第32話 よく見ておくがいい。あれこそベンゲルハウダーの最強だ
「敵、減ってきてるよね」
「ウルもそう思う」
こういうのはボクとウルの役割だ。
さっきからモンスターがまばらなんだよね。氾濫が終わりかけてるのかな。
ボクたちは遠回りをしながら29層の黒門がある広間を目指してる。別に欲をだしてるってわけじゃなくって、そうイェラントさんに言われたからだよ。
一番最後の方でここに来たから、モンスターを全部倒しておきたいんだって。掃討って言うらしい。
「終わりが近いのかしら。もっと経験値を稼ぎたかったわね」
ミレアも同じ考えらしい。ついでにレベルを上げたいのはボクも一緒だよ。
「最後まで油断はダメですよ、ミレア」
「はぁい」
ボクも心で反省だ。そして思いついちゃった。
「ザッティ、レベルは?」
「……10だ。……HPは93、VITは55」
多分察してくれたザッティが、ちらっとステータスカードを見て言った。
それならいけるかな。シエラン、ウル、ボクはレベルがもう早々上がんない。
ウルは次にウィザードだし、ボクはプリースト狙いだ。ジョブチェンジはナシだよねえ。けどシエランは?
「シエランって次のジョブどうするの? 前衛?」
「え、ええ。まあ」
なら、やるしかない。
「じゃあミレア、ってミレアばっかり奇跡じゃマズいよね。フォンシー、いい?」
「ああ、いいぞ。『ラング=パシャ』」
「えええ!?」
フォンシーが安請け合いして、あっさり奇跡を起こした。シエランがびっくりしてるよ。
あ、前衛とは言ってたけど、ジョブを訊いてなかった。大丈夫だよね?
「あの、ジョブチェンジ終わりました」
「へえ? 結局なんになったんだ?」
フォンシーが悪い顔してるよ。けどまあ、シエランだったら大丈夫って安心はあるよね。
「……サムライです」
「へぇ、サムライかあ。どれどれ、ステータス見せて」
「はい」
そっかあ、サムライなんだ。パワーウォリアーとかソードマスターかと思ったよ。ああっ、そうだ。前に次はシーフって言ってたっけ。それでも硬めのジョブを選んでくれたんだ。
ニンジャになるのはクナイとかシュリケンが要るけど、サムライになるのにジョブチェンジアイテムは使わない。サムライはカタナだって印象あるけど、アレはサムライの上位二次ジョブ、ケンゴーになるときに必要になるんだ。
もちろんカタナ使うのがサムライの本領らしいけどね。
==================
JOB:SAMURAI
LV :0
CON:NORMAL
HP :46
VIT:23
STR:29
AGI:14
DEX:21
INT:23
WIS:21
MIN:12
LEA:14
==================
それでシエランのステータス。なるほどなるほど。いい感じで全部が伸びてるよね。AGIが低いのは、シーフを取ってないから仕方ないか。けど、なんでサムライなんだろ。
「MINを上げたいんです」
「はあ!?」
フォンシーがちょっと変な声だした。
「……MINを上げたいんです」
二回言ったよ、二回。よっぽどMINを上げたかったんだね。
えっと、サムライとニンジャ系ってMINが上がるはずだ。そうだったはず。シエランがそう言うんだから間違いない。
「ぐぬう。そうか、その手があったんだ。……ニンジャはウルだし、あたしもサムライを狙うか」
「呼んだか?」
「いや、ウル、独り言だ。すまん」
「そうか」
はい、フォンシーはそこまで。ただでさえ一番ジョブが多いんだから、贅沢言わない。
「それと、斬るのも楽しいかなって」
そう言ってシエランがふふって笑った。どういうこと!?
◇◇◇
それから一時間くらい、敵はますます減ってる。
「もうすぐ広間です」
レベル8になったシエランが地図を見ながら指さした。そっか、もうそんなとこまで来てたんだ。どれどれ。
「なんか大声が聞こえる。たくさん」
「どういうことだ?」
「それがねフォンシー……、よくわかんない」
念のために『聞き耳』を使ってみたけど、なんか戦ってるって感じじゃない。むしろ、歓声? 氾濫終わっちゃった?
