いざ、ステータス

 深い闇の中。


 まるで泥水の中に沈んでいるように体が重い。


 そして訪れる頭痛。それは頭の内側から金槌でガンガン叩かれているような痛み。そして全身を引き裂かれるような痛みが体中を襲う。


 転生の時に女神が言っていた言葉が頭をよぎる。


『それ以前に死んでしまうと転生できずに、死の痛みを感じたまま悠久の時を過ごすことになるので気を付けてくださいね』


 そうだ、これは転生の直後に感じた痛みに似ている。「死の痛み」、それに通じる苦しみ。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 …。


 それは一瞬だったのか。だけど確かに残る痛み。


 目を覚ました俺、レイブン・ユークァルは全身にかいた汗を不快に思いながら乱れた呼吸を整えた。


「はぁはぁ、なんだったんだ今のは!?」


 いつも寝ているベッドの上。時計を見れば午前三時。こんな時間に目を覚ましたのは転生してからは初めてだ。


 しばらくの間、天井の一点を見つめながら先ほどの夢について考える。夢、なのか? だけど頭痛はまだ残っているし、体の節々も痛む。カラカラに乾いた喉を潤そうと思い枕元にある水差しでコップに水を注ぎそれを一息に飲んだ。


「ふう」


 ただの水なのだが、心なしか頭痛もおさまった気がする。


 昨晩は誕生日の前祝ということで少し豪勢な食事を済ませた後、早めに眠りについた。


「そうだ、ステータス…」


 午前三時ということは、俺は十歳になったはず。であればステータスが確認できるようになっているはずだ。あれだけ気合十分に眠りについたのにすっかり忘れてしまっていた。


 ステータスの確認方法は事前に両親から聞いている。自分のステータスが見たい、そう念じながらステータスと唱えればいいのだ。


「ステータス! おぉ!!」


 宙に浮かぶのは光り輝く文字。そこに記されていたのは。



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名前:レイブン・ユークァル

年齢:10


加護:

・死と再生の神による加護…成人するまで運に限定補正、闇系統、光系統の魔法適性に補正、前世の経験を持ち越し

・邪神の恨み…魔物に襲われやすくなる、闇系統の魔法適性に補正


※運以外は()内のスキル補正が加算された数値を表示中

生命力:450/450(+300)

魔力:1,730/1,730(+730)

力:420(+330)

精神:10,350(+850)

素早さ:410(+330)

器用さ:1,470(+870)

運:100(+∞、成人までの限定補正)


スキル:

剣術(Lv1)…剣を用いた攻撃に補正。力に+30。

体術(Lv1)…体捌きに補正。素早さに+30。

武術(Lv10 Max)…武芸全般の習得、実行に補正。生命力、力、素早さ、器用さに+300。

生活魔法(Lv1)…生活魔法が使用可能。

植物魔法(Lv1)…植物魔法が使用可能。魔力、精神に+30。

闇魔法(Lv10 Max)…闇魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

邪道魔法(Lv1)…邪道魔法が使用可能。魔力、精神に+100。

光魔法(Lv10 Max)…光魔法が使用可能。魔力、精神に+300。

統治(Lv4)…自領を発展させる行動、部下の人心掌握に補正。精神、器用さに+120。

算術(Lv10 Max)…計算に補正。器用さに+300。

言語(Lv5)…言語習得に補正。器用さに+150。

ちーと(Lv1)…ちーと☆。


ユニークスキル:

邪神の魔力…解放時に邪神の力を纏う。魔力を無限に使用可能。

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おっふ。


 …え? 確かにチートくれとは言ったけどさ。


 ちょ、ちょっとツッコミどころが多すぎるな、これ…。


 と、その時だった。ザザッとステータス画面が歪んで昔のテレビであった砂嵐のようなものが流れる。そしてメッセージが表示された。


『伝言があります』


 え? 伝言?


