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本当にあまりにも衝撃的なワードがそのお綺麗な顔から飛び出してくる。慰謝料っぽいもの(に追加して魔物を倒して得た素材)を支払っているだけでなく、他の王子との婚約を打診していたとは。ハインツもこの事は知らなかった。アフターケアまでしっかりしてるのなと彼は心の中で呟く。……いや、彼の場合はもしかしたら、もしかするとあれかもしれない。あの令嬢との関係をすっぱり断ち切りたいがための行動なのかもしれない。カルロスは目を見開きながら首を小さく横に振る。

「あり得ない……だってアダリーシアが! 婚約者である第二王子殿下が浮気をしていると!」

「えっウワキ!?」

 何故かリーゼルが驚いていた。しかしハインツはこの後彼女が口にするであろう言葉を知っている。「ウワキって何かな……?」ほらやっぱりな。ハインツは予想が的中してちょっと嬉しかった。嬉しいので明日マルガレーテに昼食を奢る分の金から自分へのご褒美分をほんの少し差し引く事にした。脳内のマルガレーテが不満げに口を尖らせる。「奢ってくれるって約束したでしょう」……差し引いた分を元に戻した。ハインツが脳内でイマジナリーフレンド(実在はしている)とのやり取りを繰り広げている間にも、話は進んでいたらしい。

「ラズベリルの娘がウソを言いふらしている話か。あのニンゲンはその様なところがあるからな、困った事に」

 ジークはため息をつき、冷静な様子でその言葉を口にする。なんか人間呼びしてるとお前が人間じゃないみたいじゃんとハインツは思わず口に出していた。「ああ今はオレもニンゲンなんだったか」という返事が返ってきた。『今は』って何。元は人間じゃなかったとでも言うのか。リーゼルが「ええっ!?」と声を上げた。

「ウソなの……!?」

「ウソだ。コンヤク解消は双方の親が同意した。後はラズベリルの娘が聞き入れれば全てが丸く収まるだろう」

 と、そこまで告げてからジークは言葉を切り、真っ直ぐにリーゼルの方を見た。そう。カルロスの方ではなく、リーゼルだった。リーゼルだけ凝視していた。もはやカルロスと話していた事を感じさせないくらいの勢いだった。どこ見てるんですかと言いたげな表情をカルロスが浮かべていたのをハインツは確かに目撃した。どこ見てるんだろうなこいつとハインツは思った。答えはすぐに出る。リゼさんだけです。

「ウワキ、とニンゲンの中で定義されている行為をオレは行っていない」

 オマエはオレの相棒だろう、リーゼル。

 彼はそう言った。キッパリと断言した。リーゼルに向かって。

「相棒と共にいる事の何が悪いと言うんだ? ラズベリルの娘とのコンヤクは解消するとリーゼルにこちらで会う前から何度も伝えているのだから、浮気も何もないとオレは考えている。これは間違いなのか」

「……クーちゃんは、それでいいの? アダちゃんは優秀な子だよ。世界を幸せに導く方法を知ってる。この前未来を見てわかった。きっと、きみはあの子と一緒にいた方がいいって、わたしは思う。悪いヤツになるわたしと一緒にいるよりも————」

 ジークはため息をつきながら、リーゼルの方へ歩み寄る。彼女の前に辿り着くと、彼は跪いてその細く小さな手を取った。

「何度も言わせるな。オレは、オマエと共にありたい。オマエと一緒に悪となり、罰を受け、ふたりで消えられるのなら。それが本望だ」

 あとクーちゃんではない。なんていうお決まりの文句を最後に付け足して、彼はピンクの瞳をじっと見つめる。彼女もまた、青緑の瞳を見つめていた。見つめあっていた。もはや世界には二人しかいなくなっているように見える。リーゼルがはっとしたような顔でカルロスとハインツの方に視線を向けようとするが、「おい、どこを見てる」というジークの不服げな声に慌てて挙動不審になっていた。かの第二王子殿下の中に残った存在はリーゼルのみのようだった。ハインツは心の中で頷く。今だな。

「ゲフッゴホンゴホッゴフォッ!!!」

「クックーちゃん! サンちゃんが大変だよ! 一旦戻ってあげて!」

「はあ? そんなもの自力で……」

 と言いかけてから、ここでようやくジークが今の状況に気が付いたらしい。こめかみに手を当てて何度目かわからないため息をついてから、彼はわざとらしく咳払いをするハインツの方へやってくる。

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元救世主、現『ざまあ』される側悪女ヒロイン。 原伊大河 @1cetabetaa1

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