ギャルな勇者を育成せよ!! ~アイツが勇者で、俺がモブ!?~

世越 よま

プロローグ 


 世の中ってのは、何事も始めが肝心らしい。



 人の印象は、第一印象で決まるようだし。

 大概のスポーツは、スタートダッシュが大事なようだし。

 言語だって、幼ければ幼いほど覚えが早いようだ。



 終わり良ければ全て良し!なんて言葉もあるが、それは結局、終わってみなきゃ分からない無責任。

 ならばとかく世の中は、始めで全てが決まると言っても過言じゃない。



  そして俺の大好物な異世界物語も、やっぱりスタート──始まりってやつが一番ワクワクするわけで。



 これから何が始まるんだ?

 ここからどこに進んで行くんだ?

 この先、どういう展開が待ってるんだ? 



 そう考えるだけで胸が高鳴る。

 それなのによぉ……。




 ~  ~  ~  ~  ~




「わかった! 死んじゃってもその場でお葬式が出来るからだ! そうでしょ!」

「いいえ、違います。……はぁ」



 穏やかに晴れ渡った空が広がる田舎の村。

 その下で、壊れかけの木箱に座っていた黒髪ポニテのギャルな女子高生がドヤ顔で放った答えに、俺はこめかみを押さえながら溜息を吐いた。



「……溜息とか止めてくんない? おにムカなんだけど」

「おにムカ? 失礼。あまりにも斜め上だったもので」



 取り合えず謝罪したが、そこにはまったく心を籠めちゃいない。



 そりゃそうだ。



 なにせ、『僧侶というジョブは何をするでしょうか?』という誰にでも解る質問に、「えっとぉ」と唇に人差し指を添えながらキョロキョロとバレバレなカンニングまでした挙句、そこからさらに「う~ん、う~ん」と捻り出したカスな答えがソレなのだ。溜息くらい吐きたくもなる。



「なによ、斜め上って!」



 だが俺の謝罪が気に入らなかったのか、女子高生は長い黒髪を結んでいる青いリボンを一撫でしながら、プゥッと頬を膨らませる。



「だってしょうがないじゃん! そんなの学校で習ってないんだからさ!」

「……まぁ、そうですね。習わないですよね」



 当たり前だろ。



 前世界の義務教育がっこうでそんなモンは習わないし、先生だって教えるなら英単語の一つ、漢字の一つでも教えた方が生徒そいつの為になる。



 だけど、では違うのだ。



 英単語や漢字なんてコッチじゃ何一つとして役に立ちはしない。

 そんなモンより、この世界で生き抜くための常識を教えた方がそいつの為になる。この子がこの世界で生きていくには。



 しかし目の前の彼女は、そんな事知らないとばかりにプイっとそっぽを向いた。つられ、ポニテがフワリと揺れる。



「っていうか、そもそもそんなこと、学校の先生が教えてくれるわけないじゃない!」

「……その役割を、まさか自分がやるとは思ってもみなかったがな」

「なによ。何か言った?」

「いえ、別に。ちなみに答えですが、僧侶は主に回復を担います。なので、もしケガをした場合は僧侶の方を頼ってください。それでは次の問題です」

「えぇ~!? まだやるの~!?」

「えぇ、やりますよ。でも安心してください、次はもっと簡単ですから」

「ぶぅ、メンディ……」



 頬を膨らませる彼女。

 めんでぃ? 誰それ? なんでいきなり人の名前? 



「では問題です。火属性の弱点は水ですが、土属性の弱点はなんでしょう?」

「え~、弱点~? そもそも土に弱点なんてあるわけ──、あ」



 次に出した問題に、最初はぶつくさ言っていた彼女がパッと顔を明るくした。

 お、さすがにこれくらいは知っていたか。まぁ学校で化学は学ぶしな。少し彼女を見くびって──



「解った! 火でしょ!」

「……いえ、違います。正解は風です」

「えぇっ、風!? 何で!? 土は火で炙ったら固くなって割れちゃうでしょ! だから火に決まっているじゃん!」

「決まっているじゃん!って言われても」

「何でよ! なんで風なの!?」



 何でって言われてもな。

 ってか、固くなるのならそれは良い事であって、弱点にならないだろうに。



「そういうものなんですよ」

「なにさ、それ! 何で土の弱点が風なの?! そ、そうだ! 防風壁ってあるじゃん! あれって、風を防ぐんでしょ?! なら、風より強いんじゃない?!」



 文句たらたら、断固として認めようとしない女子高生。そういうもんだとすんなり理解してくれないと、この先困るんだけど。



「まぁまぁ。取り合えず、土の弱点は風だって覚えておいてくださいね。、ですから」

「そんな事言われても、学校で習ってない常識をどうやって覚えればいいのよ!」



 有無を言わさない俺の物言いに、己の無知を他人に責任転嫁しては不貞腐れる彼女。

 そもそも、なんでこんな初歩の初歩な事を教えなきゃならんのだ。俺の方が不貞腐れたいわ!



 ……やっぱり、黒髪女子高生この子に変わって俺がこの世界を救った方が手っ取り早い。

 が、それに関してはすでに話はついているし、大体あんな言われ方じゃあ、俺はなんの期待もされていないって解っちまったしな。



 まだブチブチと文句を垂れている黒髪女子高生にバレない様に、コッソリ溜息を吐きつつ、俺はこの世界に来た時の事を思い出していた。

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