第13話 筋肉黒人デス

まるで爪楊枝が指に突き刺さったような痛みと共に、瀬名は意識を覚醒させた。

ゆっくりと瞳を開くと、目の前には知らない天井でも見たことがある天井でもなく、厳つい顔を持つ知らない男がいた。


本来であれば驚く所であるのだろうが、瀬名には気がついたら目の前に男の顔がある経験が3度あった。その内半数以上がホモだ。

ちなみに残りの1回は父。


瀬名は淡々とそして反射的に、思いっきり足を振り上げようとしてた。


だがガチャっと金属が擦れる音と冷たい感触がするだけで足は動かなかった。そして瀬名は自分が手足首を枷のような物で拘束され、体がTの字になるように手足を固定され立たされていることがわかった。


既視感がある。

あれはエリートポリス実験学習……だが地面に抑えてつけられている訳では無いし、人力ではなく道具を使われている。つまりはノーカウント。


これは本格的に厄払いか、有名な神社か霊媒師やら御利益がある場所に行くことを考えてしまう。ここ2日は不幸すぎる。もし誰かに呪われているぞと言われても信じるね。


「こんばんは。気分はどうだい?」


目の前の男は顔を遠のけ、そう問いかけてきた。

じーっと見ていると、その男が先ほどの筋肉黒人と瓜二つだと思った。

黒スーツにサングラス。ちょっとサングラス恐怖症になりそうだ。

筋肉黒人は流暢な日本語だった。ちょっとだけカタコト属性を望んでいたんだけどな。


「最悪以外の言葉があると思うか?」


首は自由に動かせたので、この部屋を見渡しながらそう返事する。


俺は手足を銀色の枷で掴まれている。そして上半身裸。なぜ?下半身はある。それもちゃんと気絶する前と同じ服装だ。白いポロシャツは机の上にあった。


俺がいる空間は綺麗な部屋だった。白い壁に、白い床。窓は無く、何かを操作するようの機会がある。相手は2人。筋肉黒人と知らない黒人。知らない黒人はずっと静かだ。


白い部屋に白い家具。そして黒人に黒スーツに黒サングラスときた。もしかして白い部屋と黒人で錯覚絵みたいなことをやっているのだろうか。


しょうもない冗談はさておき、真面目な話に戻ろうか。


流れ的にこの2人は少女の護衛だよな。警察はありえない。誘拐組はデブを吹き飛ばされたことから考えにくい。別の誘拐組織?……うーん頭が痛い話だ。


「今はどんな状況なんだい?」


少なくとも筋肉黒人はこんばんはと言った。一晩は過ぎていないと考えていいだろうか。


「今から尋問さ。洗いざらい話して貰おうか瀬名君。」


その言葉は意図的に喋る速度が落とされゆっくりだった。筋肉黒人はさぞ言葉遊びが好きと見える。


それはさておき、何を拷問するというのだよ。名前がわかる程度には調べたんだろ?なら色々とわかるだろ。俺があの8人組と関係がないことぐらい……もしかして俺が知らないだけで国光関係?やっべ死ぬわ俺。なかなか悪い人生だったわ。また来世頼む。今度は中級国民にしてくれ。


「それで何が知りたいのかな?生憎と俺も知らないことが多くてね。」


道化のように独特なトーンで話した。どんなときでもおふざけと笑える精神力って大切だと思うんだ。相手がふざけているならなおさらのこと。


「大丈夫さ。私が質問して、君が答える。簡単だろ?」


「…それで何が知りたいんだい?」


簡単。聞こえだけは良いな…とりあえずどうでもいいから、俺が生き残れるのか生きれないのか知りたい。このまま口止め的な意味合いで俺殺されない?大丈夫だよね?少女も俺は助けてくれたと説得してくれるよね?