「行ってみるしかないか」
フォンシーに促されて、ボクたちは通路を走った。
「まだ戦ってるぞ」
真っ先に広間に突入したウルが言う。うん、たしかにまだ戦ってる。けど。
「最後ってことかしら」
たぶんミレアの言うとおりだ。
広間は骨だらけ。多分ドロップなんだろうけど、なんだかなあ。いくつか宝箱もあるみたいだけど、誰も開けようとしてない。みんなの視線は黒門に集中してる。いやいや黒門の前に広がってるバトルフィールドを見てるんだ。
「そうなんだろうな。それにしても」
「ダークスケルトンナイト……」
フォンシーに続けてシエランがやっとって感じでつぶやいた。声がちょっと震えてるかな。
真っ黒いスケルトンが、これまた真っ黒の骨馬に乗って大きい槍を持ってる。それが六体。おっきいし強そうだ。たぶん今のボクたちじゃ勝てないや。しっぽが垂れるよ。
でも平気な顔してあんなのに立ち向かってるあの人たちなら。『フォウスファウダー一家』だったら。
「手出し無用である!」
オリヴィヤーニャさんがなんか言ってるけど、バトルフィールドの中じゃん。手出しなんてできないって。絶対言ってみたかっただけだ。あの人はそういうトコがある。
「『マル=ティル=トウェリア』」
どががって走り始めたダークスケルトンナイトの真ん中で炎が炸裂した。
やったのはペルセネータさん。
「『マル=ティル=トウェリア』」
もう一発だ。こんどはポリアトンナさんだね。
これだけで敵はヘロヘロだよ。全部足が止まってるし、二体は落骨馬してる。あ、骨馬が消えちゃった。
「すごい魔法だねえ」
「ハイウィザードの最強魔法です」
耳元でシエランが教えてくれた。
そういや46層レベリングのときに誰かが使ってた。あんまり思い出したくないなあ。
ミレアは目をキラキラさせてるけどね。絶対なるって言いだすよね、ハイウィザード。
「『BFS・STR』『BFS・AGI』『BFS・DEX』」
レックスターンさんが誰かにバフをかけてる。あれってすごいバフ?
「冒険者たちよ、刮目せよ!」
いつの間にかモンスターの横にいたオリヴィヤーニャさんが、これまたもったいぶった感じで叫んだ。
「よく見ておくがいい。あれこそベンゲルハウダーの最強だ」
「あ、こんにちは」
「うむ」
ボクたちの横でそれっぽいことを言ったのは、『ナイトストーカーズ』のディスティスさんだ。
相変わらずの真っ黒装備だね。
「だが迷宮では、こんばんはだな。明けぬ夜だけがここにある」
そうなんだあ。
ザッティ、悪い影響受けないでね。お願いだからさ。
「これがわれの一撃ぞ! 『ファイナルホワイトアタック』!」
ずどどんって音がして、広間に白いイナヅマが走った。魔法を撃ったわけじゃない。だって音が止んだらもう、オリヴィヤーニャさんが反対側にいたんだから。
モンスターの列に背中を向けたまま、オリヴィヤーニャさんは手に持った豪華な剣をブンってした。
「ホントに一撃だよ」
呆れた声になっちゃった。オリヴィヤーニャさんがかっこいいポーズを決めたら、敵が全部消えちゃった。えっとお、これで終わり? ブラウディーナさんとホーウェンさん、なんもしてないよ?
残ったのは黒い槍とか骨とか宝箱。そしてバトルフィールドが消えてく。
「黒門が……」
パーティの誰かが呟いた。
ああ、黒門が紫色の光の粒になって散っていく。これが迷宮異変の終わりなんだ。
「ディスティスさん。さっきのオリヴィヤーニャさんがやったのは」
なんだったのかな。気になったから訊いてみた。
「白き光を纏った極限の剣技」
まんまじゃん。なんで目を閉じてるの? ホントに知ってるの?
「ふっ、また逢おう。俺たちはいつでも迷宮と共にある」
そう言ってディスティスさんが通路の方に去ってった。どこいくんだろ。
「……格好いいな」
「そうかな?」
「……ああ」
あのねザッティ、オリヴィヤーニャさんも大概だけど、ディスティスに憧れるのはちょっと違うと思うなあ。最悪『おなかいっぱい』のリーダーとして引き止めるよ?
◇◇◇
「集いし冒険者たちよ。此度の働き見事であった!」
掃除するみたいにドロップの回収を終わらせてから、オリヴィヤーニャさんの語りが始まった。好きだよね、演説するの。
「ベンゲルハウダーで三度目の氾濫であったが、誰一人の死者も、再起不能者も出さずにすんだこと、われは鎮圧以上に喜ばしいと考えている」
第二次氾濫も死んだ人はいなかったって聞いた。けど最初の反乱はいろいろわからなくって、何人かが。けれどそんな経験があったから黒門の開く時期とか、出てくるモンスターの強さなんかを予想できるようになったんだって。
「わたくしが祭りと呼んだのは……、いろいろ経験して考えたから、あんなだったのね」
ミレアがしんみりしてる。ほら、ボクらは今をがんばってるんだからさ。気にしないで前むこう。
「これよりわれら29層組は下層の探索に入る。ここより上は7層組が担当せよ」
最終確認ってことね。まだお仕事が残ってたかあ。
「そして明日の夜だ。迷宮前広場で祝宴を行おう。参加は自由である。全ての冒険者、街の住民に声をかけるがいい。フォウスファウダー家の威信をかけた饗応である!」
『うおおおおお!』
冒険者たちが声を上げた。これはまた、お腹にビリビリくるね。
みんな、そんなに宴会が好きなわけ?
ボクは大好き。年に一回、村でやってたお祭りも楽しかったよ。今回のも楽しみだなあ。おなかいっぱい食べるぞお。
「ベンゲルハウダー迷宮総督、オリヴィヤーニャ・ツェノファ・キールランティア=フォウスファウダーが宣言しよう。此度の迷宮氾濫はここに終息した!」
ボクはもう疲れちゃって眠たくって。ぼやってした目には雄たけびを上げる冒険者が揺らいで見えた。早く帰ってベッドにもぐりこみたいなあ。
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