結局

 モナ以外は初めての街ということで、ウッキウキで街の観光を始めた俺達は手始めにギルド近くの元王宮にやってきた。お城という感じではなく、本館と翼棟からなる大きな建物だ。左右対称に作られた建物と庭園は敷地の外から見るだけでも美しい。入場料を支払えば見学もできるようだったけど、今日は時間もあまり無いのでパス。後で時間をとって見学してみたいと思うほどには立派な建物だった。


 冒険者ギルドや厩舎、宿や元王宮周辺を歩いてみてわかったが、確かに獣人族への差別はあまり無いようだった。人によってはすれ違った際に顔をしかめるような人もいるが、少なくとも施設利用で何かを言われることはなかった。それにこの街で暮らしていると思われる獣人も見かけたがその身なりはちゃんとしていた。


 その点は街として好感が持てるのだけど、なんだか街全体の雰囲気が暗いというか、人々が心の底から笑っていないような感じも受けた。街として活気が無いんだよな。


 そして宿に戻る前に訪れたのは街のシンボルの一つでもある結界発生装置。この街で最も高い建物で、八階建ての構造だ。最上階は灯台のようになっている。下からではわからないが、そこに巨大な魔道具が設置されているらしい。もう一つ同じ形の塔があり、そこの魔道具と連動して街を覆う強力な結界を作り出すんだそう。かなりの出力なので、その動力源となる魔石はさぞ大きいものなのだろう。


 だが、残念ながらというべきか、この結界発生装置は故障中らしい。どうやら先の邪気の影響で内部の重要な装置が破損してしまったらしい。かなり複雑な構造でこの街の職人では直すことができないのだそう。


 まったく、こんなところにまで迷惑をかけているなんて、邪神は本当にとんでもないやつだな!


 と、まあ、あまり時間もなかったので街の観光は早々に切り上げて宿で夕食だ。宿に併設された食堂で済ませたのだけど、この街の名物らしい小麦粉の生地で挽肉やみじん切りにした野菜を包んだ料理は肉まんと餃子の中間みたいでなかなか美味しかった。


 俺以外の三名は程よくアルコールも回り、ほろ酔い状態で部屋に戻りミトが淹れたお茶を飲みながら明日の予定を話していたときだった。


 コンコンと扉をノックする音。


 ミトが扉を開けると宿の従業員が立っている。いや、今まで応対してくれた従業員に比べると制服が少し違う。恰幅もよく口髭を蓄えていることからも普通の従業員とは纏うオーラが違うな。そんな従業員さんはどこか少し緊張した面持ちだ。よく見ると胸のプレートにオーナーと記されている。


「お休みのところ失礼いたします。皆様へお客様がいらっしゃっています」

「客?」


 俺達に客だと? この街に来たばかりの俺達に知り合いなんている訳もない。


「まぁ? どなたですか?」

「ぼ、冒険者ギルドの方が食堂でお待ちです」


 まぁ、俺達がこの宿に宿泊しているのは冒険者ギルドの人しかしらないし、用があるので思いつくのは冒険者ギルドの関係者ぐらいだ。だけど、冒険者ギルドの関係者が来たくらいで宿のオーナーが緊張するか?


 怪しいな。


「今日は長旅での疲れもあるので、明日ギルドに行くのでその時に要件を、と伝えてもらえますか?」

「そ、それは…。お疲れのところ申し訳ございませんが、どうか食堂までご足労願えないでしょうか」


 別に疲れてもいないけど、ちょっと怪しいので暗に「お帰りください」と言ってみると懇願してくるオーナー。


 なにか裏があるのか?


「まったく、困らすんじゃないよ。これから向かうって伝えてもらえるかい」


 本当に待っているのがギルド職員なのか問いただそうとしたところ、モナがオーナーを締め出し、扉を閉めてしまった。


「…怪しいね。何か裏があるかもしれないね」


 それ、俺の台詞なんですけど?


 彼女もあの様子を見て不信に思ったのか、扉の外には聞こえないような声量で呟き俺と目を合わせた。


 突然襲われるなんてことは無いだろうけど、念には念を入れて俺の光魔法スキルで三人の体からアルコールを抜いておく。酔っぱらうのも一種の毒状態みたいなもんだからね。


 失礼にならないように、目立たない武器を各々ベルトに差して食堂に向かう。


 既に利用時間は過ぎたのか、先程俺達が食事した時に比べ明かりの落とされた食堂。本来この時間には誰もいないはずであろう食堂には宿のオーナーの他に二人の男性と一人の女性がいた。


 俺達がやってきたのを確認したオーナーは「私はこれで失礼いたします。何かありましたらお呼びください」と言い残して去ってしまった。扉の閉められた食堂の中には俺達を含め七人。一応確認したが隠れている人はいないようだ。


 やって来た俺達を見定めるように見つめた女性。大人の色香を漂わせるその女性が頷くと女性の横に立っていた冒険者ギルドの制服に身を包んだ男性が一歩前にでた。


「急に悪いな。俺は冒険者ギルドコルストン支部長のベープだ。それでこちらが」

「私はユリアナ・マルデッラ。この街を治める者だ」


 はっ? ギルド長にこの街の領主って面倒事の匂いしかしないんですけど!


