第31話
「簡単に言えばそういう事だ」
エンデルクが今の話を手短に説明していた。
「灰色の巫女…ヤミちゃん達ってそんな昔からいたのかな?」
ユメカが不思議そうに呟く、ちなみに全員の会話はユメカが拾い共有し続けていた。
「いや、予言はあくまで未来に起こり得る事象を表しただけだからヤミホムラの存在とは別の話じゃろう」
「そもそもこの灰色の巫女の存在についての予言はうちがいた前の世界での話だしね」
キナさんが頭上のヤミホムラを見上げながら説明する。
「そんな予言など今は些末な事だ、それよりも眼前の脅威をどうにかしないとな…この我の攻撃を防ぐとは…」
自分の必殺の一撃が効かなかったのが不服だったらしいエンデルク、余談だがセイガと教室で対峙した時に出そうとしてたのもこの技だったりする。
実際に使っていたら教室は大惨事となっていただろう…
セイガは妙な震えを感じた。
『ううう…』
ヤミホムラの様子がすこしおかしかった、彼女は怒り心頭ともみえる形相のままきょろきょろと周りを見渡し、セイガを見つけると闇の光線を幾重にも撒き散らした。
「わわっ」
セイガは連続して地上を薙ぎ払う闇を躱し続ける。
そしてその攻撃をそらすようにアルザスの地上からの一閃がヤミホムラに当たった。
『うう』
ヤミホムラはアルザスを一時見るが気にもかけずにセイガへと巨大な炎を投げつけた。
「攻撃が単調になっている、攻めるなら今だ!」
「ふん、言われるまでもない」
「おお、一気に行くんじゃ」
アルザスの叫びに呼応して聖竜のレーザー・ブレスとキナさんの魔法による雷が同時にヤミホムラを捉えた。
セイガは逃げるのに手一杯だったが上手く引き付ける役に立っていたのだ。
『ううううぅ』
虚ろな瞳でヤミホムラが呻く、ダメージはそれ程では無いようだ。
だがその横面を突然、巨大な鉄塊が塗り潰した。
半径1km程の塊がヤミホムラを巻き込みながら大地へ放物線を描きながら落ちていく。
その天変地異にも見える爆音が周囲に鳴り響いた。
「おうおう、凄い威力じゃの」
「<
ようやく止んだ攻撃にセイガも安堵する、しかし…鉄塊の一部が赤く変色し…ドロドロに溶けて蒸発を始めたので再び構えなおす。
「みんな、ちょっと近付かないでおいてね」
キナさんがそう言うと、呪文の詠唱を開始した。
まだ、ヤミホムラの姿は見えない、おそらく鉄塊を溶かす爆熱の中心にいるのだろう。
じりじりとした空気が流れる。
「…疾く貫き給え…爆斧氷円撃」
キナさんが手にした大斧を前方へと投げる、それは急速に回転しながら冷気を纏い、徐々に大きな氷の円盤と化しながらヤミホムラがいるであろう熱源を切断した。
「どうよ」
さすがのヤミホムラもこれは防げなかったのか爆熱の反応が無い。
「決まった…の?」
ユメカの希望も空しく
「いや、まだじゃ」
球状の闇が世界を抉り取る、再びそれが消えた時、その中心にヤミホムラがほぼ無傷の状態で浮遊していた。
「うそ…っていうかさっきから誰かいない筈の声がするんですけどっ」
ユメカがツッコむ。
「おお、ようやく指摘して貰ったのじゃ♪」
その途端、天空にヤミホムラとは別の、光を纏った存在が現れる。
『オマエ…は』
「久しぶりじゃのう…だが悪いが儂はお前さんらの敵じゃ」
三対の白い翼で体を隠しながら現れたそれは、白銀の光の矢を高速かつ無数に操り、ヤミホムラをめった刺しにした。
「【エンジェリック・マルチプル・レイ】神々しい威力じゃろ?」
そのまま天上からヤミホムラを両手を組みながら見下ろす。
『謎』の『真価』が背後に現れ、
途端翼が開き、その姿を露わにした。
「謎のおっさん、参上」(ババーーン)
そしてついでに謎の後光が差す。
「上野下野さんっ…てゆーか本当に強かったんだね……意外」
ユメカの言う通り、それは楽多堂の店主だった。
