第56話 土曜日の小さな舞い

雨? 

片方の頬が一瞬、冷たさを感じた。


確か天気予報では夕方のある1時間枠だけ、曇りマークに傘がついていたのを思い出した。

けれども、夕方はとっくに過ぎた時間だ。


見上げると

白い不規則なサイズの小さな雪が舞っていた。


「雪だ!」「雪」

あちこちからわきあがる声に、あたりが急に賑やかになる。


さほど寒くはない夜の雪は、ほんの少しの時か間、ふわふわと舞っていたが、

家の近くにさしかかる頃にはもうやんでしまっていた。


おしむような気持ちで空を見上げたが、雪の姿はない。

(また舞ってこないかな)


脱ぐときに気がついた。

ブラックダウンに白い点、ヤバッ、汚しちゃったかとヒヤッとしたけど、もしかして…。


しがみついていた雪のかけらが小さく丸まっている。

溶けるまい、と頑張っているような気がして、そっと静かにコートを置いた。









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