一日レフェリー体験はオススメしない

ちびまるフォイ

一日レフェリーの腕の見せどころ

「マネージャー、明日の仕事は?」


「1日レフェリーです」


「はぁ!? 一日署長とかじゃなくて……レフェリー!?」


「はい、間違いありません。こないだも説明したじゃないですか」


「ぜんっぜん覚えてない……」


「一日署長みたくただ制服着てテレビの目に立てばいいわけじゃなく

 レフェリーとしての仕事もちゃんとあるんですから、準備してくださいね」


「でも俺いうて素人だし……」


「それを客のひとりひとりに言い訳して回るんですか?」


「わかったよぉ……」


その夜は学生時代ぶりの一夜漬けをすることになった。

レフェリーを学べば学ぶほどに難しい。


結局、一睡もできないまま翌日の一日レフェリー体験へと挑むことになった。


「……大丈夫ですか? 目がバッキバキですけど」


「大丈夫! 寝てないと一周回ってハイテンションになってるだけだから!」


「ここから先はひとりになるので、

 1日レフェリーがんばってくださいね」


「おう!! まかせとけ!!」


その言葉の全部が言い切るかそうでないかのうちに、

体は一瞬でどこかへと転送されて、次に目を覚ましたのは異世界だった。


西洋建築を思わせる凝った内装のお城では、

今まさに魔王と冒険者が睨み合っている。


「魔王……ぜったい倒してやる!」


「ククク。ここまで来たことは褒めてやろう。だが生きて帰れると思うな」


ここはどこですか、などと割って聞ける空気ではない。


「みんなを苦しめた報いを必ず受けさせてやる!」


「ハッハッハ。もがき苦しむ姿こそ、吾輩の余興よ」


二人はまだ睨み合っている。


「この剣でお前を倒してやるからな!」


「面白い。その腕前、とくと見せてもらおう」


ふたりはまだ睨み合っていた。

いつまでも。いつまでもーー。




「「 レフェリー、ゴング鳴らせや!! 」」



「えええ!?」


耐えきれなくなって、1日レフェリーにキレた。


「さっきからゴング待ってんだよこっちは」

「なにじっと見てるんだよ、レフェリーだろ!」


「す、すみませんっ」


慌てて、偶然近くにあったゴングを鳴らした。

甲高い音を合図に魔王と冒険者による世界の命運を賭けた戦いが始まった。


多彩な魔法と、火花飛び散る剣技の数々。


事前に勉強してきたレフェリーの教本にはないものばかり。

ただ目を丸くして「すごいなぁ」と感心するだけだった。


「おいレフェリー! 今のは反則だろ!!」


と、冒険者が怒ったが、どこの何が反則なのかもわからない。


「え……そうなんです?」


「魔王にペナルティ与えろよ!」


「そうですか……それじゃあ……」


「バカレフェリー! 吾輩のどこか反則だ! ちゃんと見てろ!」


「もうわかんないよぉ!!」


異世界の戦いのレフェリーなんて経験もないので、

なにのどこを判断すればいいのかわからない。


それなのに冒険者と魔王は事あるごとにこちらを見ては、

今のは反則だ、ちゃんと見てたのか、などと言ってくる。理不尽。


もう二度と1日レフェリーの仕事を受けないぞ、と誓った頃

ついに魔王と冒険者の戦いに転機が訪れた。


「ぐっ……ぐはっ……!」


冒険者はひざをついて、地面に倒れてしまった。

これぞレフェリーの見せどころ。


「決着! 勝者、魔王ぉーーーー!!」


高らかに声をあげると、冒険者は立ち上がっていた。


「あ」


「ぜんぜんまだ戦える! 勝手に勝負を終わらせるんじゃねぇ!」


「いやさっき倒れてたから……」


「蘇生魔法で復活したんだよ。仕切り直しだ。それくらいわかれ」


「わかるかぁ!」


さきほどのジャッジは無効となり、ふたたび激しい戦いが始まった。

ふたりとも満身創痍ということもあり倒れては復活、倒れては復活した。


10カウントとって起き上がらなくても蘇生魔法で復活してくるので判断が難しすぎる。


早く勝負よ終わってくれと神に祈ったとき。

ついに魔王に致命傷を与えた。


「グォォーーーッ!!」


魔王の体は風にさらわれる砂のように消えていった。

今度こそ勝負は決した。


「決着! 勝者、冒険者ぁーーーーー!!」


高らかに宣言したときだった。


地面がグラグラとゆれると、魔王のいた場所へエネルギーが集まってゆく。

激しい光の中から、姿を変えた本物の魔王がやってきた。


「グハハ。この姿になるのは100年ぶりかな……!」


「いやまだ戦うのかよ!」


「おい、ダメレフェリー。試合続行だ」


ふたたび冒険者と魔王の戦いが始まる。


冒険者は蘇生魔法でゾンビのごとく復活し、

魔王は魔王で倒せば第3形態、第4形態、第4.5形態、第4.51形態と姿を次々に変えてゆく。


もうどのタイミングでジャッジすればいいのかわからない。

ジャッジをミスれば容赦ない口撃にさらされる。


「ダメレフェリー! どこ見てんだ!」

「ちゃんと見てから判断しろこのグズ!」


「ああーー!! もういい加減にしてくれーー!!」


激しい戦いはレフェリーにより勝負は決まった。

翌日、1日レフェリーの仕事を終えて現実に戻ってきた。


「試合はどうでした?」


「ちゃんと終わらせてきたよ」


「そうなんですね。勝者のジャッジは難しくなかったですか?」


「そうだな……。でもハッキリ決着ついたから」


「それはよかった」



その後マネージャーは異世界へ行くと、

強い怒りの拳で殴られ気絶した魔王と冒険者が床に転がっていた。

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