「ほっほっほっ、もちっと褒めてくれてええんじゃぞ、美少女の賞賛は濡れ蜜の味と言うからのぅ」
その美麗な容姿に見合わぬ口調も健在だ。
「ありがとうございます、助かりました」
「セイガも長く見ないうちに強くなったのぉ」
「…いや、昨日も会いましたよね?」
急激な連続攻撃をまともに受けヤミホムラは沈黙を保っていたが
『ああっ!』
大きく叫ぶと炎が渦を巻いて周囲を焼き尽くした。
店主は一旦退いてユメカたちの方へと舞い降りる。
「無事で良かったの、ユメカさんや」
「ありがと…へへへ、自分ではあんまり死んでたっていう実感は無いんだけどね」
レイチェルも店主に近付く。
「ヤミホムラのジャミングがあったと思うのですがよくここまで来れましたね…とても助かりました」
「まあ、吾奴の『世界構成力』も万能では無いということじゃの」
「このまま…救援が増えると嬉しいですね」
レイチェルがヤミホムラを遠くみつめる、とはいえかなりの実力者でなければ相対することすらできないだろう。
「みんな、うちに考えがあるんだけどいいかな?」
突然キナさんが全員に語りかけた、そのまま作戦を説明する。
それに皆納得し、各々が頷いた。
「それじゃあ、儂らは散るとするかの、レイチェルはユメカさんを頼むぞよ?」
ヤミホムラを囲むようにキナさんと店主が陣取る。
「うん、キナさんはもうちょっと西側…そうそう」
ユメカはそれぞれ配置する場所の指定をした。
「エンちゃんの方は準備…いい?」
「ふん、我の方は問題無い」
上空の聖竜が応えるようにいななく。
「セイガとアルザスは」
ユメカがヤミホムラの正面に対峙しているふたりに尋ねる。
「大丈夫だ」
「無論」
ヤミホムラへの包囲網が完成しつつあった。
『あああああ』
呻き声を上げるがヤミホムラは動かない、しかしこれだけ強力な攻撃を受け続けてなお、その存在及び力は圧倒的だった。
「聖竜さま…上へっ」
ルーシアの声を受け、聖竜が太陽へと向かいさらに上昇する。
その姿は地上から見て太陽と重なるほど上空へと届いた。
王者、エンデルクが下界のヤミホムラを見下ろす、青く冷たい瞳がいつもより…燃えている。
「王の名において全てを断罪せよ! <
現れたのは長さ1km程の鉄の塊…それはまるで巨大な剣のような形をしていた。
それがエンデルク達のいる、聖竜よりもさらに高い場所から一気にヤミホムラ目掛けて落とされた。
剣は空気の摩擦により赤い熱風を纏っていて、信じられない質量と速度だった。
ヤミホムラが両手を上げ、その闇と炎で大剣を受ける。
絶大なエネルギー同士のぶつかり合いが起きた。
「今だ、清き御柱よ…全てを浄化し給え! 神域結界!」
ヤミホムラを囲むよう三方に散っていたキナさん、レイチェル、上野下野、それを結ぶ線は正三角形となっており、魔法陣のように地上に青き光を結んだ。
3人が自らを柱としその力を開放させる。
「おおうこれは…」
「もの凄く力が持っていかれる?」
制御しているのはキナさんだが、術者3人ともかなりの消耗だった。
「これで…ヤミホムラの力は相当削がれたはずだよ」
未だエンデルクの巨大剣はヤミホムラと衝突、拮抗し、さらに結界によってヤミホムラだけが力を封印されつつあった。
「さあ…決めちゃって!」
ユメカの声を聞いたかどうか、ヤミホムラの正面、並んでいたセイガとアルザスが同時にヤミホムラへと向かう。
「ヴァニシング・ストライク つらぬけぇぇぇ!!」
「うおおおお!」
赤と青の閃光が大地を駆け、食らいつくように同時にヤミホムラを撃ち抜いた。
『ああああああ!』
直後、エンデルクの剣も潰すよう動き出し大地を揺るがした。
そして…爆発音…
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