第1部・2章
ep11/黄金宮殿の陰謀
世界各地にいくつもの属国を持ち、
その比類無き武力と栄光の
帝都中央にある人造の
黄金宮殿には強力な結界が張られ、外庭や回廊を選び抜かれた精鋭兵が巡回し、ネズミ一匹通さない鉄壁の防衛体勢が
宮殿内部に進むと、大貴族や上級神官といった要人が
そして最奥にあるのが、神聖帝国第四代皇帝――ドルガスが住まう
そんな神皇宮の一室では今――三人の人物が密談を行っていた。
「……全く、
黄金宮殿の最上階にある
ドルガスは
そんな
「あらあら、ドルガス
皇帝にさえも物怖じしない彼女の名は、ルルエ・ウルアズーラ。
帝国神還騎士団の長でもあり、世界的英雄である
ドルガスにとってルルエは忠実な臣下であり、誰よりも優れた武力を持った戦士であり、そして嫌というほど恥部を
ルルエの物言いを気にせず、ドルガスはワインを
「それもある。庶民が皇帝や教会に意見するなど
「ならば、例の
ルルエが重ねて問うと、ドルガスは激しい勢いで机を拳を叩き付けた。
料理が乗った皿がいくつかひっくり返ったが、どうやら正解だったようだ。
「その通り! リゼータといったか。その汚らわしい罪紋者のことだ! かの
怒りに眼を血走らせるドルガスだったが、ルルエはそんな
「う~ん……それは難しいですね。
空猫ノ絆に美意識を刺激されたらしいルルエが、
「くだらん! 何が友情だ! 野良犬とゴミの馴れ合いなど正視に耐えぬわ!」
「ならば、どうなさるおつもりです?
そのルルエの指摘は
先日の帝都を襲った
だがそれも当然だろう。市民たちを護らず見殺しにしたあげく、自分たちは安全な場所に
「ふん……市民というのは愛国心の欠片も無いのだな! 羽虫のごとき命の価値しか無い貴様等よりも、余が生き残ることの方が帝国にとってどれほど利があることなのか――そんな当たり前の事も分からんとは、愚かにも程があるわッ!」
だがそもそも、そんな市民の心を理解していれば、獣災時の籠城を選択をしなかったであろうドルガスは、逆に市民たちの行動を
「……リゼータ殿への評価も
そして先日の獣災で、リゼータの好感度も上がっていた。
今までは、おこぼれを貰っていただけの卑怯者と噂されていたのが、多くの者が実際に彼が戦う姿を見て、少なくとも空猫ノ絆を名乗るだけの実力はあると証明されたのだ。
「くそがあああッッ! どうにかならんのかァァァッ!!」
力任せにグラスを床に叩き付けるドルガス。
割れたグラスからワインが飛び散り、高級な手織り絨毯を赤く染め上げていく。
その炎のように広がる染みは、ドルガスの燃えるような憎悪を代弁するようだった。
「余は絶対に認めんぞ! 忌まわしい罪紋者が余の騎士団に入団するなど! 奴に余の領地を
ドルガスは机を蹴り倒し、床に落ちた調度品や料理を何度も踏みつける。
やがて騒ぎ疲れたドルガスが『ぜぇぜぇ』と息を切らして立ち尽くしていると、今まで沈黙を貫いていた
「ほっほっほっ。陛下、リゼータなる者の排除は
ユピール・ヤーマロキス。彼こそが総数十二億人以上とされる、母神教徒たちの頂点に君臨する、聖導母神教会の大司教である。
濃紫色の
しかし彼が、
帝国と教会、皇帝と大司教の
数世紀前から、戦乱に明け暮れるシャキールという軍事国家と、布教の
やがては二大勢力が力を合わせることで、かつての小国は世界最大の覇権国家までのし上がり、聖導教会も人心を束ねて強大な権力を持つに
そして第四代皇帝ドルガスは、ユピールを相談役として重用していた。
ユピールが後継者争いの際に様々な謀略を駆使し、ドルガスを皇帝に押し上げた最大の貢献者だったからだ。さらに思想的にも二人は相性が良かった――特に、罪紋者に
「ほっほっほっ。罪紋者はしょせん罪紋者。どんなに
見事な白髭を撫でながら、リゼータの功績を
それを聞いたルルエが、挑戦的な
「あらあら。それでは罪紋者はどんなに
ユピールの白眉の下の瞳に、一瞬だけ驚きが走る。
しかしすぐに余裕の笑みを取り戻して、説法じみた口調で言い包めようとする。
一方のルルエも本気で罪紋者を
それを皮切りに
「ほっほっほ……ルルエ殿。それこそが聖導教典における
「へぇ……救済ですか。聖導教典によれば、
「
「それはあまりにも
「ほっほっほっ。それだけの罪を神罪魔帝は犯したのですよ。偉大なる創世母神様を、あの
罪紋者は影の中で苦しみ
急に水を向けられて、しばらく
「よく言ったぞユピール! その通りだ! 罪紋者が間違っても聖職に
子供のように
ドルガスが「そうだな……ううむ」と
よく見れば、ユピールのその細い肩が小さく震えていた。
不思議に思ったドルガスがユピールの顔を
「ククククッ……クヒヒヒヒヒッ。そろそろ調子に乗った
もう我慢できないといった様子で、肩を揺らして笑うユピール。
陰湿で
そんなあまりにも背理的な大司教の
ドルガスにも、ある程度は
帝位に辿り着くまで、
だがそんな彼でさえも、ユピールの底知れぬ悪意と智恵がただ恐ろしかった。だがそれでも、結局は今回も――勝つのはユピールなのだという確信があった。
「う、うむ……ならば貴様に任そう!」
震える声を
「……クヒヒッ、クヒヒヒヒヒヒッ!
地獄の底から聞こえて来るような狂笑が黄金の
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〈作者コメント〉
どうも。クレボシと申します。
2章が始まりましたが、いきなり不穏な雲行き。
応援・感想・評価などをつけて頂けると嬉しいです。
誤字脱字の報告もしていただけると助かります。
※タイトル(ABYSS×BLAZER)はアビスブレイザーと読みます。ブレザーじゃないですよ。
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