猫かカレー選択次第でマーマレードか屋上か
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
第1話:転校とベランダ
「はぁ~~~~~~~~~~。もう死にたい」
つい、僕はマンションのベランダで愚痴をこぼしてしまった。普通なら風にかき消される単なる愚痴。でも、今日は違った。
「死なれると困るんですけど……」
返事が帰ってきたのだ。
「え⁈ あ! す、すいません! 死にません。ちょっと落ち込んでただけで……」
まさか隣のベランダに人がいるとは思ってもみなかった。僕はびっくりして心臓がバクバクいってる。
そう言えば、今朝の情報番組で今日は100年に一度の月食が見れるとか何とか……。まあ、あいにくの曇り空だから月食なんて見れないだろうけど。
うちのベランダとお隣のベランダは仕切り板で隔てられていた。「非常の際は、ここを破って隣戸へ避難してください。」と書かれた板。こいつの正しい名前は何だろう。
「まあ、私も本気で死ぬとは思ってなかったけど……」
良い声の女の人だ。少し落ち着いた感じの声。年上かな?
「あの……僕、先週ここに引っ越してきて……」
仕切り板ごしに答えた。
「ええ、知ってるわ。トラックが停まって荷物を運びこんでいたもの」
一応、母さんと一緒に挨拶に行ったけどお隣だけは留守だったんだ。
「騒がしかったらすいません」
「いいえ、気にしなくていいわ。それより、なんで死にたいなんて言ったの?」
「その……転校して、今のクラスに馴染めなくて……」
「そりゃ、6月に転校してきたら そうなるでしょうね」
そうだ。高3の6月に転校してきたら、人間関係は出来上がってるし、みんな受験だから周囲に目を向ける余裕なんてない……。
「そうなんです。誰も一言も話しかけてくれなくて……みごとにボッチです」
「自分から話しかけたらどうなの?」
「いや~、そんなのできないですよ~~~」
言っててガックリ来た。そうなのだ。僕は話しかけるのが苦手だ。
「なんで? 話しかけたらいいじゃない。背も高いし体格もしっかりしてるし」
見えるの⁉ ベランダには仕切り板があって隣は見えないのに。このお姉さんには透視能力でもあるのか⁉
「仕切り板ごしなのに分かるんですか?」
「そうね……声の発せられる位置とか、声の感じから……ね。私は占い師なの。だから、人の機微に鋭いのかもね」
占い師すげえ。声だけで背が高いとか、体格まで分かるなんて……。
たしかに、転校する前まで僕は陸上をやっていた。身体はそれなりにできあがっていたかも。まあ、今は完全にやめてるけど。
僕もお姉さんの姿を見たいと思ったけど、女性の部屋を覗き込むのは変態的だ。
「なんでこんな時期に転校してきたの?」
「その……実は……両親が離婚して……慰謝料だか手切れ金だかで母がこのマンションをぶんどったらしくて。うちは貧乏になったので、ここしか住むとこが無くて……」
「それは矛盾しているんじゃないかしら。ここは市内でもトップクラスに高い所よ? 標高だけじゃなくて価格的にも」
「うちは……父が会社をやっていて、ここ数年羽振りが良かったんです。なんかタイミングが良かったのか、会社が急成長して……」
「今時そんな話もあるのね」
「それで、色々誘惑もあったと思うんですけど、愛人を作って出て行ったみたいな……」
「まあ……それはそれは」
「数か月にわたる冷戦状態を経て、この5月についに……」
「離婚した、と」
「はい。それで養育費とかは払ってもらえなさそうなので、弁護士経由でこのマンションをぶんどったらしくて」
「お父さんよくマンションなんて買ってたわね」
「新しい女と住むつもりだったみたいで、僕たちに内緒で買ってたらしくて」
「すごい話ね。じゃあ、ここを売って別の安いところに住んだ方が良かったんじゃないの?」
「……」
「……思いつかなかったのね。あなたも、お母さんも」
「……」
恥ずかしい。全く思いつかなかった。わざわざ引っ越してきた僕らって……。
ここで僕は気づいた。お姉さんに名乗ってないことを。引っ越しの時に挨拶には言ったけど、留守だったし。
「あ、僕 柳町……じゃなかった、住吉
「普通 自分の苗字間違える?」
「親の離婚で苗字が変わったのに まだ慣れなくて……」
「ああ、そう言うことね。偽名を名乗られたかと思ったわ。よろしくね。住吉桧七太くん」
そう言うと窓が開く音がしてお姉さんは部屋に入ってしまったようだ。
あ、しまった。お姉さんの名前を聞き忘れた。
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