪者から命を狙われた経験」を聞いた。親に守られて安全に育った私には到底信じられないような話ばかりだったが、最近私の下にも犯罪者が訪れるようになった。

今まで見えていなかっただけで犯罪というものは卑近に存在するのを目の当たりにしてしまった。


それから毎日「死」というものが身近に迫ってきたように感じる。


 バイトから家に帰るたび、「ああ、家が燃やされていなかった。」と安堵する。毎日寝る前にはもう二度と目が覚めないのではないかという気でいる。

 たとえ楽しく過ごしていても一たび犯罪者のことが頭によぎってしまえばぴしゃりと冷や水を浴びせられたような気になってしまうのだ。


頑張ろうと息巻いていたところに犯罪者の存在が介入する。

これからやろうと思っていたことも、明日の予定も何もかも犯罪者への恐れが、狙われているという事実がぶち壊していく。


元々の怠惰な性格のためか、病気のせいか、はたまた犯罪者のせいか。

全ての事物に自殺という選択肢があることへの甘えか。


何も行動に移せなくなった。

やりたいこともやるべきことも、勉強も仕事もなにもせずぼうっと宙を見て、不安が襲ってくれば安定剤かゲームに逃げるだけ。


そんなクソみたいな生活が10年弱続いた。




 その間にも私より美しく、私より賢く、私よりも優しく、私よりもずっと重い病気を患っていた知人が何人も自死を遂げていく。

私は一体なにをしているのだろう。何故私なんかが生きているのだろうと何度も思った。


 だが稚拙な自殺未遂を繰り返すうち、身体が痛みを覚えていってしまう。

「苦しい」よりもとてつもない「痛い」が先に襲い来る首吊り。

飛び降り直後は眼球がしばらく振動を繰り返し、履いていたジーンズも膝の皮膚と一体化しぐちゃぐちゃになって離れなかった。


あの痛みを思い出すたびに身体が震えて涙が出てしまう。

確たる自殺をできないまま年月が過ぎていく。


自分のことを認められないまま年月が過ぎていく。





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