元救世主、現『ざまあ』される側悪女ヒロイン。
原伊大河
プロローグ
拒絶された。
淡い光を、光に包まれるその人間を呆然と眺めながら、『彼』は他人事のように考える。怒りも嘆きも何もかもが一定のラインを越えた瞬間、感情は無へと変わるのだと今更になってどうでもいい事実を知った。
ぐらりと視界が傾いていく。ゆっくりと、緩慢に、光からの距離が大きくなっていく。いや、物理的にはきっとそれほど離れてはいないのだろう。『彼』を突き飛ばした力は強くなかった。大して痛くもなかった。痛いのは、胸の中だけ。
裏切られた。
裏切られたんだ。
分厚いウロコに覆われた腕を光に向かって伸ばす。もう間に合わないと頭の片隅にいる自分が囁きかけてくる。それでも、諦めたくなかった。約束を果たしたかった。光が眩しさを増す。白が世界を覆い始める。絶望が『彼』の心を蝕もうとする。そんな中で、少女は軽く手を振った。頬を大粒の涙がつたっていた。薄い唇が動く。
「————————」
その言葉が、彼女の声が耳に届いたのと、『彼』の目が白以外何も映さなくなったのは同時だった。眩さの中で、『彼』の目尻からこぼれ落ちた水滴は小さな呟きと共に溶けるように消えていく。
なんで笑ってんだ、ばか。
こうして、救済装置はその役目を終えた。
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