春
ロールキャベツ
翼が化野邸に引き取られて数か月が経過した。
この頃になると、翼は随分言葉が達者になっており、その成長に保護者達は驚くばかりであった。
ある春の夕暮れ時だった。
白夜と雨月は仕事に出かけており、化野邸には翼と弥生の二人だけであった。
翼は庭で毬をついて遊んでいたが、腹が鳴ったので家の中に入って飯を待つことにした。
縁側で草履を脱いで、そのまま上がり廊下から洗面所に向かい、手を洗う。弥生から外から帰ったら、まず手を洗うことと教えられたからだ。動物の頃は汚れたら舐めて綺麗にしていたが、人間は水や石鹸を使って清潔にする。更に風呂まで入る。かなりの綺麗好きだなと思う。
手を洗うと、とことこと厨房まで歩いていき、料理をする弥生の手元を覗き込む。今日はどんな料理を作ってくれるのか、わくわくしている。
「あっ、今日はキャベツ料理だね!」
キャベツは翼の好物であった。何度も「キャベツキャベツ」と反芻している翼が可愛らしいので、弥生は料理をするのが一層楽しくなっていた。
ぐ~
好物を前にして腹が鳴った。
「良かったら一枚食べる?」
弥生は千切っていたキャベツの葉を一枚、翼に渡す。
「ありがとう!」
嬉しそうにしゃりしゃりとキャベツを食べる。
「今日はね、ロールキャベツを作るの」
「ロールキャベツ?」
千切ったキャベツの葉が鍋で茹でられていた。
「お肉とか中に具を入れて、キャベツで巻いて煮込んだ料理よ」
「へえ、どんな感じなんだろう。ねえ、弥生が料理作るところ見ててもいい?」
「ええ、いいわよ」
翼は様々なことに興味深々だった。何か疑問に思ったら、すぐに聞くし覚えも早い。それに素直に聞いてくれるのが良い。
「どんな味なんだろう……。楽しみにしてるね」
仕事から帰ってきた白夜と雨月も合わせて、食卓を囲む。
「「「「いただきます」」」」
四人の声が合わさる。
翼は、真っ先にロールキャベツに箸を付ける。
「あっつい、けど、美味しい!」
「そう、良かったわ」
「これが、ロールキャベツの味なんだね!」
翼は、兎の頃は出来なかった体験を、日々楽しんでいた。
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