誰もが間違える双子の美人姉妹を俺は見分けられるらしい

みょん

有名な美人姉妹

 俺のクラスには有名人が二人居る。

 有名人とは言っても芸能人のようなものではないのだが……いや、恐ろしいほどの美人という点においては芸能人に似たものがあるかもしれない。

 彼女たちは美人ということで同学年だけでなく、先輩後輩にも絶大なまでの人気を誇っており、それは特に絡みの無い俺からしても目に付くほどだ。


「……………」


 さて、どうして俺がこんな風にプロローグ風な語りをしたかと言うと、それは俺の視線の先に答えがあった。


新垣あらがき輪廻りんねさん、好きです! 付き合ってください!」


 そう――告白の瞬間を俺は目撃してしまったのだ。

 特に話したことはそんなにないクラスメイトの男子が頭を下げる先に居るのはとても綺麗な女子だった。

 背中ほどまである明るい色の髪と端正な顔立ち、そして制服の下から押し上げあるボリュームのあるスタイル……明らかに高校生離れした美人がそこには居た。


「ごめんなさい。誰とも付き合うつもりはないので」

「……そっか。分かった」


 速攻でその告白劇は終幕した。

 偶然にもこの場面に立ち会った俺は廊下に居るため、窓際に向かって顔を向けている男子の表情は見えない。

 声が震えていたので泣いているのかもしれないが、結局反対側のドアを開けて彼は走って行ったため、最後までその顔を見ることはなかった。


「……………」


 先ほど、俺はこの高校には有名な美人が二人居ると言った。

 それが今告白をされていた彼女であり、名前は新垣黄泉よみさんだ――さてさて、ここでもしかしたら首を傾げる人が居るかもしれない。

 先ほどの男子は彼女のことを輪廻と呼んだが、俺は彼女が黄泉という名前なのを知っている。


「……なんで分からないんだ?」


 俺は素直にそう首を傾げていた。

 輪廻と黄泉――それはどちらかが真の名前でどちらかが偽物の名前だとかそういうことではなく、その二つはしっかりと彼女たちを示す名前だ。

 さっきの男子然り、他の人も然り……どうして分からないんだと俺は首を傾げたその時だった。


「だからさぁ……なんであたしを姉貴と間違えるわけ!?」


 教室の中から響いた声に俺はギョッとした。

 恐る恐る中を見るとそこに居るのは間違いなく黄泉さんなんだが、普段から教室に居る彼女からは聞いたことのない言葉が続く。


「似てるのは分かるっての! でもそれなら一番最初にどっちかくらいの確認はしろっての! 姉貴も全然付き合う気がないのは分かってるから代わりに断ったけど……あぁめんどい! と間違うなんて!!」

「……………」


 普段聞かない彼女の喋り方は一旦置いておこう。

 輪廻と黄泉という二つの名前と、今の彼女の言葉で分かっただろうが彼女にはとても似た顔立ちの双子のお姉さんが居てそっちの子の名前が輪廻なのだ。

 彼女たちが有名なのはその美しさもそうだが、何より全く区別が付かないほどに顔立ちも体付きも、そして声すらもそっくりなのである――正に究極の双子姉妹だ。


(黄泉さんってこれが素なのかな……?)


 いつも教室で見ていた黄泉さんはとてもお上品な印象だ。

 それこそお姉さんの輪廻さんもとても上品で物腰柔らかく、世界が違うならそれこそ聖女のような優しさを持っている人にも俺には見えている。

 そんな輪廻さんと一緒に笑っている姿を見せる彼女もそうだと思っていたが、やはり人間というのは隠れた何かを抱えているようだ。


「……どうすっかな」


 そもそもどうして俺がこの放課後に教室に戻って来たのか、その理由は単純で明日の小テストの内容である問題集を忘れたからだ。

 それで戻ってきたら告白の瞬間に立ち会うのも予想外だったし、何より黄泉さんの

あんな姿を見たのも予想外で……完全に中に入るタイミングを失ってしまった。


「……よし」


 だが、俺も成績のために後には退けない。

 俺はポケットからティッシュを取り出し、先っぽを尖らすようにしてから鼻に突っ込んでクリクリと弄る……そして大きなくしゃみが出た。


「へっくしょい!!」


 いやぁ素晴らしいくしゃみが出たものだ。

 少し教室の中でごちゃごちゃした音が聞こえたが、俺は何食わぬ顔でドアを開けて中に入るのだった。


「……あれ、新垣さん居たんだ?」

「こ、こんにちは長瀬ながせ君。こんな時間にどうしたの?」


 思いっきり机の上に足を上げていたけど今はもう元通りだ。

 たぶんさっきの音は慌てて足を下ろしたんだろうことが容易に想像出来て、その時の慌てようを見たかったような見たくなかったような……取り敢えず、俺は可能な限り演技をするような勢いで平常を保った。