 はよタップせい、とばかりに明滅を繰り返すメッセージ。ひとまずタップすると流れるような美しい文字で書かれた文が表示された。



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親愛なる山田太郎様へ


貴方がこの手紙を読むのはそちらの世界に転生し10年が経った頃でしょう。

あまりその世界に干渉は出来ないので、あなたの魂にこっそりと細工をしてこのメッセージが届くようにしてあります。


色々とステータスをご覧になって驚いていることでしょう。


まずは精神の異常値と器用さの高さについてです。

これは私が与えたものではありません。あなたの魂に刻まれていたものです。

精神の値は極度のストレス環境において上昇します。あなたの生前の環境によるものでしょう。

随分な環境で育ったようですね。常人なら発狂死するレベルです。恐らくはストレスをストレスと感じないよう、極めて高度なマインドコントロールでも受けていたのでしょうか。人間って怖いですね。


そして器用さについては前世であなたが持っていた天賦の才です。この常人とはかけ離れた器用さがあり無理難題もなんとかこなせたからこそ、極度のストレス環境でも生きてこられたのでしょう。


まあ、結局死んじゃいましたけど(笑)


それ以外の数値は今世でのあなたの能力です。どのような数値だとしても私の関与はありません。


スキルについてはステータス画面でその詳細が確認できるように細工してあるのでそちらでご確認くださいませ。

これはあなただけが使える能力なので他の人には言ってはいけませんよ。


あなたへのサポートとして私の加護を与えました。成人までは極力死から遠ざかるようにかなり強力なものです。そして私の加護と相性のいい光魔法と闇魔法のスキルレベルを最大限まで上げておきました。この二つの魔法をこのレベルで所持している生物は、その世界の歴史を紐解いてみても存在しません。とはいえ油断していると魔物に頭からガブっと殺られちゃうので気をつけてくださいね。


それとあなたが望んだ「ちーと」というスキルも授けました。何故あなたがその世界のスキルをご存じだったのか不思議でなりません。


さて、これであなたとのコンタクトは本当に最後となります。

どうかあなたに運命の死が訪れんことを。


P.S.

加護やスキルを付与するのに使用したあなたの死の原因となった眷属の魔力ですが、どうやら邪神、もとい眷属の意識がちょっと残っているかも。てへぺろ。

悪さをするかもしれませんがあなたが転生した直後には消滅するはずなので多分大丈夫でしょう。


死と再生の神 クヴァーブより

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 おいーーーーーーーー!!


 ちょくちょく人をおちょくるような書き方しやがって! ちょっと天然入ってる神様かと思ってたけど天然で済ませていいレベルじゃねーぞ! どうなってんだよ神界!!


 まあ、異常なステータスについての説明はありがたいけどさ。っていうか、眷属って言ってたけど邪神かよっ!


 なにが意識が残っているかも、だよ! 随分と悪さしちゃってますよ!! なんだよ【邪神の恨み】って。俺逆恨みされてるじゃんか! 魔物に襲われやすいってこの世界で安寧にいきられないじゃんかよ!


 大体このスキルのラインアップってどう見ても悪者だよね、なんだよ邪道魔法って。俺は大魔王か何かですか?


 大体こんなスキルとステータスがバレたら大騒ぎだよ。邪神の落とし子だ、とかいって追放される未来しか思い浮かばない。


 兄姉たちがステータスを授かった時は朝起きていの一番に両親にステータスを見せていた。本来ステータス表示は基本的に自分にしか見ることは出来ないが、許可した場合のみ他人に見せることが出来る。普通ステータスは他人には隠すのものだが、十歳になったときのステータスは家族に開示するのはこの世界では一般的。


 俺が起こされるのは朝七時。つまり残り四時間でどうにかしないと。


 いっそ正直に開示するか? いや駄目だ。邪神云々を抜きにしたとしてもこのスキルとステータスは異常だ。運よく追放ではなく祀り上げられたとしても身に危険が及びやすい環境になるのは必至だ。


 俺の目標はあと五年で魔物を狩りまくってステータスを上げた後にのんびりスローライフをおくることだ。あまり有名になるのはいけない。


 なんとかしないと、なんとか…。


 そうだ! もしかしたらステータスの表示を任意で変更できるように…はなってないか。項目をタップしてみたりするものの何も変化はない。


 消えろ、消えろと念じてみても…。


 あれ?


