入場制限
「ギルド長、準備が整いました」
「わかった、私も向かおう。今はこういう状態だ。悪いがしばらくは地下遺跡には立ち入れないからそのつもりでな」
行方不明者リストでフッサとモナの名を見つけ気を揉んでいると、ギルド長はそう報告してきた職員の男性と足早にギルドの奥に去っていった。フッサは人族よりも鋭い嗅覚を持っているし、モナも詳しいことは聞いていないがスキルで索敵は得意だと言っていたから大丈夫だとは思うけど…。やはり心配だな、
「お待たせしましたー」
ギルド長とちょうど入れ替わりになるようにおっとり系職員さんが戻ってきた。
「こちらが今回の魔石の一覧ですー。今回も全てギルドでの買取でよろしいですかー?」
魔道具で数えられた魔石の数が表示された金属板を確認する。正直なところ納品した魔石の数なんか覚えていないので魔道具を信用するしかない。討伐した魔物とは合致しているので大丈夫だろう。それにしても魔石から魔物を判別するなんてあの魔道具高性能だよな。
「はい、すべて買取でお願いします」
「では魔石の買取で大金貨一枚と金貨三枚に大銀貨五枚となりますー。素材の納品分と合わせて大金貨四枚と大銀貨一枚、銀貨三枚ですねー」
二週間でこの金額か。こりゃあ手紙を送るための大金貨八枚もすぐ溜まりそうだな。
「現在、地下遺跡の入場が制限されているため通常よりも買取金額が高くなっていますー。それにしてもEランク冒険者では考えられない稼ぎですよー」
そっか、供給が不足しているからこの収入ってことか。でもこの騒ぎが収まったからって暴落するってこともないだろう。
「それとこれはCランク冒険者になった際にお伝えするのですが、報酬のギルドお預かりサービスというのがありますー」
そう言って職員さんが取り出した一枚の紙。そこには冒険者ギルド提携店という文字がでかでかと書かれ、たくさんの商店の名前が記載されている。見てみるとそこにはビサモ雑貨店、クスリの店リクトエル、ウェディーズ魔道具店といった利用したことのある店の名がある。おっ、金の小麦亭もあるな。それ以外にも知っている店の名がちらほらと。
「冒険者プレートに報酬を記録し、それを提示することで支払い可能になるシステムですー。もちろんギルドでお預かりした報酬を現金化することも可能ですー。こちらが利用できるお店の一覧ですねー。特殊な魔道具をギルドから貸し出ししているんですよー。現金を持ち歩く必要が無いので窃盗の心配もありませんよー。Cランクに昇級した際や高額報酬の依頼を受注されたときにご案内するのですが、今回の報酬が高額でしたのでご案内させていただきましたー」
クレジットカード、いやデビットカードみたいなもんか。
「じゃあ今回の報酬の大金貨四枚はギルド預かりでお願いします」
「かしこまりましたー。レイブン様とミトラ様の分配はどうしますかー」
そっか、今までは支払いは全て俺が現金でしていたけど、このサービスを利用するなら報酬は二人で分ける必要があるな。うーん、そうだなぁ…。
「全額主様でお願いします」
分配額を考えていると横からミトが口をはさんできた。
「いや、流石にそういう訳には」
「いえ、私の分は不要です。生活費も全てお支払いしていただいておりますし、今回の探索も主様の御力のおかげです」
ぐいっと顔を近づけて主張してくるミト。普段あまり自分から主張することがないので意外でびっくりした。
流石に全額はおかしいと思うので、そこから若干の問答を繰り返したが最後はミトの「主様は私をお捨てになるおつもりですか?」の一言に負けて今回の分は俺のプレートに全額振り込んでもらうことになった。
「それと今回の納品でお二人がDランクに昇級する条件の一つをクリアしましたー。後はDランクの依頼を三回達成すれば昇級となりますー」
俺たちは現在Eランク、一つ上のランクの依頼まで受けることができる。その一つ上であるDランクの依頼を達成して昇級資格を得るってことか。地下遺跡の探索で十分稼げてはいるし急ぐ必要もないかな。
それよりも今は報酬や昇級よりも確認したいことがある。
「地下遺跡の立ち入り制限についてなんですけど」
「あれ? ギルド長から説明はありませんでしたかー?」
「いえ、大体のことは。取り残されている人達の捜索隊は?」
「うーん、Cランク冒険者の方が被害に遭われている現状、Bランク冒険者の方々が戻るまでは難しいでしょうねー。ギルドとしても早急に対応したいのですがー。ひとまずは全ての入り口の閉鎖しかー」
「全ての」入口? あぁ、そういえば俺たちが普段使っている正規の入口以外にも街にいくつか地下遺跡に繋がる通路があるんだよな。
「警備隊の巡回や冒険者さんからの報告でシエイラ中の地下遺跡に繋がっているところは冒険者ギルドも街も把握していますからねー。今回の犯人を逃さないためにも警備隊とCランク冒険者の皆さんに警備をお願いしているんですー」
なるほどね。こっそりフッサとモナの助けに行こうかと考えていたんだが入口が閉鎖されているとなると、俺たちが彼らに合流するとどうやって地下遺跡に入ったんだってことになるな。ここは黒騎士モードで救出に向かうとするか。【影移動】ならすぐに地下二十三階に行けるし、魔力全開の探知をすれば二人の居場所もすぐにわかるだろう。
「あぁ、あとそろそろ準備が整ったので対氾濫結界も発動しますしねー。これで犯人はもう地下遺跡から出てこられませんねー」
うん? 対氾濫結界?
「このシエイラの街と地下遺跡の間に魔力による障壁を張って地下遺跡で魔物の氾濫が起きた際に魔物を遺跡内に封じ込めて地上に溢れ出ないようにする結界のことですー。発動に時間がかかりますし、消費する魔石の量も凄いので緊急時しか発動しないのですけどねー。地下遺跡に出現する魔物に特化したこの街用の特注魔道具なんですよー。地下遺跡の魔物が使ってこない属性の魔力には弱いんですけどねー。街と地下遺跡間の魔力干渉を遮断するので、そうですねー、転移の魔道具による移動なんかも防げるらしいですよー」
地下遺跡内に転移の魔道具なんてありませんけどねー、と自分の例えに苦笑いをする職員さん。まさに転移しようと考えていた俺は顔が引きつってしまう。
「他になにかご質問はありますかー」
「い、いや、大丈夫です」
「冒険者の皆さまにはご不便おかけしますがー」
俺を見た時は嬉しそうだったが、それ以降はずっと暗い顔つきのおっとり系職員さん。彼女だけでなく、他の職員さん達もギルド内にいる冒険者も皆活気がない。行方不明者を助けに行きたくても行けない、そんなもどかしさもこの雰囲気の原因なのかもしれない。
【影移動】による転移が封じられた俺も出来ることはない。失意のうちにギルドを後にするしかなかった。
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