第6話 皇后の頭痛の種6
考えられることは有るには有るが……。
「『加護持ち』の可能性はどうです?」
「はぁ!? 加護持ち? 母上、泣く子も黙る冷酷非情な帝国の影の支配者らしくもない」
「誰が恐怖の対象ですか。真面目に聞きなさい」
「それこそ有り得ませんね。『加護持ち』にそこまでの力はありませんよ」
「ええ。通常はね」
精霊の『加護』はその精霊が個人を気に入った場合のみ与えられる。
土地に根差した高位精霊と違って『加護』を与えるのは専ら中位精霊、下位精霊。けれど、稀に大精霊からの『加護』を与えられる人間もいる。それこそ数百年に一人いるかいないかの逸材。
どうやら馬鹿息子も私の考えが分かったようで苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「分かりましたね、この結婚が大きな意味を持つという事を」
「……そんな憶測に過ぎない事のために婚姻をしろと?」
「憶測だろうと何だろうと先手を打っておくのは為政者として当然の判断です」
「……母上の考え違いだったらどうするんですか? 責任を取ってくださるんでしょうね」
「安心なさい。シルヴィア公女は美しい事で有名です。公国一の美姫と謳われる姫君ですよ。彼女の
「国同士が強固な関係を築けば更なる利益に繋がる、という訳ですね」
「分かっているではないですか」
「実に母上らしい手腕だと感心しています」
「それは、ありがとう。この母は帝国の皇后ですからね。国益を重要視するのは当然でしょう。四ヶ月後にはシルヴィア公女が
「正妃なのに後宮入りをさせるのですか?」
「おかしな事。例え正妃であろうとも『後宮入り』するのは慣例ですよ」
自分の母親が父親に代わって政務を行っている。後宮ではなく皇帝と同じ部屋で暮らしている姿を産まれた時から見続けているアレウスは少し思い違いをしている。代々の皇后にそこまでの権利はない。正妃であっても妃の一人。当然、住まいは「後宮」である。この私だからこそ出来ている行為なのだ。古い慣例はいまだに残り続けている。
もはや取り繕う事もできないのだろう。
アレウスはしかめっ面である。そのムスッとした表情は、とても皇太子のすべき顔ではない。帝国一の美男子と名高い美貌が残念な事になってしまっている。
まったく、この利かん気な性格は誰に似たのやら。
「我が帝国の皇太子の結婚式です。国を挙げて盛大に執り行いましょう!」
高らかに宣言すると、レモンを口に含んだかのような顔になる息子。それを見ると今までの苦労を思いだし溜飲が下がる思いだった。
この母に勝とうなど百年早い!
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