…少女が知らないうちに、もしくは嘘をついて隠密的に殺されそうだな。おい、これでも俺は智美中学校の特待生だぞ?……だめか。弱い。適当に事故死報道すれば終わりじゃん。


生きれる未来が思いつかない。


疑わしきは罰せよ。悲しい世界だな。


「まずは…そうだね、目的は?」


目的……少女に接触した理由か?


「ただの善意ッグォ……ォ…すごいな。」


瀬名が「善意さ」と言い切る前に、静かな黒人は何かを操作する機械をポチッとボタンを押した。するとまるで静電気のような痛みが全身に巡ってきた。それは瀬名を目覚めさせた痛みに酷似していた。


恐らく手足の枷から電気を流したんだろう。これで間違いない。この部屋は拷問部屋ですね。なんで真っ白な部屋なんだろう?血が目立つだろうに。


「ん?…あまり効かないのか?」


まるで疑うように言った。


「まだ傷口に塩を塗り込んだ方が良いよ。そっちの方が簡単で痛い。まぁ死んでしまうけどね。」


実際、そこまで痛みはなかった。電気で与えられる痛みに経験はなかったが、大した物ではなかったな。多分、ナイフで傷つけられた瞬間の痛みの方が痛い。そして肉を抉った方が痛いと思う。


「そりゃ困る。まだ死んでも貰っては困るよ。」


話し方が先ほどの遊ぶような物に戻っていた。驚くのは一瞬。切り替えるのも一瞬。さすがきっちりスーツを着ているだけある。


…なんだこの茶番は。もっとスパスパやって、さっさと終わらせて欲しい。無駄な会話省きやがれゴラァ。


そんな心情とは別に吐かれる言葉は冷たく冷静な物だった。


「そうですかい。」


先ほどの心情はわざわざ筋肉黒人の怒りを買ってまで言う価値のある言葉ではなかった。俺は怒らせてブン蹴られたくないのだ。この俺を気絶に追い込んだあの蹴りは痛かった。もう2度と受けたくない。


だがその電気拷問?も遠慮したいな。俺は電気拷問学についてよく知らない。


少なくとも脳の情報伝達が電気信号で行われているのは知っている。そこに影響が出るレベルの強さの電気が加わると精神が崩壊して廃人になるのだろうか。雷が当たって死んだり、逆に天才のように覚醒する事例をニュースで見たことがある。

そういえばさぞ有名なルパ○三世で電気で拷問するシーンを見たこともあったわ。


大丈夫っぽい?ただ痛いだけで精神に別状はない?そう考えるとちょっと気が紛れたかも。


「はぁ……その体は伊達では無いということだね。」


筋肉黒人はそういいながらため息をついた。視線の先には瀬名の上半身があった。その体には3つの大きな傷があった。


切り傷など細かい傷こそ少ないが3つ。そう、3つだけ普通に生活していればあり得ないであろう程の大きな傷があった。


1つは国光で子供用ハサミをグサッと横腹一撃。血がドバァ、傷口アッツ、ドウスレバイイノ!?ウッ救急搬送!、内蔵無事で良かったねなどなど…ここで俺は今世で理想を捨てた。この一撃で俺の優しさは消えた。煽りと男で血なまぐさく汚い生活こんにちはだ。


残り2つは底辺で、拳銃で肩ドギャン、肩ズバッだ。だがその時には精神は出来上がっていた。余裕だったぜ。まだ子供用ハサミの方がヤバかった。


ちなみに細かい切り傷は全部底辺組によって作られた。


ずっと放置してきたが底辺組はそのまま底辺である。

社会の底辺。小卒、中卒、高卒が溜まった掃き溜め。治安は……スラム街より全然良いよ?ぐらいかな。警察もちゃんと機能してるし。

そして俺はひょんなことから、そこと因縁が出来てしまった。その町は国光小学校から徒歩30分の距離にあります。どうなってんだ国の管理体制。


俺の激しい人生の原因の7割ぐらいは底辺組だ。小学校は所詮小学校。主武装がほうきで優しい戦争だった。底辺組は主装備は拳、鉄パイプ、怪我なんて日常茶飯事。

ちなみに拳銃は違法だ。底辺にもルールがある。その闇ルート(拳銃入手ルート)を探しに底辺総出で探しに出たの楽しかったなぁ。最初はオラつく普段は縁が全くないグループも拳銃と聞いた瞬間あ?手…かすぜ?ちーと手伝わせろや、とがらりと変わるんだ。なかなか良い体験だった。まぁその混乱を突いて更なるクソイベントが出来てしまったのだが…忘れよう。あれは悪い夢だ。