「ほら、明日の小テストの問題集を忘れちゃったんだ。それで取りに来たんだけど何かあったの? さっき男子が一人飛び出していったけど」


 おいおい完璧な対応じゃないか?

 あくまで偶然を装うように、あくまで何も知らないかのように口にした俺に黄泉さんも普段と同じ感じで対応した。


「そうだったんだ。私はちょっと用事があったの――飛び出していった男子? に関してはちょっと分からないんだけどね」

「そっか……あ、あったあった」


 目的の物を見つけることが出来たので一安心だ。

 だが……いつの間にか鞄を手にしていた彼女が俺のすぐ傍に来ており、俺は突然のことに分かりやすく驚く。


「ちょっと、そんなにギョッとしないでよ。私はお化けか何かなの?」

「いやいや、いきなり近くに居たからビックリしたんだよ」

「ふ~ん、まあ確かにそれはあるかも――ねえ長瀬君」

「うん?」

「教室に入るまでに何も聞こえなかったかな? 私、ちょっと大きな声を出しちゃったの」


 まさかの自分で言っていくスタイル!! ただこれはどこか確認という意味があったようにも聞こえ、俺の心臓は大きく跳ねたがそれでも表情に出さなかったのだけは褒めてほしい。


「いや? くしゃみをした後になんか物音が聞こえたくらいかな?」

「そっか。変なことを聞いてごめんね?」

「ううん。全然良いよ。それじゃあ俺はさっさと帰って勉強するから」

「うん。さようなら」

「じゃ、また明日」


 教室から離れた後、俺は小さく息を吐いた。

 別に盗み聞きをしたことについては申し訳なく思うけど、あれは不可抗力みたいな部分があるので気付かれたところで仕方のないことだ。

 俺がどうして誤魔化したかったかというと、今まで見たことがなかった姿でもあるし、それを確認するかのように聞いてきた時点で黄泉さんが隠している姿なのは間違いない――だから俺は誤魔化した。


「……お」


 そんな風に廊下を歩いていたら一人の女子が歩いてきていた。

 彼女は先ほど見た黄泉さんの姿に酷似しており、つまるところ彼女が黄泉さんの姉である輪廻さんだと分かる。


「こんにちは」

「どうも」


 柔らかな微笑みで挨拶をされたので俺も返事を返した。


「……似てるなぁ本当に」


 彼女たちはよく似ている。

 だが俺はどうしてか彼女たちの違いが分かるのだ……正直どうして分かるのかが分からないという状況だけど、彼女たち二人を目にしていてもどちらが輪廻さんでどちらが黄泉さんかが分かる

 特別なモノは何もないはずなのに、それでも分かるからこそ不思議に思う――なんで他の人は間違えるほどに見分けが付かないのだろうと。


「でも……なんかにって言ってたな」


 あれは間違いなく黄泉さんが輪廻さんに良くない感情を持っていた証明だ。

 俺が彼女たちのことをそこまで知っているわけでないから色々と言えることは少ない……でも、教室で二人を見た感じ凄く仲は良さそうだった。

 もしあれでお互いにお互いを嫌いなのだとしたら大した役者だけど、少なくとも頼りない俺の目から見た二人は間違いなく仲が良いと思えたのだ。


「分かんねえ……まあでも、あんなレアな姿を見れたとはいえそもそもそこまで絡みがあるわけでもないし……俺がいくら考えたところで仕方ないか」


 まあでも、明日から少し黄泉さんの見方が変わるだろうなという気はしていた。


「……何も起きないよな?」


 特に取り柄の無い平凡な男子高校生の俺、長瀬明人あきとはそんなことを考えながら帰路に着くのだった。




【あとがき】


書き貯めしてるので毎日出します。

尽きるまで。

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