必須スキル
紫色に光る魔法陣を調べ始めたマスク男とその姿をすぐ横で見ているウェディーズさん。アモンドさんに「よくぞお越しくださいました」と挨拶をしているこの場の責任者らしき白いローブの女性を呼び、何か質問をしながら二人で何やら話し合っている。
「あの、アモンドさんはどうしてここへ? それとあの男性は?」
「そうですね、どこから話したらいいか…。邪神復活の儀、そして魔法陣についての話は私も投書当日には聞いていました。彼はうちの魔道具工房の職人でして、特殊なスキル持ちなので何かお力になれればと思っていたところ、魔法陣の調査協力依頼をいただいたのでこうしてここへ来た次第です」
「あのマスクは?」
「いやぁ、あはは。その…、彼は少々偏屈なところがありまして、あまり表に出たがらないのです。素顔を出すことを非常に嫌がりまして、「あれ」なら協力すると…はぁ」
なんだか雇用主に対して随分な態度だな。それだけ優秀な人なんだろうか。
「ウェディーズさんはどうしてここへ?」
「ああ、偶然街にいらしていたらしく、あの職人とは旧知の仲なのですが、ウェディーズさんの知見も借りたいということで同行していただきました」
俺がアモンドさんと話をしているとミトはいつの間にかマスク男とウェディーズさんの会話に混ざっている。モナは小さな手帳を片手に魔法陣の外周に沿って歩き、何かと照らし合わせているようだ。あまり乗り気ではなかった割に真剣な表情。
一方フッサは俺の側で何をするわけでもなく、時折辺りを見回すだけ。耳をピンと立てているので周辺の警戒をしながらマスク男達の会話を聞いているのだろう。
「む、主殿。何か動きがあるようだぞ」
その声でマスク男達の方を注視すると、魔法陣に手をかざした彼から微量な魔力を感じた。
「今のが?」
「ええ、彼のスキルです。あまり詳しくはお話できませんが魔法陣の解析に役立つものではあります。レイブンさんはお判りになったでしょうが、魔力を消費するのでスキル使用の際に魔法陣に影響を及ぼさないかを先程までは調べていたのでしょう」
鑑定に近いスキルってことかな? なんて羨ましいんだ、異世界チートといえば鑑定スキルといっても過言ではない。どうにかして俺も取得できないかとその様子を目を凝らして見つめたが魔力を発したこと以外には何もわからない。
スキルや解析結果について話を聞きたいけど、なんだか偏屈な人っぽいしなぁ。
屈んで魔法陣に触れていたマスク男が立ち上がりウェディーズさんとボソボソと何か話すと、二人の話を聞いていたミトが俺を手招きする。
「何?」
「こちらの方がスキルで魔法陣の解析をした結果、複数の効果が組み込まれているようです。主様がお聞きになった魔法陣の効果をお二人にも説明して差し上げたらと思いまして」
「なんと! では邪教の集会に潜入した冒険者というのはレイブンさんでしたか。ポルトアリアにおいても、これはこれは活躍しておられるようですね」
「ああ、あの話か。こちらにも情報はきているぞ。確か集まった人の命を吸い取り、それを糧に邪神を復活させるという話だったな」
マスク男がこちらをちらりと見て、既知の情報だと言うがちょっと待て。
「それだけですか?」
「それだけとは?」
俺が聞いたのは魔法陣は時限式で発動。その効果を高めるための贄として発動時に集まった者の命を吸う。それによって規模が拡大し結果として街の人の命をもエネルギーとし大気中の邪気を収集し邪神を復活させるというものだ。
俺は間違いなくギルドや聞き取り調査に来たその他大勢にもそのように伝えてある。
それをこの場で改めてするとアモンドさんや責任者の白ローブの女性はかなり驚いているようだ。
「そ、それは本当ですか!」
白ローブの女性が俺の肩を揺さぶってくる。
「だいぶ情報が削がれてしまっていたようですね。話が伝わるうちにそうなってしまったのか、はたまた意図的に削除されたのか…」
「くっ、なんてこと!」
ミトの分析に対して顔をゆがめる白ローブさん。アモンドさんも俺の話を聞いて何かを考えこむように黙ってしまった。ウェディーズさんは二人のその様子を興味深そう見つめている。
一方。
「なるほど、聞いていた話と効果数が合わないと思ったらそういうことか。そうか、それならば…」
と、独り言をブツブツと呟きながら再びスキルを行使するマスク男。間近で見てもスキルについてはよくわからないな。
「何か用か?」
そんな俺の視線に気が付いたのかマスク男はこちらを見て突き放すようにそう言った。
まるで俺に関わるんじゃないと言わんばかりの拒絶を含んだような言い方。やはり偏屈な人のようだが、俺が喉から手が出るほどに欲しい鑑定系のスキルだ。入手のヒントを得るチャンスでもある。その程度で臆している場合じゃない。
あたし負けないんだから!