底辺組の卒業校が国光小学校卒率は脅威の7割である。逆に残りの3割は何処なんだろうか。


筋肉黒人はしばらくたっても何も言わなかった。側にいるもう1人に関しては、今の今まで一言も喋っていない。

なので瀬名は気になる事を聞こうと声をあげた。このまま状況が停滞するのはよろしくない。明日も学校があるんだ。行けるかは知らないけど。


「それで、確認なんだけどあんたらって少女の護衛か?」


「そうだな。」


筋肉黒人はうなずいた。その様子に嘘の気配がしなかった。


別の誘拐組織って線が消えて本当に良かった。


「…これはあんたらの監視体制に問題があると思うんだが?どう思います?」


「なんだと?」


若干ドスの効いた声がした。サングラスで目が見えないことがより一層怖さを引き出ささせる。だが気にせずに瀬名は言葉を続ける。


吐いた言葉は消せない。もう押し通すしかないのだ。


「俺が最初に少女を見ていたときは、あんたらが追いかけているのは見た。だが次に見たときはあのデブが追いかけてたぞ。あのデブが。どうなってるんだ?」


「…何も知らない分際で言うな。」


瀬名は声で察した。怒っていると。

だが知らないからしょうが無いだろう。そして気になるのだ。たった7人程度で抑えられる程の護衛だったのか?


この部屋は白すぎる。そんな部屋が刑務所やそれに連なる施設にあるとは聞いたことはない。もしかしたら存在ごともみ消すための、権力者御用達の施設かもしれないが聞いたことがなく、あくまで可能性なので除去する。

つまりわざわざ人を収容出来る部屋を持つ家と仮定される。そんな部屋を持つほどの上級国民家が雇う護衛がたった7人と警察?ごときに止められるのだろうか?


何があったんだ?それが気になる。俺の生存確率よりも気になる。


「事実だろ?」


そう言う瀬名の目には少しだけ輝いているように見えた。


「フンッ」


そんな瀬名の様子と言葉が筋肉黒人の怒りを買ったのだろうか。筋肉黒人はかけ声と共に瀬名の腹を殴った。


「グッ……ぉぉ…ぅ…」


痛みに悶える瀬名。今初めて両手足が固定されていることを感謝した。もしも固定されていなければ、無様に地面を転がり回っていたところだろう。


「はぁ…クズが…」


サングラスで目こそ見えないが、そのわずかな動きには蔑みが含まれていた。


筋肉黒人のその言葉に瀬名は苦笑いする。瀬名はクズと呼ばれ、案外間違いじゃないなーーと思った。


社会的に役にたたないし、法律的にグレー寄りの黒なことやってたり、普通の社会生活が出来ないだろう…将来的に俺は底辺組に永久就職するのではないのだろうか?

今のうちにごまをすっておくか。


「1つ聞いておこう。何処の国の者だ?」


「…なんだって?」


筋肉黒人が何を言っているのか意味がわからなかった。

この白肌黒髪黒目はアジア系の証…この世界だと関係なかったわ。肌の色以外はもはやランダムと言われている時代。でも肌の色でアジア系だとわかるはずだ。

確かに俺は捨て子らしいだが……もしかして生みの親は海外だったりするのか?この人は顔も知らない両親について何か知っているのか?


