山奥で行き倒れた私は呆れるしかなかった~これが噂のスローライフ?~

大然・K(だいぜん・けー)

第01話 ここどこ?



 誰かに呼ばれた気がして目を開けた。


 眩しい!


 思わず手を上げて日光を遮る。


「やっと起きた」


 声の主は私を見下ろしていた。


「ヒッ!」


(誰?)


 周囲を見回すと、遠くに高い山が見えるだけで、他に目立ったものはなかった。


(ここ、どこ?)


 私は、どうして、こんなところで寝てたの?


「熱中症になると大変だ。水を飲んで」


 おそらく、私より少し年上の青年が何かを差し出している。


「これは?」


「水筒だよ。水が入ってる」


(これが? こんな形の水筒は見たことない)


 私がいぶかしんでいると……、


「あっ! 大丈夫。毒とか入ってないから」


 青年は水筒を自分の口に当て、ゴクリと飲んだ。


「ほら。平気」


 再び水筒を差し出してきた。


「ありがとう」


 水筒を受け取ると、慌てて口に運んで水を飲み干した。


(ヤバッ! 全部飲んじゃった?)


「ご、ごめん!」


「おかわりいる?」


「ちがくて。全部飲んじゃった」


「大丈夫。水はいっぱいあるから」


(良かった……)


 これが最後の一杯とかだったら、殴り殺されてたかもしれない。


「ここはどこ?」


「さぁ?」


(どゆこと?)


「僕もここがどこなのか、さっぱりわからないんだ」


「えっと……、どうして?」


「地図とか、ヒントもなにもない」


 意味不明すぎて、この人がなにを言ってるのかわからない。


「キミは、どうしてこんなとこで寝てたの?」


「さぁ?」


 わからない!


 思い出せない?


「そっか。とりあえず、家に行こうか?」


(家あるんだ! 何もないかと思った)


「行きたい!」


 立ち上がると背中がこすれて痛かった。


 どうやら私は、木を背にして座っていたようだった。


 振り返ると、太い幹に長い枝の大木が立っていた。


「おっきぃ」


「この辺りで、一番大きな木だよ」


 そのまま空を見上げると、太陽はてっぺんで輝いていた。


「着いてきて。案内する」


「うん」


 青年の背中を見ながら歩きだす。


 空気が澄んでいて美味しい。


(こんなのはじめて)


――スゥゥゥ――ハァ。


 空気を満喫していたら、青年が笑顔で振り返って、


「ここは、水と空気は最高にオイシイ」


「うん! ホント」


 私はそれが、とても、とても嬉しかった。


 だって、空気を目一杯吸い込んだことが、はじめての経験だったから。


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