ご飯を食べる。

柔軟剤

いただきます。

席につく。手を合わせる。ご飯を食べる。

いつもそうする。毎日。



今日はあの先輩と帰り道が一緒になった。

楽しかった、でもはしゃいで変なこと言っちゃった。

反省。いただきます。


今日は何にもなかった。

それじゃつまんないから、コンビニで高めのアイスを買ってみた。お風呂のあとに食べよう。

……財布が軽くなるのを感じたから次からは控えとこう。いただきます。


今日は部活が長引いて疲れた。最近は何故か長引く練習と感じる視線の原因に頭を回してばっかりだ。

思い当たる節はないが。それにしてもヘトヘトだ。いただきます。


今日は先輩に、思いきって秘めた想いをぶつけてみた。答えはNOだった。

なんだってそう、期待したようにはならない。

理由なんて考える気にもならないね。いただきます。


今日は一日がとても長かった。あの日から周りの視線がいっそう強くなった気がする。

過敏になってるだけ。きっとそう。

だっていま私は悲劇のヒロインなんだから。

はは。いただきます。


噂を耳にした。どうやら私は、低俗な言葉で飾り付けられた乱れた人間、ということにされているようだ。

皆が憧れる先輩にも淫らにすり寄って、一蹴されたんだと。「恋人より軽い関係ならいいよ?」なんて言ったのは向こうなのにね。いただきます。


友達と最近話せてない。基本一人だ。

避けられるから。

というか全員だ。目が合わない。

これはいわゆる、ってやつなのか。

一人で食べるならお昼ごはんも夜ご飯もおんなじじゃん。つめたいし。いただきます。


きっと味がしないな。

偶然扉越しに聞こえた先輩とその友達の会話は、今の私を嘲笑うものだった。「提案聞かねーほうがワリーわ笑」だそうだ。

悪いらしい。そうか、なら、いや。

いただきます。


もういやだ、誰のせいだって言うんだ。

なんでこんな目に合うんだ。

目が合わない。誰も。言葉がでない。

私が想いを伝えたから?言う通りの関係を拒んだから?どこからが悪かったのか。

俯瞰すればすぐに答えを出せる自分がいる。

簡単な話だ。でも、なにも変わらない。



いつから手を合わせていないだろう。

部屋のなかは窮屈で心地いい。目を考えずに済む。

もう終わろうか。それもいいかもしれない。

どうせ終わるなら、最後になにかしてあげようかな。

……どうせなにも変えられない。今までみたいにね。

なんで?だって、誰も気にしてないんだから。

私はいない。きっと居なくなったんだよあの日に。

そっか。そうだったんだ。なら、


なら、誰にも気にされないのなら、私がいたっていいんじゃないか?

価値の無いなりに、手を合わせていたっていいんじゃないか?

そっか。消えたと思ってた私の心はまだここにあったよ。

きっと一人ではないし、一人でも大丈夫だ。


そっか。なら、それなら、


生きる、をするんだ。懸命に、このなけなしの意思で、生きるをするために手を合わせるんだ。

久しぶりに味がしてくれそうだ。


いただきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ご飯を食べる。 柔軟剤 @junan-zai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る