第46話 冒険って楽しいんだって、やっとわかった気がするんだよ




「おおおおお!」


 なんかレアードさんがすごい声だしてるし。


「いいね! かっこいいな! これだよな、冒険者やるならこれしかないよな!」


 変な感じで壊れてるし。


 革鎧を受け取った次の日の朝、約束どおりに事務所に行ったらさ、ザッティを見たレアードさんがこんなになっちゃった。

『ラーンの心』と『夜空と焚火』のみんなが呆れてるよ? あれ? 呆れてない。むしろ、目が血走ってるような。女の人たちまで。


「でも武器は黒い骨ですよ?」


「やめろよぉ! そういうとこ良くないぞ、ラルカラッハ」


 そんなこと言われてもさあ。事実だし。それとさ、レアードさんってそんな性格だったっけ?



「いつか俺たちも」


 レアードさんたちが気合を入れてる。


「ああ、今の『夜空と焚火』じゃあ笑い話だが、それでも冒険者だ」


 ギリーエフさんたちもだ。

 あ、なんか十二人で円陣組んでる。仲良さそうでズルくない?


「よしっ、今日も気合を入れてレベリングだ!」


 なんでレアードさんが仕切ってるかなあ。



 ◇◇◇



「お、きたか」


 26層で戦ってたら、フォンシーがレベルアップした。レベル24だね。それはいいんだけど。


「コンプリートだな」


 そうなんだよね。どうしよう、『おなかいっぱい』がコンプリートしたときのこと考えてなかったよ。ニクシィさんとレッティアさんがどうするのって顔してこっち見てるし。

 ミレアやザッティだって、いつコンプリートしてもおかしくない。どうしよう。


「あ、あのさ、フォンシー」


「ん? どうした?」


「明日からのパーティ、どうしよう?」


「こうなるのを考えてなかったろ」


 ぎくり!


「あたしとシエランを入れ換えだな。ミレアならウルとだ。ザッティはジョブチェンジしてもそのままで行けるだろうし」


「考えてたんだね」


「まあな」


 どうしよう、フォンシーがすごく頼もしい。もうフォンシーなしの生活が考えられないよ。あ、いや、他のみんなともだけどね。



「あ、だからフォンシーの鎧を先にしたんだ」


「やっと気付いたか。シエランはレベルが上がってるし、あたしは次にウィザードだからな。ミレアが気遣ったんだろ」


 そっかあ、ミレアもちゃんと見えてたんだね。


「当然よ!」


 うん、胸を張ってるミレアもかっこいいや。


「楽しそうね」


「そうね」


 ん? ニクシィさん、レッティアさん、どしたの?


「いや、あんたらと一緒にいてさ、冒険って楽しいんだって、やっとわかった気がするんだよ」


「怖かったり痛かったりするけどねえ」


 そっかあ、二人とも笑ってるもんね。

 レベリングだけじゃなくって、そんなのが伝わってたら、こっちこそ嬉しくなるね。



「あっ、コンプリート。コンプリートよ!」


 そろそろ帰ろうかなって時間にレベルアップしたレッティアさんが、ついにシーフをコンプリートした。レベル22だね。


「やったわね、レッティア!」


 ニクシィさんも大喜びだ。『夜空と焚火』初のコンプリートだもんね。


「次は、次のジョブは、えっと、メイジだよね? そうだったわよね?」


「そうです。レッティアさんも魔法使い!」


「やったあ!」


 シーフってそれだけだとけっこう苦労するんだよね。攻撃力不足だし、魔法も使えないし。

 ボクなんかはすぐにメイジもコンプリートしてもらったから、速い魔法攻撃でなんとかしてたけど、うんうん、わかるよ。


「ううっ、ぐすっ」


 だからレッティアさんの気持ちもわからなくはないよ。けど、泣かないでもさあ。



 戻ってからは大騒ぎになっちゃった。


 もう『夜空と焚火』のみなさんが涙流して喜んでさ、それを見た周りのおじさんたちがどしたどしたって寄ってきて、その人たちの奢りで宴会になっちゃたんだ。

 一緒にコンプリートしたフォンシーなんかは、七ジョブコンプってすげーって驚かれてたし。


 レッティアさんがすぐにジョブチェンジしようとして、明日にしてからだってミレアに本気で怒られてたりもしたよ。前の氾濫のときにボクたちってそれやって苦労したもんねえ。



 ◇◇◇



「似合うじゃないかフォンシー」


「そ、そうか」


 次の日、昨日の夜に受け取った鎧を着たフォンシーを見て、ギリーエフさんが驚いていた。彼だけじゃなくってみんなも驚いてたし、ぼーってなってる人も多かったよ。

 口はぶっきらぼうだけど、フォンシーってエルフで美人さんだもんねえ。肌が白くって綺麗な金髪でキリってした目が、これまたかっこいいんだよ。


 そんなフォンシーは今日からウィザードだ。これまたエルフっぽいね。


 ==================

  JOB:WIZARD

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :60


  VIT:26

  STR:28

  AGI:27

  DEX:34

  INT:38

  WIS:22

  MIN:12

  LEA:14

 ==================


「すごいな」


「なにこれ」


「これでウィザードかよ」


 フォンシーのステータスを見た人たちが思わず呟いた。だよねえ。居心地悪そうだね、フォンシー。

 なんていうか全部すごいんだよね。MINはおいとくけど、これだけ見たらどんなジョブを取ってきたかもよくわかんない。INTがいいかなって感じだけど、レベル0のウィザードってことでここからINTがバンバン伸びるんだ。とんでもないね。



