第4話
マサムネは、戦闘機型の宇宙船に乗って、スモパ調査団がいると思われる『ジャングゥ』を目指した。宇宙船の座席は一列になっていて、先頭の操縦席には額に2本の角があるジャキが座り、マサムネはその後ろに座った。そして、とくにやることもないので、窓の外に広がる宇宙空間を眺めながら、スモパ調査団のことを考えていた。
(……これでいいのか?)
彼らのことは好きではない。多少の憎悪はあるものの、不幸を願うほど憎んでいるわけではない。だから、彼らを襲うことに、多少の罪悪感を覚え始めた。
(とはいえ、俺も生活が掛かっているからな……。穏便にやるか)
そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられる。
「お、おい。マサムネ」
マサムネは目を向ける。後ろにホゲが座っていた。
「何ですか?」
「本当にやるのか?」
「そうですね。ここまで来て、止めるわけにもいかないので」
「そ、そうか……」
「というか、どうしてホゲさんも来たんですか?」
「そりゃあ、俺も手伝いたいからよぉ。こう見えて、やるときはやつだぜ、俺は。昔は怪盗と呼ばれていたこともある」
ホゲは引きつった笑みを浮かべる。
「……なるほど。なら、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。彼らのセキュリティはガバガバなので」
ホゲの目的はわからないが、とりあえず、自分の邪魔だけはしないで欲しいと思う。
「おい」とジャキ。「ジャングゥについたぜ」
(早いな)
航行時間はおよそ30分。ワープ技術が発展した現代では、惑星間の移動にそれほど時間が掛からない。
マサムネは窓の外に視線を移す。目の前に青い惑星があった。ジャングゥである。ジャングゥは比較的新しい惑星で、海と大陸が存在し、大陸の大部分は緑で覆われていた。高度な知能を有した生物が存在しないため、宇宙政府の管理下にあるのだが、常時監視などをしているわけではないので、いろいろな宇宙人が、身を隠すために利用している。
「で、どうやってここから調査団を探すんだ? まさか、しらみつぶしに探すわけじゃないよな?」
マサムネはメモを取り出して、ジャキに渡す。
「この条件で、追跡信号を送ってもらっていいですか? 近代的な建築物がないこの惑星で、この信号を受信できる場所は限られています。なので、この信号を受信した場所から、彼らを見つけることができると思います」
「りょーかい」
ジャキは、ジャングゥに向かって信号を飛ばす。数分の間があってから、ジャングゥの地図に、赤い点が10個ほど現れた。
「反応があったのは、ここの地点みたいだな。で、どこにいるんだ?」
マサムネは、これまでの傾向をもとに、彼らがいる場所を推測する。そして、北にある1点を指した。
「……ここですかね」
「よし、行ってみるか」
宇宙船は加速し、大気圏に突入した。そして、ステルス機能なども活用しながら、目的地まで移動し、5km ほど離れた森の中に着陸する。
「これ以上、この機体で接近するのは難しい。だから、歩いて行け」
「……わかりました」
スモパ調査団の探知スキルを考慮すると、もう少し近づいてもバレない気はしたが、ジャキからの命令なので、渋々従う。
船から降りると、ジャキが自分の首を指さして言った。
「そいつのことを忘れるな」
マサムネは首に装着された細いシルバーの首輪に触れる。それは、GPSと通信機能を有した小型爆弾だった。逃げ出そうとしたら殺す、とジャキは目で語る。
「わかってます」
マサムネは頷き、歩き出した。
少し歩いてから、ホゲが口を開く。
「な、なぁ、マサムネ。本当にやるのか? その、とんでもなく強い奴がいるんだろ?」
