シンシアリイ
羽根ペンが書けなくなった。手紙をしたためている途中でペン先がインクを弾き、削って整えるために握り直すと二つに折れた。
ここに移って間もなく譲り受けた風切羽だ。この辺りで冬を越すという彼に頼み、私は知らない国の景色や人々のことを聞かせてもらった。見返りに彼が求めたのが手紙だった。ひとところから見る移ろいを知りたいのだという。この羽根で綴られた言葉は風を伝って山も海も越え、どこにいようと彼まで届いたそうだ。彼と私は冬のたびに礼を言い合った。
手紙を燃やした灰と一緒に、折れた羽根を庭の隅へ埋めた。春のはじめに小さな芽が吹き、一年をかけて背丈を越した。そして夏の朝に青い花を一輪つけ、その日の夕方に枯れた。
毎月300字小説企画 第8回(2023.8.5)
お題「鳥」
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