「いつ入れ替わった?随分と長いこと瀬名やってるんだろ?」


……違うわこれ。ただお前年相応じゃねぇ、適当な子供誘拐なり殺すなりして戸籍情報得ただろ?って疑ってるやつだ。多分。

うーん前世の力…ですかね。それ以上の説明のしようがない。強いて言うなら…


「俺は最初から瀬名だぞ。あの日、父に拾われ性が決まったときから俺は瀬名だ。」


里親として父が決まった時、俺の性は決まった。それまではただの騎士だ。…なんか悲しいな。なんだよただの騎士って。なんで俺の名前は騎士なんだ。これは一種のいじめだろ。その名前をつけたのは孤児院の先生だ。つまり孤児院の先生は敵だな?


瀬名は怒りを込めて、筋肉黒人を睨む。この怒りには八つ当たりも含まれていた。名前的にも、殴った事的にも、色んな事的にもだ。


「ふん、まぁいい。その体に聞き込むことにする。」


そこで筋肉黒人の拳が瀬名の腹を打つ。久しぶりに、もろに受ける攻撃はとてつもなく激しく痛かった。


だけどこの程度なら死にはしないね。瀬名はそう感じた。気絶する前に食らった攻撃は命の危機を感じた。だけど今は感じない。つまりまだ手加減されているということだ。


そして次の質問が投げかけられる。しばらくの間、質疑応答+暴力言語が繰り返されたのだった。


・・・


「あいつはどうなってるの?」


少女は、家に帰り、荷物を没収され、護衛の人に怒られ、母にコッテリ搾られた後、側にいる護衛に問いかけた。

その護衛は、2桁いる護衛達の中で一番強く、一番偉い男だった。今回の一件を受け、しばらくは少女のお目付役は彼になるだろう。


時間はすでに深夜を越えていた。


現在は母にコッテリ搾られた後、自分の部屋に帰っている途中だった。少女は眠気を我慢し、目を擦りながらもそう問いかけた。

そこには、今日の内にプレゼントを渡せなかった事に対する怒りは無かった。


「あいつ…とは誰のことでしょうか?」


検討もつかないと護衛は首を傾げる。


「それはあいつよ。あいつ。」


護衛は何となく例のあいつが思い浮かんでくるがあえて、そうあえて言った。


「名前…知らないのですか?」


半目で少女を見つめる。少女はとても鬱陶しそうに言った。


「…うるさいわね。いつもは自分から覚えてくださいって顔に書きながら言ってくる

じゃない。」


少女は自然とペコペコと頭を下げながら息子を紹介する大人や、こびりついた笑みを平然とする大人が思い浮かんだ。

その人達からしたら残念だが、少女はその紹介された息子の顔と名前は思い出せなかった。


「それならその人は覚えて欲しくなかったんでしょうね。一体何をしたんです?」


「もういいでしょそのことは。で、あいつは今どうなってるの。」


護衛の一言に不機嫌になりながら、話を切り替える。


「さぁ、わかりません。」


護衛は平然とそう言った。一瞬拳が出そうになった少女だが、絶対に当たらないということは覚えているので我慢した。


更に不機嫌になりながら命令する。


「確認しなさい。」


「少々お待ちを。」


さすがにそこまでされたら、すっとぼける事はできない。護衛はスッと耳に装備している小型インカムで連絡を取る。

サングラスを装備する目的通り、護衛のわずかな目の変化を隠した。護衛は少しだけ長話をした後、少女に言葉をかける。


「帰ったそうです。」


「そう、身元調査をしておきなさい。後日訪問するわ。」


「えっ?」


突然言われた言葉に、護衛は戸惑いを見せた。


妹様は今訪問すると言ったのか。実際に家に出向くと言ったのか?


それはまずいな。今その彼は尋問中だ。たとえ無事に終わったとしても、その事実を知られてしまえば我々に良い印象を持つ訳がない。少女に嫌われるのはごめんだ。せっかく良い感じな関係になれたのだ。


それを失うのは仕事を失ってホームレスになるよりも辛い。


妹様の言い分によれば助けて貰ったらしいが、実際に彼はどう思いなぜ行動したかはわからない。もしかしたら裏で誘拐犯と繋がっているかもしれない。少なくとも初対面の女性にも臆することなく、妹様が気にならない程度には変な動きを出さなかった精神が強い男だ。中学生ごときの餓鬼が。それも育ちも悪い。


信用ができない。


そんな奴のところに出向くと言ったのか。危険とは思わないのか…いやそう思わせないように彼は動いた?