 何が「君子危うきに近寄らず」だよ。向こうから寄ってきて来るんじゃどうしようもないじゃないか!


「領主様、ということですよね。なぜこの街の権力者であるお二人が我々を?」

「ふむ、交渉役は貴殿ということでいいのかな。立ったままというのもな。座って話をさせてもらおうか」


 今すぐこの場から去りたい気持ちを抑えて、挨拶と自己紹介をしてから手近な長テーブルに腰かけた俺達。ミトがお茶を淹れようとしたが、止めておいた。長居されても困るからね、用件だけ聞いてお帰りいただこう。


 子供の俺がパーティを代表するように振舞っていても、領主は態度を変えてこない。外見だけで判断するような人ではないのかもしれないが貴族なんて食えない人ばっかりだからな。用心するに越したことはない。


「そう警戒するな。といっても無理だろうな。単刀直入に言おう。ギルド、そして領主様からの依頼を受けてほしい」


 嫌ですが。


 ははーん、頭脳明晰な俺にはわかったぞ。この街の抱えている問題、そして俺達を結び付けた答えは奴隷商だろう。俺達が道中でこの街の奴隷商と関係のあった盗賊を討伐したからってことで奴隷商を突き止めてくれぇなんて泣きついてくるんだろう?


 無理無理。


 そんな面倒な依頼お断りだ。大体この街に来たばかりの俺達に探偵まがいのことなんて依頼するんじゃないっての。そんなものは街の衛兵にでも頼んでくれよな。


 はぁ、まったくこれだからお貴族様は嫌なんだよ。


「依頼内容はこの街の守りの要でもある結界発生装置、その修理に必要な素材の納品だ」

「えっ? 結界発生装置? 素材? 奴隷商のことじゃないの?」

「奴隷商? あぁ、お前達の報告にあったあれか。それについては以前からギルドと衛兵で調査を進めていてな、つい先程取り押さえたところだ」


 ヘー、ソウナンデスネー。ソリャアヨカッタ。


「お前達に頼みたいのは『リッチの聖灰』だ。リッチが消滅したときに発生する僅かな灰。これを倒した直後に特殊な魔力に当てると『リッチの聖灰』という特殊な素材になる。お前達にはそれを集めてきてほしい」

「貴殿らはCランクとDランクの混合パーティだと聞いているがシエイラギルドの評価ではCランクパーティとして扱っても問題無しということだった。Dランク冒険者には指名依頼を受ける義務がないということは重々承知している。どうかこの依頼を受けてくれないだろうか。頼む!」


 ギルド長の説明が終わると、頭を下げてきた領主。貴族が平民に頭を下げるなんて余程のことだ。民の為にプライドを捨てることが出来るなんていい領主じゃないか。


 リッチと言えばCランクに分類される魔物だ。現状Cランク冒険者が出払っているこの街には俺達以外にこの依頼を達成できる見込みの冒険者はいない。彼女が必死になっているのもそういった背景があるからだろう。


「結界装置が壊れてから街の人々は不安な日々を過ごしている。それに輪をかけたように北コルス山の騒動だ。ようやく修理できる職人が街に来てくれたのだ。どうかっ!」


 なるほどね。この街の人々の元気がなかったのはそれが原因だったのか。北コルス山を襲った盗賊め、許すまじ。


 …、結界装置の故障については、あれだよ、あれ。経年劣化的なあれも重なったんじゃないのかな。うん、きっとそうだよね。だから俺の責任じゃないよね。


「…みんな、どう思う?」

「いいんじゃないかい。長期依頼でもないしさ」

「うむ、我も受注には賛成だ」

「主様の思うままに」


 モナの言う通り長期依頼でもなさそうだし。


 魔物を倒すことは俺のステータスアップにも繋がるし。


 こうやって誠心誠意依頼されていることだし。


「その依頼お引き受けします」

「そうか、ありがとう!」


 邪気のせいで結界発生装置が壊れたことに後ろめたさを感じたからじゃないんだからね!

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