第9話 受付嬢(?) クレア



 一通り手続きを終えた俺は、気になった事を訊いてみた。



「このギルド内に、受付は貴女だけなんですか? えっと……」

「あ、申し遅れましたね。私の名はクレア。クレア・クリークと申します」



「以後、宜しくお願い致しますね」と、受付の女性──クレアさんがペコリとお辞儀をした。



「あ、これはご丁寧にどうも。それで──」

「受付が私だけってことですか? そんな事はありませんよ。ただ少ないですね」

「そうなんですか」



 やっぱり定時で帰りたいとかなのかな?



「他所の冒険者ギルドがどうだかは分かりませんが、冒険者になる人が少ない昨今、冒険者ギルドに就職する若い人なんて居ませんよ」

「なん、ですと……」



 若い受付の子が居ないんじゃ、『俺、この依頼を達成したら、受付の子に告白するんだ!』的なお約束的フラグの存在が危ないじゃないか!?



 ガックリと肩を落とすと、クレアさんがワタワタしている。



「え、えっとやはり若い子の方が宜しかったですか?」

「……サイテー」



 ちょっと立花さん?! 俺はそんな事思ってないよっ!?



「いえいえ、そんな事は無いです! むしろベテランの方のほうが良いですよ!」

「私、そんなおばさんじゃあ……」

「……ほんとサイテー」



 あぁ、もう!



「コホン、これはまぁ別件みたいなものですから、気にしないでください」

「は、はぁ」



 ほんと、地雷ってのはどこにでもあるんだな。



「それで、最初に受ける依頼はどうします?」



 気を取り直したクレアさんが、手に持っていた何枚かの紙を見せてくれる。まさかコレは!?



「こ、これはまさか依頼書、ですか?」

「はい、そうですけど?」



 渡された紙を一枚手に取り、マジマジと見る。

 そこには、依頼内容や報奨金、依頼期間などがお馴染みのフレーズが書かれていた。否が応でも、心が躍る。



「エイジさんは、なんでもご存じなのですね」

「……そういうの好きなだけでしょ」



 クレアさんが褒め、立花さんが機嫌悪く呟く。しかし、生で見る依頼書に感動している俺は、ただただ震える手で、依頼書を見つめる。


 そんな俺をどう受け取ったのか、



「そんなに緊張なさらなくても、こちらにあるのは全てFランク──冒険者になりたての方用の依頼書ですから、危険性はほとんどありませんよ」



 と、クレアさんがフォローする。感動しているだけなんだが、まぁそう見られても仕方ないか。



 一頻り感動した後、テーブルに依頼書を置き、



「コホン、さてどれにしますか立花さん」

「え、私? 私はどれでもいいよ。御供さんが選びなって」

「そう、ですね」



 あまり興味が無さそうだな。まぁ良いけど。



「じゃあ、これにしますか」



 そう言って俺が手に取った一枚の依頼書。それはロックゴブリンの討伐依頼。



 ロックゴブリンは、タキサスの街の様な山間やまあいに住むゴブリンだ。

 肌の色が緑じゃなく茶色ってだけで、強さも生態もあまり変わらない。なので、初めての討伐依頼としては、最適だろう。ゴブリンってなんかムカつくしな。



「え!? いきなり討伐依頼ですか!?」



 しかしクレアさんは納得いかない様だ。さっき、そんなに危険性は無いって言ってなかったか?



「大丈夫ですよ。すでに倒していますから」

「え?」



 クレアさんが軽く目を見開く。う~ん、良い反応だなぁ。




 ロックゴブリンは、この街に来る前にすでに倒している。しかも何匹も。だからなんの問題も無いな。

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