暗夜錦黒髪奇譚

夜の神

夜は男であるという。


比喩ではない。

夜の神は男である。


それは黄昏色の服を着て、長い長い黒髪を引きずりながら、地平の彼方から姿を現すのだという。


その御髪が触れた場所は夜になる。

のそりのそりと太陽を追いかけながら、神は夜を運んでくる。


神の御顔は「月」という。

水平線ではこちらを向いて、横切る際は横を向き、立ち去るときはほぼ見えない。


太陽がすっかり逃げて、神も海に帰ってしまえば、遺された彼の髪が、星という夢を降らすのだという。


そして再び太陽が顔を出せば、髪はたちまち燃え尽きて、跡形も残らない。


夜の神は男である。



「‥‥じゃあ、僕は夜の神さまの子どもなの?」

「いいえ、でもあなたは夜の神をお守りする添人シャーマンの子孫なのよ」









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