第31話 もっとみんなを守れるようになりたい。頼む




「よくもまあ。いや、君たちならやれるか」


「残ってたスキル、全部使っちゃいましたあ」


 あれから三頭のブラッドウルフをやっつけた。ボクらはやってやったんだ。

 もうへとへとだよ。前線で走りまくったボクとウルは大の字になって寝っ転がってる。

 そんなボクらに話しかけてきたのは『ヴィランダー』のリーカルドさんだ。


「途中から見ていたよ。凄かったね」


「いやあ確かに。最後の最後で良いものを見れたぞ!」


 そんな風にリーカルドさんといっしょに褒めてくれたのは『白の探索者』のイェラントさんだ。7層組で一番偉い人だね。

 もう黒門は消えたんだって。消えるとこ見たかったなあ。つまり7層の反乱は終わったってことだ。


 ボクたちの戦いが最後だったみたいで、見物しに来た人がたくさんだったんだよ。見世物じゃないんだけど。

 で、見事勝利したんだけど、その後でなんか盛り上がっちゃって大騒ぎになってるんだ。ウルが愛想をふりまくから、余計にさ。ああっ、干し肉もらってる。ボクにもちょうだい!



「実はね、氾濫の途中からだけど、もしボスみたいのが出てきたら君たちに任せようかなって思っていたんだ」


「ええっ!? ウチにですか?」


「そうだね。ナイトとグラップラー、それに全員で前衛だ。魔法に弱いモンスターなら別だったろうけど」


 まさかリーカルドさんがそんなこと考えてたなんて。


「『おなかいっぱい』には『ヴィランダー』と違って尖った強さがある。短期決戦みたいなときは、爆発力がある君たちは十分強いと思うよ」


 そっかあ。うへへ。ザッティ、褒めてくれてるよ。


「そっちの粘りはすごかった。『ヴィランダー』が踏ん張ってくれたから、ジョブチェンジもできたしな」


「そうです、わたしもそう思いました。継戦能力、見習わないと」


「ははっ、ウチはそれが売りだからね」


 フォンシーとシエランが会話にまじってきた。

 たしかに『ヴィランダー』は長く戦えるって意味ですごいと思う。全員が五ジョブ目なんだけど、みんながメイジとプリーストを持ってて、ウィザードが三人もいるんだ。リーカルドさんはエンチャンターだしね。

 ウチと『ラーンの心』がジョブチェンジしたり休んだりできたのは、全部『ヴィランダー』のお陰なのは間違いないって思う。


「講習で聞いた新世代の冒険者そのものだと思います」


「ははは、ありがとう。僕たちも戻ったらジョブチェンジだ。次はなににしようかな」


 シエランもベタ褒めだ。


「ナイトなんかもいいね。ザッティさんだったかな、彼女のタンクは見事だったよ」


 リーカルドさんが座り込んでるザッティとミレアに視線をやった。


「ええ、自慢のタンクです」


 嬉しそうだねえ、シエラン。ボクもだよ。



「ラルカ、ラルカ。アレ、開けていいか?」


「どしたのウル、って忘れてた。宝箱だったね」


「そうだ!」


 なんか大騒ぎになって忘れてたけど、宝箱が出たんだ。レベル40の敵をやっつけて出てきた宝箱だよ? これは期待しちゃうよね。

 ウルがかちゃかちゃ鍵を開けてる。レベル34のシーフだ。失敗はしないよね?


「これ、なんだ?」


「それってまさか!?」


 シエランがびっくりしてる。ウルが手に持ってるのは、変な形の短剣みたいなやつだね。つばがついてない。


「やったじゃないか。それはクナイだ」


 イェラントさんがソレがなにかを教えてくれた。クナイ? クナイってまさか!?


「ああ。ニンジャへのジョブチェンジアイテムだ。良かったな」


「あ、ありがとうございます。でも、その」


「お前たちが倒したモンスターのドロップだ。当然お前たちのものだな」


 ここのみんなでって言おうとして、あっさり返されちゃった。

 そっか、ボクたちのなんだあ。うへへ。


 そこかしこで歓声が上がってる。中には羨ましそうにしてる人もいるけど、だからって嫌な感じじゃないね。

 やっぱり冒険者って気持ちいい人たちだな。



 ◇◇◇



「誰がニンジャになるんだ?」


 ウルが訊いてきたけど、全員おんなじこと考えてると思うよ?


 7層の戦いが終わったボクらは29層に向かってる。あっちはまだ終わってないかもしれないからね。最初っからの予定で、先に終わった方が助けにいくことになってたんだ。

 休息明けでちょうどスキルが残っていたパーティはすぐに出発して、ボクらみたいにカツカツなのは三時間休んでから追いかけてるとこだ。


「そりゃあウルでしょ」


 どう考えたってねえ。


「ウルはこの後ウィザードだ。だったらラルカだと思うぞ?」


 そうきたかあ。


「いやいや、別にすぐ使わなきゃならないわけじゃないし、ボクもこの後は決めてるんだよね」


「そうか。じゃあこれはシエランに預けとく」


「はい。わかりました」


 ウルから手渡されたクナイはシエランがインベントリにしまった。別にウルのインベントリでもいいけど、なんかウルってすぐにシエランに渡すんだよね。



「で、ラルカは次、どうするんだ?」


「まだないしょだよ。地上に戻ったらみんなでお話だね」


「ったく」


 フォンシーだって色々考えてるんでしょ?

