蹂躙
それじゃあ蹂躙を始めようか。なんてカッコつけて魔力を放ってみたものの、相手に自分の存在を知らせるだけの愚かな行為だと気が付いた俺。調子に乗ったらいけないよな、ってことで闇魔法スキルの【隠者】を使い気配を隠した。反省できる人間っていいよね。
放った魔力によって二階下の地下二十五階にある開けた場所に何やら集団がいるのを確認。ざっくりとしか探索していなかった地下二十四階と地下二十五階の造りもわかったので一直線に集団の元へ向かった俺。
そこで目にしたのは辺り一面に広がる黒い光から湧き出てくる地下遺跡の魔物たち。そして見たことのない気味の悪いゾンビ達の中心で高らかに笑い声を上げる見覚えのある気味の悪い男。
そう、あの時の黄金の杖や分厚い本は持っておらず、豪華なローブではなくみすぼらしいマントだがあれはソルージアを強化信徒とかいう訳のわからないものにしようとしていたあのハゲだ。
状況証拠でいえばコイツが犯人で間違いないだろう。フッサとモナに重傷を負わせ、幾人もの冒険者の命を奪った。その行為は到底許されることではない。
というか間違っていてもこいつは処していいだろう。邪神を崇める組織、俺を誘拐したあの組織の幹部っぽいハゲ。それだけで理由は十分だ。
【隠者】を解き、阿保みたいに笑い続ける男の前に全速で移動。
問答無用で首を斬り落とした。
むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
ハゲの隣にいたこの場で唯一人間と思われるマント男が「貴様!」とかモブっぽいことを言っていたので、上半身が吹き飛ばないよう加減をした腹パンで蹲ったところに闇魔法スキルの【精神操作】を無防備な頭にダイレクトアタック!
一応何をしていたのか知りたいから廃人にならないようにちょっとだけ手加減をしている。涎垂らして虚ろな目をしているけど大丈夫だろう。
「さてと、残りはこいつらか」
地下遺跡の探索はファンタジー成分多めだったのにも関わらず、この場は某国大好きのゾンビゲームのようだ。気味の悪い男を囲むようにいたゾンビは魔物と配合でもさせられたのか異形のゾンビばかりだ。それぞれが内包する魔力も高い。地下二十五階にいるはずのない強力な魔物。
黒幕倒して、ハイ終わり、とはいかないみたいだな。
まぁ、こいつらを倒す方法はいくつかある。ゾンビは光魔法で浄化すればいいし、闇魔法の【暗黒星雲】で穴だらけにしてやってもいい。共に最大レベルである魔法スキルにはそれ以外にもこいつらを倒すことの出来る魔法はある。
どうやって倒そうかNA☆
俺に襲い掛かってくる異形のゾンビたち。それ以外の魔物は俺のことを目で追ってはいるが手出しはしてこない。
二メートル半ほどの巨大なゾンビが俺に向かって拳を振り上げる。明らかにそこだけ肥大した右腕による攻撃。技術の欠片もない殴りかかりだが、そこに込められた魔力は強大だ。当たればそれなりにダメージをくらってしまうだろう。
それを避けて腕を斬り落とそうとすると、突如として腕を守るように、まるでビートルマンのような甲殻が現れる。固いだけではなく、何かドロっとした液体に覆われた甲殻。その滑りに剣をとられてしまう。
いや、違う。その滑りは剣に纏わりつき、黒い鎧擬きで守られた俺の腕を搦めとろうとしてくる。
「スライムか?」
剣を振るってそれを床に叩きつける。ジュっという音ともに床から煙が上がる。剣も腕も魔力で覆っているから気が付かなかったがその身体は酸そのもののようだ。
俺がスライムを振り払い、床に叩きつけたその隙に複数のゾンビから放たれる魔法。炎に氷、雷に風。その一発一発の威力はミトの【風の矢】にも劣らないだろう。光魔法スキルと闇魔法スキルから成る【魔結界】を多重展開して防ぐ。
地面に叩きつけられたスライムが変身しゾンビの姿になっていたので蹴りでその頭を粉砕。そのまま甲殻で覆われた巨大なゾンビの首、甲殻と甲殻のつなぎ目に狙いを定めて横薙ぎの一閃。首を跳ね飛ばす。
砦で戦った死霊魔法で操られていた兵士は首を撥ねても動き続けた。倒したと油断していたところで足を掴まれたから、今回は同じ轍を踏まないように首を撥ねた後も警戒するが動きだす気配はない。甲殻型もスライム型も崩れ落ちるようにその体を崩壊させていく。
「首さえ撥ねれば倒せるとか弱すぎだろ」
その攻撃力や防御力は厄介だが、首さえ撥ねればいいなら問題ないな。折角だし俺の剣術スキルの肥しになってもらおうか。
父親に仕込まれた剣の腕に剣術スキルレベル五の補正が乗り、【邪神の魔力】で際限なく使える魔力による身体強化。さらにそこにレベル最大の武術スキルの補正も乗っかっているからか、ゾンビ特有の単調な動きに対しての俺は無敵状態。
一体ずつ相手にしたからそれなりに時間はかかってしまったが異形のゾンビは全てその形を崩壊させて、なにかドロドロの液体になっている。おかげで足元はぬちゃぬちゃとぬかるんでいる。
気持ち悪っ。
尚、俺の足元に転がっているハゲの首なし死体と、【精神操作】でイっちゃってるマント男はその液体にまみれて大変なことになっている。
残るは見慣れた地下遺跡の魔物たち。いつの間にか足元の黒い光はなくなり、新たに魔物が生み出されることはなくなったようだ。見慣れた魔物のはずだが色違いや、羽や角の見た目が違う個体も交じっている。
ゲームやラノベでよくある亜種かな? 残りの魔物はせっかくだし素材をはぎ取れるように倒していこう。ただ働きはダメ絶対。やりがい搾取反対。
先ほどまでは異形のゾンビがいたから近づいて来なかったのか。ここからは自分達の番だとばかりに敵意をむき出しに襲い掛かってくる
だがその脅威は大したことはない。異形のゾンビ相手よりも簡単に、最早作業と呼んでもいいような魔物の討伐。
加護(笑)の【邪神の恨み】による効果で魔物どもは俺に向かって殺到するので待っていればいいだけだが、絶賛気絶中のマント男を巻き添えにしたくなかったので少し離れて戦っていた。
だが。
それがいけなかった。ついつい夢中になってしまい目の前の魔物だけに集中してしまっていてその動きに気が付けなかった。
「許さん、許さん、許さん、許さんぞぉおおおおおおおっ!」
声のした方を見ると、倒したはずの男が先ほどは持っていなかった黄金の杖を右手に、自分の頭を左手で抱え、ドロリとした魔力を放ち立ち上がっていた。
「げぇっ、生きてたのかよ、ハゲ男」
頭を抱えている状態を生きていると形容していいのかはわからないけど。
「誰がハゲ男だぁっ! 我が名はデズラゴス。我らが神の為の行いをよくも台無しにしてくれたな! 貴様、絶対に許さんぞ!」
はげまんとのデズラゴスがあらわれた。
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