第14話 オレは死んだわけじゃないぞ




「なにかくるぞ」


「レッサーゴブリン、数は……、三匹」


 ウルが反応したからすぐに『遠目』を使って敵を判定する。これがボクの役割だ。

 六人パーティになってから、初めての戦闘だ。ここは2層。5層までは魔法を使う敵は出ないけど、油断はしないぞ。


「ラルカ、先制で魔法だ。ウルはそのあと跳び込め」


「うんっ」


「おう!」


 モンスターが近づいてくる。5メートルをきった。いけっ!


「『ダ=リィハ』!」


 急いで攻撃魔法を撃つ。反応速度がボクの武器だって、みんなが言ってくれた。それに応えるんだ。

 すかさずバトルフィールドが現れた。接敵判定っていうらしいけど、難しい言葉だね。だけど先手はとったよ。


「いけっ、ウル!」


「がるぅぅ!」


 爆炎が上がってすぐにフォンシーがウルを解き放った。なんか飼い犬みたいな言い方だけど、ホントにそんな感じだからさ。先にいったウルをボクとフォンシーで追いかける。

 向かう先は生き残った一匹だ。魔法の範囲スレスレだったもんね。


「があぁ!」


 ウルがスキルも使わずに殴り倒して終わりだ。

 ふぅ、初回は上手くいった。緊張したよ。



「ミレア、ザッティ、大丈夫ですか?」


「大丈夫ってなにが?」


「怖くなかったんですか?」


「ええ、みんなが前に出てくれたから全然」


「そうですか」


 あー、シエラン、心配して損したって思ってるでしょ。自分がそうだったからってミレアも同じだって限らないよ。


「……ラルカ」


「ごめん」


 怖がり仲間のフォンシーに怒られた。



「ラルカもウルもすごいわ! 荒ぶるしっぽも格好よかったわ!」


「おうっ!」


「へへっ」


 ミレアに褒められて、ウルとボクのしっぽが揺れる。うへへっ、かっこいいってさ。


「気を抜くなよ、ミレア。先は長いんだ。痛いのも覚悟しておけ」


「わかってるわ」


 フォンシーが注意する。先輩四人がいれば5層くらいは楽勝だ。だけど、どこかで痛い目をみると思う。ボクたちは当然がんばるけど、ミレアとザッティも覚悟だけは決めといてね。

 ボクら四人はみんなが前衛だし、それなりに無理して潜ってるから怪我も多いんだ。ウルは平気そうだけど、シエランとフォンシーは今でもつらそうだもんね。



「二人に怪我はまだ早いと思います。とにかくレベルを上げてHPを伸ばしましょう」


「……勢いでウィザード選んでごめんなさい」


 シエランは心配して言ってるんだろうけど、ミレアは申し訳なさそうだ。


「先を見て。わたしは二人がすぐに活躍できるようになるって思ってます」


「シエランの言うとおりだ。今のウチに必要なのはウィザードとエンチャンター、それと優秀な盾だな」


 フォンシーが想像してるのは、ボクらの未来だ。シエランとザッティが盾役、えっとタンクだね。二人が敵を抑えてボクとウルが大暴れして、フォンシーとミレアが魔法を使う。そんな感じかな。


「ならわたくしは、次はエンチャンターになるわ!」


「勘弁してくれ」


 ミレアはVIT上げて! 次はプリーストだからね。フォンシーもため息だ。

 出番がなかったけど、がんばって重たい盾を振り回してるザッティを見習ってよ。って、ザッティ、戦闘はもう終わったよ?


「……慣れるのと、こうしてればパラが上がることもあるって」


「そういえば講習で言ってたね」


「……そうだ」


 ミレアとザッティはカードを作ったあと、ちゃんと講習受けてそれからジョブに就いたらしい。なんでウィザード選んじゃったかなあ。


 基礎ステータスは勉強したり体を動かしたりしたら、上がることもあるんだって。しかも低い人ほど。育成施設の子なんて、字を覚えただけでINTが上がることもあるらしい。

 ボクたちも体を動かしてみたけど、結局上がったことないんだよね。個人差っていうのがあるみたい。


 それにジョブチェンジのお陰で基礎ステータスが上がっちゃったからねえ。ウルのINTやWISが、シエランとフォンシーのMINがまた上がるかも、ってくらいかな。



 ◇◇◇



「ぐあっ!」


「ザッティ!」


 ツーテイルスネイクにザッティが弾き飛ばされた。ミレアの悲鳴が聞こえる。


 ミレアとザッティがレベル1になってもしばらく2層でがんばってたんだ。油断はしてなかったつもりだけど、ボクたちは経験が少なかったのかな、3層に降りたらこのザマだ。

 とっくにレベル13を超えてる四人がいれば問題ないって、思いこんでたんだろうね。玄室の扉を開けたらそこには八匹のヘビがいたんだ。抑えきれなかった二匹がうしろに流れちゃった。