 ミレア以外はすぐにジョブチェンジだからまた浅いとこからやり直しだろうけど、それでも楽しみだね。



 ◇◇◇



「まだ続いているみたいね」


 ミレアが顔をしかめる。29層に降りてからちょっと、広間では冒険者と黒いスケルトンが戦ってた。まる一日以上経ってるのに。


「敵はダークスケルトンだったな」


「フォンシー、いけると思う?」


 道中で知らせをもらってたから、どんなモンスターが湧いてるのかは知ってた。それでフォンシー、どんな敵なの?


「相手は強いスケルトンだ。ソルジャーやメイジもいるし、もしかしたらその上も。レベルは35から、一番上は50くらいかな」


「じゃあボクたちでもお手伝いくらいなら」


「できるだろうな」


 なら、やるしかないね。


「それとラルカ」


「まだあるの?」


「戻ったら勉強だ」


「うええ!?」


 そうなっちゃうかあ。



「それじゃ行こう」


 向こうでは冒険者たちが戦ってる。ボクたちも行かなきゃね。勉強のことはいったん忘れよう。そうしよう。


「……待ってくれ」


「ザッティ、どしたの?」


「……ジョブチェンジしたい」


 え? ここで? どうして今なんだろ。


「ザッティ。説明してもらえる?」


 ミレアが訊いた。けど、笑ってるね。すごく嬉しそうだ。


「……次はヘビーナイトだ」


 ヘビーナイトはナイトの上、上位二次ジョブだ。ほんとなら四ジョブ目でやることじゃない。けどすごくザッティっぽい。

 だからそれはいいんだけど、なんで今ここでっていうのがわかんない。


「……ヘビーナイトは経験値が重たい。だから今だ」


「そうね。ヘビーナイトならすぐに前線に戻れるわ。ここでなら経験値も稼げる」


 ミレアがパンって両手を合わせた。ふむふむ、たしかに。それにしてもザッティのナイト志向はすごいね。


「どうかしら?」


 まるで自分のコトみたいにミレアが胸を張る。すっごい誇らしげな顔だよ?


「……もっとみんなを守れるようになりたい。頼む」


 そんな顔で言われてもさあ。もうなんていうか、気合入りまくりなんだよね。今しかないって感じで。



「リーダーはどう思う?」


「こういうとこで振るのってずるいよ。ボクはもちろん賛成」


 フォンシーってリーダーを都合よく使ってない?


「ついでに他の誰かも、ってのはムリか。『ラング=パシャ』は……、ミレアだな」


「そうね!」


 フォンシーとしたら他にもジョブチェンジさせたいんだろうけど、二人いっぺんはちょっとねえ。ザッティみたいに前衛ジョブ希望じゃないとおっかないし。

『ラング=パシャ』を使えて一番レベルが低いのはミレアだ。それでもレベル20。レベルがふたつ下がるのに、嬉しそうだねえ。


「じゃあやるわよ。『ラング=パシャ』!」


「……ん」


 そんなわけで、ザッティはヘビーナイトになった。


 ==================

  JOB:HEAVY=KNIGHT

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :37


  VIT:24

  STR:27

  AGI:19

  DEX:26

  INT:8

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


 結果がこれさ。もう前衛一本って感じだよね。ソルジャー、ファイター、ナイトってきたから、前衛ステータスがしっかりしてる。

 ボクもファイターかウォリアー取った方がいいかな。揺らぐよ。しっぽもゆらゆらだ。ジョブチェンジしたら、VITとSTRの基礎が21になっちゃうんだよねえ。ザッティに全然負けてる。どうしよう。


「……重いな」


 ザッティが盾をくいくいって動かしてる。補助ステータスが無くなったからねえ。


「重たいのか。けど、ザッティはやるんだろ?」


「……当然だ、ウル」


「ウルもやるぞ!」


 もう敵が目の前だ。なんか真っ黒いスケルトンがうじゃうじゃしてるよ。

 ウルとザッティが気合を入れた。それを聞いて、ボクも拳をぎゅってする。


「行こう!」



 いつもと一緒、先手はボクからだ。

 最初の相手は八体。杖が三つで、剣が五だね。


「『ダ=リィハ』」


 スケルトンは炎に弱い。それはダークスケルトンでも一緒だね。狙うのはもちろん杖持ちだ。

 待ち構えてたウルがトドメを刺しに走ってく。わかってるぅ。メイジかウィザードかはわかんないけど、魔法持ちは先に潰すのが基本だよ。


「『ド=リィハ』! フォンシー、ラルカ!」


 すぐ後にミレアの魔法が剣持ちに浴びせられた。

 そっちに向かうのはボクとフォンシー。ザッティはまだ前に出せないし、シエランはちょっと後ろで待機だね。



「やあっ!」


 ボクとフォンシー、ウル、ついでにミレアまで前に出て、最後の敵はシエランがメイスでやっつけた。うん。格上相手でもボクらは戦えてるぞ。


「……レベル4だ」


 一回の戦闘でザッティのレベルが上がった。四つもだよ。さすがはレベル35以上のモンスターだ。ついでにミレアもひとつ。



 さあさあ、どんどんいくよ。氾濫を終わらせるのは『フォウスファウダー一家』かもしれないけど、おこぼれはもらっちゃわないとね。


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