「何よ。今度はちゃんと事前に言ったわ。ダメとは言わないわよね?」


「わざわざ出向く必要はあるのでしょか?」


護衛は必死に無理と思わせる言葉を考える。だが頭は空回りするだけで何も思いつかない。役立たずめ。


「自分で行かなきゃ意味が無いでしょ?お礼は自分でする物よ。礼には礼を、無礼には無礼を。そう教わったのだけど?」


確かにそれは何時ぞやの時に言った言葉だった。なぜ教育係になってしまったのだろうか…まぁおかげで妹様に顔を覚えられる程の関係になったからいいけど。


「礼には及ばないという言葉もありまして…」


「私は恩と感じたわ。あなた達がなんと言おうとそれは変わらないわ。それに個人的にも気になることがあるし、1週間以内に準備を終えなさい。」


ダメ元で言った言葉は、予想通り意味が無かった。だがそんなことよりも個人的に気になる事とはなんだろうか?気になるが、先に返答をしなければならない。


途切れ途切れに返事をする。


「…1週間は無理です。」


1週間では不安が残る。わかっていることが少ないのだ。今現在では仕事が溜まっていたり、控えていたりはしない。だが困難が重なれば1週間程度では終わるとは思わない。


「なら1ヶ月以内。これ以上は我慢しないわよ?」


いつもなら2週間と言ってきそうだったが、拍子抜けだった。1ヶ月であればなんとかできる、…だろう。まぁそれをやるのは俺じゃないから関係無いね。そこまで引き延ばせたら俺は充分働いた方だろう。できれば半年に延ばしたい所だが、妹様は宣言通り我慢しなさそうだ。我慢よりも抑制して頂きたい所だが、また勝手に抜け出されても困るので、やむを得ずに認証する。一ヶ月なら母様だって怒らないだろう。


「……わかりました。」


「それじゃお願いね。」


そこで少女の部屋にたどり着い。そして1人、部屋に帰っていく。少女はこのまま眠るだろう。


護衛は少女を部屋に送った後、警護は別の護衛に任せて、1人母様の元へ行く。それは瀬名の対応を決める為だ。


これは一護衛がどうこうする問題では無い。これは雇い主である母様に判断を仰ごう。一部護衛が勝手に行った事にするのか、それとも裏で対処するのか。


彼の情報収集はあの8人よりも優先度が高くなった。ぐんぐん急上昇した。連年希に見ぬ上がり方だ。捜索班は早急に彼の情報を集めて欲しいものだな。


彼はインカムで部下に連絡しながら母様の元へ向かった。


・・・


「そうだな……、両親は何処にいて、何をしている?」


「母は知らん。父は県内のどっか。覚えてないよそんなこと。」


瀬名がそう言った後、筋肉黒人が無言で瀬名を殴った。それに瀬名は無言を返す。


それはまるで憂さ晴らしをするように拳を見舞う。それに対し、瀬名は無反応であった。危害を加えられているというのに気にも止めない。


筋肉黒人も筋肉黒人だが、瀬名も瀬名であった。ウンともスンとも無い瀬名も悪いと言えるかもしれない。


それは瀬名が呻吟しないことにより、それはまるで作業のように行われていた。


瀬名は今世では痛みに対する耐性が強かった。最初に1回、痛そうな声を出したきり、瀬名がそれ以上の声をあげることは無かった。すでに殴られ続け感覚が麻痺したのか、耐性がついたのか知らないが痛覚は大して感じていなかった。