マサムネはため息を吐きそうになる。ホゲは人の話を聞いていたのだろうか。ここまで来て、調査団狩りを止めるわけにはいかない。レオンを恐れているようだが、それほど警戒すべき相手ではないことは、地獄組の前でも伝えている。だから、ついてくるなら、黙ってついてきて欲しいところだ。
(……ここでイライラしてもしゃーないだろ)
マサムネは、自分にそう言い聞かせて、努めて冷静に答える。
「はい。やります。あと、鉄腕のことはそんなに警戒しなくて大丈夫ですよ」
「……どうして?」
「噂ほど強くないんで」
「でも、そ、それって、お前の感想だよな?」
マサムネは振り返って、ホゲを一瞥する。ホゲはマサムネの言葉を信じていないように見えた。その様を見て、舌打ちしそうになる。
(俺のことを信用できないなら、最初からついてくるなよ)
苛立ちを覚えたが、隠すように視線を前に戻す。
「まぁ、そうですけど。でも、マジでそんなに強くないですよ?」
「ふぅん」
「それに、その人とは、できるだけ戦わないようにするつもりです」
「というと?」
「忍びこんで、盗むことにしました。無駄な戦闘は俺も避けたいんで」
「無駄な戦闘を避ける。た、確かに、それは良い案ではあるな。でも、セキュリティも厳重なのでは? 『スペースダイヤモンド』を保有しているのだろう?」
「外から見れば、そうかもしれません。ただ、内情を知っている俺からすると、彼らのセキュリティは穴が多いです」
「本当か?」
「本当です」
「そ、そうか。ちなみに作戦とかは決まっているのか?」
「はい。それなら――」
マサムネは、歩きながら作戦を説明する。
そして、説明が終わるタイミングで目的地に着いた。
茂みに身を隠しながら進むと、目の前に巨大な円盤が現れた。スモパ調査団の宇宙船である。4本の脚を広げ、ボディが緑色になっていた。光学迷彩による擬態だ。一週間ぶりの機体をマサムネは懐かしく思う。
「あ、あれが、スモパ調査団の船なのか?」
声を潜めるホゲに、マサムネは頷く。
「そうです」
「あ、あれが、その鉄腕のなんちゃらというやつか?」
ホゲの指さす先に、赤髪の男がいた。レオンである。レオンは宇宙船の真下にいて、胡坐をかいた状態で、にらみを利かせていた。
「はい」
「つ、強そうだな」
「見た目だけですよ」
マサムネはレオンから船体に視線を移し、双眼鏡で詳しくチェックする。見た目上は、とくに変わっていないので、作戦通りにいけば、楽々侵入できそうだ。
「よ、よし。なら、俺があいつの気を引こう。その間に、マサムネは船に潜入してくれ」
マサムネは眉をひそめる。計画にない行動だった。
「いや、その必要はないんですが」
「だ、大丈夫。俺に任せろ」
そう言って、ホゲは茂みを飛び出した。
「あ、ちょっと」
ホゲの勝手な行動にマサムネは舌打ちする。
(人の話を全然聞かねぇじゃん)
今すぐにでも茂みに引き込みたいところだったが、レオンが気づいたので、諦める。
(しゃーない。あの人が気を取られている間に、潜入するか)
マサムネが移動しようとして、レオンの声が聞こえた。
「止まれぇい!」
空気が震え、遠くの方で、鳥が飛び立つ音が聞こえた。
マサムネはいったん止まる。
(相変わらず、声がでかいな)
レオンに歩み寄っていたホゲも立ち止まり、卑屈な笑みを浮かべた。そして、ごまをするように手を揉む。
「誰だ、てめぇ」
レオンは立ち上がって、ホゲをにらみつける。威圧的な態度に冷や汗をかきながら、ホゲは答える。
「あ、あのスモパ調査団の『鉄腕』さんですよね?」
「あ? まぁ、そうだが、それがどうした」
「じ、実はあなたにお伝えしたいことがありまして」
「何だ?」
「マサムネという男をご存じですか?」
「マサムネ? ……ああ、知らないこともない。そいつがどうした?」
「は、はい。実はそのマサムネが――あなた方のお宝を奪おうとしているんです」
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