 スキルの項目を注視していたらポップアップウィンドウが出てきた。



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死と再生の神による加護

・成人するまで運に限定補正。ただし生死に関する場合のみに限定される。

・闇系統、光系統の魔法適性に補正。威力激増。消費魔力激減。魔力操作補正。

・前世の経験を持ち越し。前世の経験をスキルとして獲得。

・ステータスの詳細表示機能。

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 これは…。ステータス画面よりも詳しく説明されている。そういえば神様からのメッセージで詳細が見られるようになっているって書いてあったな。


 前世の経験値を持ち越し、か。これであのスキルの多さってことか。スキルは十歳で授けられたときには必ずレベル1の状態だ。


 つまり神様による引き上げのあった光魔法と闇魔法以外でレベルが既に上がっているスキルは前世の経験からによるものってことか。


 武術、統治、算術、言語の四つ。


 武術はあの虐待じみた護身術のおかげか。統治、算術、言語は教育の賜物か? よくわからんが一旦おいておこう。レベルはさておきそこまで危険視するようなすきるでもなさそうだ。



 詳細画面は消えろ、と念じたら元のステータス表示となった。そして次の項目を注視する。



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邪神の恨み

・魔物に襲われやすくなる。魔物に視認されると執拗に狙われる。

・闇系統の魔法適性に補正。威力増。消費魔力減。魔力操作補正。闇魔法を極めると邪道魔法を解放。

・毒物の効果時間増加。あらゆる毒物の効果時間が二倍となる。

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 恨み、ねぇ。毒物の効果時間増加って。苦しんで死ねってことかな、邪神さんよ。そもそも俺が死んだ原因って邪神のせいだろ? なんでコイツに恨まれなきゃいけねーんだよ! 


 あーあ、普通ラノベだと毒とかの異常状態は完全耐性とか貰えるもんじゃないんですかね…。


 それに邪道魔法ってなんなんだよ。そう思っていると「邪神の恨み」の説明文に重なるようにさらにポップアップ画面が表示される。


 説明文からも詳細説明だせるのか。



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邪道魔法

・邪神とその力を与えられた者のみが使用できる闇魔法の上位魔法。

・世界のあらゆる命を弄ぶために邪神により創られた魔法。

・使用可能:絶望の衣

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 お、おう。一応使用可能となっている絶望の衣を注視する。



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絶望の衣

・魔力で創り出したその衣は周囲に絶望を振りまき、心の弱いものは自ら命を絶つ。

・周囲の生命力、魔力を吸収する。

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 …はい、封印。全っ然っ使えねーじゃねーかよ! 効力は破格だろうけど、こんな魔法使う場面が思いつかんわ!!


 一度ポップアップを消して順に詳細を確認していく。


 …。


 おっ! 闇魔法の使用可能魔法にある、とある魔法に気が付いた。これはもしかして。


 期待をもって更に注視をする。



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隠匿

・ステータスを不可視状態、又は偽装。

・使用者の闇系魔法レベルよりも高い闇系魔法を所持していないと看破不可能。

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 キター―――――!


 よぉぉぉっしゃぁぁあああああ!


 定番のステータス偽装いただきました!!


 これで一安心だぜ。なにせ「使用者の闇系魔法レベルよりも高い闇系魔法を所持していないと看破不可能」ときた。俺が所持している邪道魔法は「邪神とその力を与えられた者のみが使用できる闇魔法の上位魔法」だ。邪神は消滅しているし、邪神から力を与えられた者なんてそう沢山いるはずはない。ということは俺がこの隠匿なる魔法でステータスを偽装してもバレることはないだろう。


 ここへきてようやく希望の光が差してきたぜ。やったね!

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