マリーゴールドの行末。

月雪 こう

第1話 日常

なんで今月の推売品の戦略を立ててくれないのだろう。

この店舗に異動してから、すごくイライラするし疲れる。

天木撫子は自分の仕事を終えて、息をつく間も無く月末にやる次月推売品についての仕事に移る。撫子の務めるドラックストアは、毎月推売品が変わるし、その推売品は複数ある。医薬品もあれば、季節性のもの、化粧品など本部の都合でコロコロ変わっていく。本部のうんこめ、と毎回思うが、最近このストレスに慣れたのかイライラも減っている気がする。

そのコロコロ変わる商品の情報を、パートさんやバイトの子に説明できるようにまとめながら、これって店長がやる仕事じゃないのかな、と思う。売り上げの高く、社員の多い店舗から、自分と店長の社員2人体制の田舎の店舗に異動して、自分がモチベーションを保つのがこんなに難しいことだとは思わなかった。前の店舗ではこうしてたのに、が止まらない。

それでも撫子は優等生だった。店舗の業務はもちろん、売上についても気にかけて自分にできることがないか考えたし、推売品だって自分だけがやっても大して成果にならない、みんなでやったほうが効率的だと前の店舗の店長から教えられていたから、今まとめてみんなで取り組めるようにしている。

「店長がやる仕事やってるよね。」

パートさんに言われて、異動して一番嬉しかった言葉だ。

「いや、そんなことないですよ。」

そう言いながら、半分はその通りだと思う。推売品の戦略なんて社員で立ててみんなに共有するものだと思っていたから、異動したてに店長に相談したら嫌な顔をされて驚いた。それから撫子は1人でこの仕事をしている。

今月の推売は風邪薬に注力しよう、そう思ってスイッチ販売できるように比較する風邪薬の詳細をGoogleに尋ねてみている。

「天木さん、今月の注目棚の商品なんですが、来月の中旬に来るのでそれまで何で埋めますか?」

ヘアケアの売り場を担当しているパートの田中さんに話しかけられてパソコンから目を離す。注目棚とは定番棚以外の棚で、本部の提案で新商品や話題の商品を置くところだ。

「うーん、確か先月の注目棚提案の商品がたくさん余ってましたよね?そしたら、それを引き続き出しちゃって大丈夫ですよ!」

撫子は少し声を高めに出して、命令調にならないように、相手が不快にならないように気をつけて、言葉を選んで発する。それでもこの言葉たちが正しいのか不安になる。無駄に気にしすぎて逆に不快感を与えてしまうような言葉になるから、会話っていうものは難しい。

今だからこんなに頼ってもらえし、安定して仕事しているように見えるが、移動当初は酷かった。唯一同じ立場である社員の店長は頼れず、パートさんもバイトの子も新人が大多数だったので、新人教育に追われて必要以上に追い込まれていた。だから異動してきてすぐは、ちゃんとうまく振る舞えていたかわからない。でも、店舗を上手に回すには人間関係が大事だとわかっていたので、頼ってもらえるようにもちろん振る舞いは努めた。

その努力すら異動先の店長はしない。むしろ従業員のやる気を削ぐような態度や声のトーンで話しかける。新人のパートさんが店長のせいで辞めたくなったと言ってきた時は、本当に店長に腹が立った。

前の店舗に顔を出した時には、異動先の店長の悪口が止まらなかった。

私は店長より仕事をしているし、結果も出している。店舗の従業員のことも気にしている。そういう自負が出てくるたび、店長がやっていることが自分のビジョンと違うことに腹が立ったし、不思議だった。


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