だからと言って痛い演技をしない瀬名はどうだろうか。そしてそのことをどうにとも思わない筋肉黒人はいかがなものだろうか。


筋肉黒人は何の為に殴っているのか理由を覚えているのだろうか。サンドバックとの違いを言葉を発するかどうか以外で思い浮かべれているのだろうか。


そして何も言わず、ずっと側で待機している静かな黒人は何を考えていたのだろうか。


「……なんです?」


ついに静かな黒人が喋った。耳元に手を当てていることから、耳に装備している小型インカムで何処かと連絡をしているのだろうか。筋肉黒人をすっぽぬけ、意識をそっちに向ける。黒人言った質問に対して適当に、「好物は林檎だ」と言っておく。即座に拳が来た。だがどうでもいい。

静かな黒人は相変わらず表情の変化が乏しい。そして先ほどの一言きり何も話さない。ウンウンとうなずくばかりである。


「こっち。」


「なんだ?」


静かな黒人は、筋肉黒人を手招きし、2人は内緒話を始めた。残念ながら何を言っているのかわからない。2mも離れていないというのに聞こえないとは、すごい技術だな。どうやればそれだけゴニョゴニョ話せるのだろうか?


「なぁ、あんた智美中学校所属か?」


「…そうだな?」


少し戸惑いながらそう言う。さすがに理解が出来なかった。今所属中学校を問うたのか?今さら?え?確かに俺はポロシャツにズボンだが、少女が俺の上着を持っているはず…姉も智美中学校だったけ?でも少し調べればわかる話ではないのか。…ん、理解が出来ない。


可能性としては智美中学校の学園長がスーパー権力を持っていて、俺がそのお零れを貰えて助かったのかな。


「国光小学校?」


若干片言になっていた。


「そうだね。」


何故小学校?これでハイパー学園長の可能性は無くなった。本当に筋肉黒人達は何を確認する必要があるのだ?


「……謝罪しよう。」


「…ナンダッテ?」


信じられない言葉が飛んできた。


謝罪。


自らの非を認め、相手に許しを請う行為である。 謝罪する側される側共に 個人 単位、 団体 単位、 国家 単位など様々な規模があり、謝罪する理由は本心からのものと、戦略的なものに分けられる。


その謝罪は流れて気に本心的なものだろう。だがなんで今さら?そしてそれは何に対してだ?


「すまなかった。賠償はする。許してくれ。」


筋肉黒人は頭を下げた。


何を言って…何やってるんだこいつ。


「とりあえず、謝罪する気が本当にあるというのならこの拘束を早く解いてくれないか?」


「そうだな。」


黒人は何かを操作する機械がある場所から鍵を取り出した。そして手足枷を解除し、瀬名の手足は自由になった。


とりあえず動こうと足を踏み出そうとしたら、急な痛みを腹部に感じ、土下座するように地面に倒れ込む。

それは急に動き出した事により、今まで感じなかった痛みが襲ってくる一時的な物であって、今はもう大丈夫だ。慣れた。


だが今の土下座の状況から動こうとは思わなかった。顔を地面に向け、考え込む。


どうゆうことだ?何があった。いや何が起こった?

枷が外された?どういう意味…いや許さないぞ。お前は何回俺を殴ったか覚えているのか?(俺は覚えていない…だが)許さない。


優しくしたからだって気を許したりしないぞ。


そこで頭上から声がした。


「大丈夫か?」


心底心配そうな声だった。


「お前のせいだろうが。」


それに俺は苛立ちながら立ち上がる。思い出してみると原因は全て筋肉黒人にあるようにしか思えなかった。というか今日の出来事の半分ぐらいはこの筋肉黒人が関係している。


決めたぶん殴る。最後にこいつをぶん殴って逃げる。どんな陰謀や策略があっても関係無い。ブチ殴る。


「さて、説明して貰おうか。どういうことなんだ。」


ぶん殴ることにはぶん殴るが、良い感じな雰囲気なので事情を聞き出そうとしてみる。


筋肉黒人は素直にその答えを言った。

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