「アモンドさんから聞きましたが珍しいスキルですよね。解析? 鑑定? 分析? 俺もそんなスキルを授かりたかったなぁと思って、つい」
何故か俺の言葉を聞いてマスク越しでもわかる程、瞳を大きく見開いたマスク男。
「なっ、君は鑑定のスキルを所持していないのか?」
いやいや、剣術や体術なんかの一般的なスキルならともかく鑑定のスキルを持っている人なんてそういないだろ。なんで持っているのが当たり前みたいな空気で話してんの?
「えぇ、まぁ」
「この手のお約束じゃないか、というかそんなの基本の「き」だろう。一体何を考えているんだ!」
えっ? なんか急に怒られたんですけど。
「信じられん。それでよくここまで…。まさか強奪系か? それとも…」
俺、この人なんか嫌いだわ。話が噛み合わなすぎる。
「そうか成長補正タイプか。それなら私がその役目ということか…いや、今更私に役割など…」
床の一点を見つめながら自分だけの世界に没入してしまったようだ。ちょっとイタイ人なのかもしれないな。
「いやぁ、あたしが持っている古代語が書かれた本からよく見かける単語を抜き出しておいたんだけどこの魔法陣には使われていないみたいだね、って何だいこの状況は!?」
小さな手帳を片手に魔法陣の周りをゆっくり歩いていたモナがその光景を見て驚いている。紫電の一撃以外の人が自分の世界に没入し、そのうちの一人は小声でブツブツと話し続けているんだ。メモとの照合が終わるまでそれに気が付かなかったモナも大概だけどね。
「古代語の単語の抜き出しなんてしてたんだ」
「ああ、あんたも古代語に興味があるみたいだったしね。年長者としてはお子様に後れを取るわけにはいかないからね。あたしなりに文脈から意味を考えてみたりしたんだけど、先は長そうだよ」
彼女の持つ手帳を少し見せてもらったが、一つの単語対してどの本のどこに使われていただの、前後の単語はどうだったなど余白がほぼ無いほどに書き込まれていた。俺の言語スキルがいつか日の目を見ることを祈っておこう。
「彼が言った効果かどうかはわからないが、それだけのことを実行するだけの魔法陣であることに間違いはないだろう。邪神の復活に必要なエネルギーは見当もつかないがこの街全体を効果範囲に収め、尚且つその場の命を強制的に奪うとなると…そうだな、同様の魔法陣が五十近くは必要になるだろう」
いつの間にか自分の世界から戻ってきたマスク男の分析を正しいとするならここと同じ魔法陣がそれだけ多く街に仕掛けられているということか。現在見つかっている魔法陣は五つ。しかもそれは投書によって判明した魔法陣で、拠点への立入調査の結果で判明した魔法陣はゼロ。
この調子じゃ魔法陣を見つけることなんてできないんじゃないか?
「主殿、ギルドで位置から魔法陣の場所を推測できるかもしれない、というようなことを言っていなかったか?」
そんなん見つかった魔法陣の場所を聞くためのブラフですやん。
「位置! そうか、点結魔法陣か!」
俺の嘘を真に受けていたフッサのその言葉だったが、それを聞いたマスク男が手をパァンと叩く。
そうそう、点結魔法陣ね。…ナニソレ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます