最終話 そしたらさ、ベンゲルハウダーの一流冒険者が助けにきたよって言うんだ




「ベンゲルハウダーだ!」


「見えてきたねえ」


 ウルが引っ張ってる荷車の上でパリュミが喜んだ声を上げた。

 王都の宴会が終わって三日、ボクたちはベンゲルハウダーに帰ってきたんだ。まだ遠くに見えるだけだけど、石と木で造られた壁が懐かしいね。王都の高い石壁とは全然違う。それでもあそこはボクたちの故郷みたいなもんだ。


「ほらミレア、そろそろ降りなよ」


「はいはい」


 荷車に乗ってるのはパリュミとサータッチャ、そいでミレアだ。ミレアだけVITが低いんだよね。

 お土産を山積みにした荷車は、ボクとザッティ、シエランとウルが交代で引っ張ってきたんだよ。


「けっきょく十五日ですか」


「けっこう空けてたねえ」


「まずはお掃除からでしょうか」


「その前に事務所で戻ってきた報告と、ごはんかな」


 ね、シエラン。ごはんが先だよね?


『夜空と焚火』は王都からこっちに来る人たちの準備中で、『一家』と『白の探索者』はこれまた偉い人たちと街道整備のお話し合いなんだって。

 冒険者協会に渡すお手紙預かってるんだよ。帰ってくるのがもうちょっと遅くなりますよーって。



 そうそう、サワさんたち『訳あり』も宴会が終わったらすぐにヴィットヴェーンに帰ってった。

 今回の氾濫でカタナがたくさん手に入ったから、戻ったら『オーファンズサムライ部隊』を作るんだってめちゃくちゃ張り切ってたよ。どうもサワさん、サムライよりニンジャが人気なのが面白くないらしい。あの人って変なトコでむきになるよね。


『そのうちヴィットヴェーンに遊びに来てね』


 だってさ。



 ◇◇◇



「王都で氾濫に巻き込まれてジョブをふたつ追加かよ」


「しっかも全員上位三次ジョブってね。ちょっとズルくない?」


『ラーンの心』のレアードさんはちょっと悔しそうで、『メニューは十五個』のシャレイヤは楽しそうに話してくれた。

 ベンゲルハウダーに戻ってだいたいひと月、ボクたちは今、迷宮の99層にいるんだよね。


「ひひっ、あっしらも誘ってもらえて嬉しいっすよ」


 そいでなんだかアシーラさんたちも一緒なんだよね。カースドーさん、アシーラさん、ウォムドさんのメンター三人組とおじさんがもう三人。新しく組んだ『昇り龍』っていうパーティだ。


『おなかいっぱい』もあわせたこの四パーティで99層のゲートキーパー、つまりワイバーンをやっつけようっていうことになったんだよね。


「ぶっちゃけワイバーンより、ここまで来る方が大変だったかも」


「『一家』なんかは単独らしいな」


 フォンシーが肩をすくめたよ。


『おなかいっぱい』はキールランターでブラックワイバーンを五体いっぺんにやっつけたわけだし、99層のワイバーンは、まず間違いなく倒せるんだよね。ただ、ここまで降りてくるのが大変だったって話でさ。

 なので、99層突破を狙ってるパーティに声をかけてみたってワケ。


「『おなかいっぱい』がいてくれて助かったぜ」


「いやいや、カースドーさんたちこそ。こういうのはお互いさまですよ」


「そう言ってもらえると助かるな」


『一家』とか『エクスプローラー』ががんばって、ベンゲルハウダーの到達層は123層になった。まだまだ地図は完璧じゃないらしいけど、100層までは万全なんだよね。

 先頭を行くのは大変だけど、ボクらは二番手で楽させてもらってるワケだ。しかも四パーティ合同だから、途中の野営も楽だったしね。



「最初は『おなかいっぱい』でいいのよね。お手本、期待してるから」


「まかせてシャレイヤ。さてさて、ここまで三日も使ったんだし、キッチリやっつけないとだよ。ザッティ、お願いね」


「……まかせろ」


 うん、ザッティも気合十分だね。なんたってボクたちはダメージをもらうつもりなんてないんだから、最初の盾が大事なんだ。



「あれまあ」


「話だけは聞いてたけど、レアってやつか?」


 フォンシーの声には余裕があるんだよね。むしろ嬉しそうっていうか。

 突撃した99層ゲートキーパー部屋にいたのは、普通のワイバーンが四体とレッドワイバーンが一体だ。普通だとワイバーンが一体だけのはずだから、ちょっと違いすぎだよねえ。


「たいしたやること変わんないけどね」


「おう! 『BF・AGI』」


「だねえ。『BFW・SOR』」


 ウルがバフったのはザッティで、続けてボクが全体前衛バフをかけた。ウルとボクのAGIはパーティで一番を争ってるんだよね。

 これでザッティに二重でバフがかかって反応が速くなった。


「……『ワイドガード』」


 ザッティの『ワイドガード』が、パーティの切り札だ。VITとSTRが高いほど、見えない盾が大きくて硬くなるんだよ。


「すぅー」


 そんなザッティの盾のうしろで、シエランが両手にカタナを持って息を吸った。右手に『イマガワブレード』、左は『黒鉄のワキザシ』だ。『ミヤモト』が特にしてる両手にカタナを持った、二刀流ってやつだね。


「『BFWS・SOR』。最近あたしってこればっかりだな」


「INTが高いから、すっごい効いてるよ?」


「そりゃどうも」


 フォンシーが一段上の全体バフをくれる。これで前衛は万全かな。ダメージをもらうつもりないから、自動回復はなし。



 ボクたちのバフが終わってすぐにブレスが飛んできたけど、ボクとウルは全部を避けて、残り四人は『ワイドガード』で傷ひとつない。いいねえ。

 じゃ、攻撃いってみようか。


「『北風と太陽』。ほら、前衛に出番を残してあげるわ」


 ミレアの魔法が迷宮にお日様を作った。『北風と太陽』はとんでもない攻撃力はないけど、ジワジワ敵を焦げつかせるっていうおっかない魔法。ヴァンパイアとかにものすごく効くんだよね。80層を抜けるのに大活躍だったよ。


「『イガニンポー:影槍』!」


「『剣豪ザン・二連』」


 ウルとシエランが弱ったワイバーンをばっさばっさと斬っていく。

 レッドワイバーンをくれたのかな。だったら嬉しいよ。


「んじゃやるよぉ。『発勁』『菩提道次第ラムリム』! ふにゃーっしゅ、『無影脚』!」


 いろんなジョブの力を乗せたボクのキックが、レッドワイバーンの喉に突き刺さった。



 ◇◇◇



「おいおい、完封か」


「すごいね」


 扉の向こう側で見物してたレアードさんやシャレイヤたちがびっくりしてるよ。ふふん。

 なんたってボクたちはキールランターでブラックワイバーンをやっつけてるんだからね。


「シエラン、『大魔導師の杖』だぞ!」


「誰が使いましょう」


 宝箱を開けたウルが『大魔導師の杖』をシエランに手渡した。

 どうしよう、フォンシーとミレアの他でハイウィザード持ってるのってウルとシエランだけど。


「『おなかいっぱい』ってダブルウィザードがいるのにエルダーがミレアとフォンシーだけって、バランス変よね」


 シャレイヤが言ってるダブルウィザードってのは、ロウヒとラドカーンを持ってるミレアのことだ。アイテムが出なかったんだからしょうがないでしょ。


「ウチは魔法火力が弱いのがなあ」


「……すまん」


「あ、悪いザッティ。そういう意味じゃ」


 あーあ、フォンシーだったらさあ。ってボクもウィザード持ってないからねえ。そのうち取ったほうがいいのかな。


 あれもこれもってまったく、冒険者をやってると欲張りになっちゃうのかなあ。



 ◇◇◇



「とりあえずひと段落だねえ」


「そうね、わたくしたちはベンゲルハウダーの100層到達冒険者よ」


「あははっ、ミレアってば嬉しそうだ」


「もうラルカ。当たり前じゃない」


 ボクたちはパーティハウスの六人部屋でダラダラしてるとこ。


 あれから『メニューは十五個』も『ラーンの心』も、もちろん『昇り龍』もワイバーンをやっつけた。

 いっぺんに四つのパーティが100層にたどり着いたわけで、事務所で報告したらみんながびっくりしてからたくさんお祝いしてくれたよ。



「ひと段落といっても、王都から戻ってきてけっこうのんびりでしたから」


「このひと月、本気で深層に行ったのは今回だけだからなあ」


 シエランとフォンシーがマジメなこと言ってるよ。いいじゃない、のんびりだって。

 まあ二人の言うとおりで、王都でレベル50くらいだったボクたちだけど、ひと月かけて100層まで行ってもまだレベルは77なんだよね。


「ウルはレベル100にしたいぞ。ラルカよりずっと速くなる」


「えー、ボクだって負けないよ」


「……ふっ、ライバルか」


 ウルとボクはAGI仲間だからねえ。けどフェイフォンよりイガニンジャの方が伸びるから、レベルが上がるほど負けちゃうよ。

 あとザッティ、それってカッコいいこと言いたいだけでしょ。


「次のジョブも考えないとね。わたくしはカスバドが欲しいわ」


「お、トリプルウィザードか。いよいよアーチウィザードでも目指すのか?」


「そりゃそうよ。けどフェンサーさんを見て、キッチリ前衛ジョブを挟まないとって思ったわ」


「姉さんはなあ」


「フォンシーこそ次をどうするか、考えておきなさい」


「はいはい。ミレアはどうするんだ」


「ハイニンジャかヘビーナイトね。けどロウヒはレベル100を超えるくらいまで──」


 ミレアとフォンシーがウィザード談義だね。二人のINTってパーティで飛び抜けてるもんなあ。



 ◇◇◇



「冒険の話もいいけど、ボクはヴィットヴェーンにも行ってみたいな」


「……いいな」


「ターンたちに会えるな!」


「でしょでしょ、ザッティもウルも行きたいよね」


 王都に『ブラウンシュガー』は来なかったし、サワさんからいつでも遊びにきてって言われてるんだし。


「ヴィットヴェーンに行ったとたん、また迷宮異変だったりしてな」


「それでもいいよ。そしたらさ、ベンゲルハウダーの一流冒険者が助けにきたよって言うんだ。それでもう、大活躍」


「ははっ、一流ときたか」


 気持ちの持ちようだよ、フォンシー。とか言ってボク本人が全然そんな気ないんだけどね。



「あ、そうだ」


「どうしたの?」


「それがさミレア、ヴィットヴェーンに行く途中だけど、ボクの村があるんだ」


「いいわね! ご両親はいるの?」


「うん」


「なら土産だな。インベントリと荷車をいっぱいにして行こうか」


 ミレアに続けてフォンシーまで乗ってきてくれた。

 でもいいね。お土産をたくさんかついで村に顔を出したらさ、みんなビックリするだろうなあ。


「それならさ、コクラ村に寄ってからヴィットヴェーン行ってさ。その次はエルフの里なんてどう?」


「エルフの里ってラルカ、なんにもないとこだぞ」


「それはフォンシーだからでしょ。ボクは行ってみたいなあ」


 そうだよ、ヴィットヴェーンだけじゃなくって、いろんなとこにさ。ほらほらボルトラーンだって行ってみよう。

 ボクたちは冒険者なんだから、いろんなとこで冒険したっていいじゃない。



 ◇◇◇



「こうやって六人でお話してると最初のころを思い出しちゃうよ」


 みんなでワイワイ話してたけど、もう夜も遅くなってきたかな。ちょっと目がショボショボしてきたよ。

 だからかな、六人が集まったときのことを思い出しちゃった。


「やめてよラルカ」


「やだよーミレア。勝手にウィザードになっちゃってさ」


 ミレアとザッティが仲間になったときって、ウィザードとソルジャーだったねえ。ちょっとでも攻撃が当たったら危ないって心配したんだよ。


「ウルはちゃんと合わせるようになったぞ!」


「わたしもモンスターに立ち向かえるようになりました」


「最初はビビったなあ」


 ウルは最初、力持ちだったけどひとりで大暴れだったし、シエランとフォンシーは最初はモンスターを怖がってたもんね。


「……ラルカは最初、どうだったんだ?」


「んーとね、わりかし平気だったかな。シーフでしゅばばってしてた」


「ザッティ。ラルカは最初っからこんな感じだ」


 なんかフォンシーが悪い顔だよ。


「ずっとお気楽で、メシの話ばかりだな」


「いいじゃん」



 冒険者はさ、迷宮に潜って戦って、ちゃんと地上に帰ってきてから、おいしいごはんを食べるんだ。明日も明後日も『おなかいっぱい』六人一緒でね。


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