「ウルぅ!」


「がるあうぅぅ!」


 フォンシーが叫ぶ。ウルがすかさず反転して最後のヘビを叩き潰した。

 戦闘は終わった。ザッティが銀色に光ってレベルアップするけど、今はそれどこじゃない。


「ザッティ、コンディションみせろ!」


「……ん」


 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :2

  CON:POISON


  HP :11+5/-5


  VIT:13+1/-1

  STR:12+5/-1

  AGI:10+5

  DEX:15+6/-2

  INT:7

  WIS:9

  MIN:16

  LEA:14

 ==================


「ちっ、『キュリウェス』『オディス』」


「……助かる」


「謝るな。あたしたちが悪い。ザッティはミレアを守り抜いたんだ。やるじゃないか」


「……ん」


 ボクはフォンシーとザッティのやり取りを見てるだけだった。


 毒をもらってHPも減ればステータスも悪くなる。ボクたちだって何回も経験したけど、レベル1で攻撃をくらったことなんてない。カースドーさんたちが守ってくれてたから。

 今のボクは補正あわせてHPが70以上ある。10くらい減ったってステータスは変わらないけど、ザッティやミレアは違うんだ。


 あらためて実感して、体がブルって震えた。

 横を見たらシエランは泣きそうな顔で、ウルもしょんぼりしてる。



「ザッティ……。ありがとう。わたくしは怪我ひとつないわ」


「ふっ、……オレは死んだわけじゃないぞ」


「もうっ!」


 ミレアがポロポロ涙をこぼしてたけど、ザッティはニヤって笑った。すごいよ。ザッティはすごい。


「わたしたち、まだまだですね」


 そんな二人を見てシエランが呟く。そうだね、ボクらはまだまだだ。


「……あ、基礎STRが1上がってた」


「ええっ!? ボク上がったことないんだけど!」


 叫んじゃったじゃないか。ボクなんて基礎ステータス、どれも上がったなんてない。盾を振り回せばいいのかな。だけどボクはカラテカだし。


「おちつけラルカ、いいことじゃないか」


「だってさあ、フォンシーだってうらやましくない?」


「そりゃまあ」


 それからみんなで笑った。

 やっぱりすごいよザッティ。みんなを元気にしちゃったね。


 結局その日はミレアがレベル1、ザッティがレベル2で帰ることにした。

 戻ったら二人の初冒険と初レベルアップでお祝いだね。



 ◇◇◇



「いらっしゃい。六人かい?」


 今晩からみんなで宿暮らしだ。六人パーティになったらって決めてたからね。

 冒険者の宿『フェイルート』。なんと一号館から六号館まであるらしい。ここはシエランのおうちから一番近い四号館だね。初日に一回だけ泊ったのは別のトコ。

 ちゃんとシエランの両親には今日から宿にするから、ありがとうございましたって伝えておいたよ。店の前で見送ってくれた。


「六人部屋なら一泊2500ゴルドだよ」


「はい。とりあえず五泊分です。どうぞ」


 宿屋のおばちゃんにシエランが宿泊代を手渡した。

 ウチのお金は貯めてるの以外はシエランとフォンシーが預かってる。お金はインベントリに入らないから、貯金は協会に預けてるんだよね。



「これが六人部屋かあ」


「ラルカ、ラルカ、三段ベッドだわ! 初めて見た」


 ボクはそうでもないけどお嬢様のミレアがアガってる。肩をゆすらなくてもいいから。


 部屋に入ったら両脇に三段ベッドがあって、正面は窓だった。ベッドの隙間は廊下より狭いね。天井が高いから頭をぶつけるってことはなさそうだけど、うん、なんかせまっ苦しい。すごく落ち着く。なんかボクってすみっことか狭いトコが好きなんだよね。



「さて、さっきは祝いだったからやらなかった、ちょっとつらい話だ」


「わかったわ」


 フォンシーが宣言したらミレアはすぐにしょんぼりした。浮き沈み激しいね。

 元気だしてよ。すぐに役立てるようになるからさ。


「ミレア、気にしないでいいよ。ボクたちも気を付けるからさ」


「ラルカの言うとおりだ。さっきも言ったけど、ミレアは悪くない。あたしたちが甘かった。ザッティはがんばった。それだけだ」


 だよね。じゃあつらい話って、ボクたち四人の連携とかかな。


「そうね、いい機会だから話しておいたほうがいいですね」


 シエラン?


「わたしたちはメンバーが六人に増えました。家を出て宿屋を借りるようになりました」


 うん、そうだね。やっと冒険者っていう感じになって、ボクは嬉しいよ?


「宿代が倍以上になりました。六人になったから食費も増えます。装備を借りるお金もです」


 あれ、雲行きあやしいぞー。


「だけどわたしたちは、しばらく10層にも行けません」


 フォンシーがうんうん頷いてる。ミレアは顔が青くなって、ウルとザッティは、うん、わかってないね。


「お金が減る一方になりそうなんです」



 ごはんをいっぱい食べて、お金も貯めてウハウハが目標なのにー!


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