「あの、わたしの肩身は?」


「アレを目標だと思ってがんばりましょう」


「そ、そうね」


 大騒ぎの横にいたメイジレベル0のレッティアさんが悲しそうだったよ。


「ところでわたしは誰と入れ替え?」


「そのままですよ」


「へ?」


「メイジは短い方がいいんです。柔らかいですし、ステータスの伸びもあんまりだから。でもほら経験値は軽いですから、もう一気にレベリングするんです」


「ラルカラッハ?」


 メイジはスキルを稼ぐのと、INTとWISを上げるためにやるようなジョブだからね。

 レッティアさんは次に本職プリーストだからさ。ここは一気に行きましょう。


「あたしはシエランと交代だな。レッティア、がんばれよ」


「えええー!?」


 去ってくフォンシーの背中を見てレッティアさんが叫ぶわけだけど、『夜空と焚火』の人たちってみんな同じコトするんだよ?



 ◇◇◇



 それから十日。レッティアさんはメイジを終わって、今はプリーストをしてる。ニクシィさんはソルジャーのコンプリート目前だね。他の四人もそれぞれ二つめのジョブでレベル20が見えてきた。

 そうさ『夜空と焚火』はメイジ二、プリースト二を持ってる、十分長く戦えるパーティになったんだ。


『ラーンの心』? 五ジョブ目と四ジョブ目でがんばってるよ。なんか『夜空と焚火』とすっごい仲良くなってた。



 そしてボクたち『おなかいっぱい』なんだけど……。ああ、全員分の革鎧は受け取ったよ。

 鎧は置いといて、フォンシーの次にコンプリートしたミレアはファイターになった。そのすぐ後になったザッティはウォリアーだね。二人は予定通り。


 それからボクの番だったんだけど、悩んじゃった。殴りジョブがもう無かったんだよ。

 ニンジャになりたいかなって言ったら、シエランに怒られた。クナイはウルのでしょって。ウルはいいぞって言ってくれたけど、キラキラしてる目を見て諦めたよ。それで結局ウォリアーになることにした。あのときのボクはウルと違ってズルい猫セリアンだったんだ。


 ==================

  JOB:MONK

  LV :24

  CON:NORMAL


  HP :55+112


  VIT:23+38

  STR:24+34

  AGI:34+27

  DEX:35+42

  INT:23

  WIS:20+52

  MIN:19

  LEA:16

 ==================


 ちなみにそのときのステータスがこんな感じだったよ。

 こっからウォリアーで力をつけて、スキルも増やそうって考えたんだ。ウォリアーは自己バフけっこう多いしね。


 エンチャンターをコンプリートしたシエランはっていえば、シーフの予定だったんだけどウィザードになった。いっぺんに後衛ジョブを並べてから前衛に戻るんだって。

 これでウチのウィザードは四人目だ。ボクも後衛考えないとなあ。



『INTとWISを上げなきゃダメだ』


 そしてそしてそして、すごかったのがウルだ。まず、ニンジャにならなかった。

 だったら自分専用バッファーとか言ってエンチャンターになるのかと思ったら、なんとメイジを取ったんだ。INTとWISが上がるし魔法スキルの数も増えるからね。


『メイジも大事だって、ブラウディーナが言ってたぞ』


 もうさ、フォンシーとシエランは泣いたよ。いや、毎回泣いてたねそういえば。フォンシーは泣き虫だなあ。

 で、そんなウルだけど、次はエンチャンターになるんだって。ホントにウルはすごいや。



「どしたあ、ラルカラッハ。飲んでるかあ?」


 ギリーエフさんが声をかけてくるけど酔っ払いだねえ。ボクはジュースなんだけど。なんかすっごく嬉しそうだ。


「本当に感謝してるぞ。これでウチもやってける。ここに来て良かった」


「それはよかったです」


「メシの奢りはいつになるんだ?」


 シエランとフォンシーも嬉しそうだね。


「ようやく深層に戻れるわね!」


 ミレアってば、またまたぁ。まっ先に助けようとしてたクセに。


 今夜は『夜空と焚火』のレベリングが終わった記念の宴会だ。なんとお代はサジェリアさんとマヤッドさんが払ってくれるんだって。気前いいねえ。

 ボクたち三パーティだけじゃない。いつの間にかいろんな人たちまで混じってるよ。


「……甘いものがない」


「ラルカ、おいしいな!」


「そうだね、ウル」



 なんか冒険者ってさ、言い訳作って宴会ばっかりしてるような気がするよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る