第二章 第1話 次の町を目指して
ナバダ村でのゴブリン襲撃を無事に退けた俺と立花さんは、ナバダ村の北に位置するというタキサスという街を目指して歩いていた。
空を見上げれば、快晴な空をチチチっと、まるで空を飛ぶことを楽しむ様に囀りながら飛ぶ小鳥たちと、さらに高いところをクルクルと回る羽ばたかない鳥が見えるだけ。この世界にもトンビみたいな鳥が居るんだな。
欠伸が出そうなほど、のんびりとした空気。とても勇者だ魔王だ魔物だと、殺伐とした世界には思えない。
北に見える山へと続いていく
雑草が生えに生えた轍部分を挟む様にして、俺と立花さんは並んで歩く。道の両側は耕地になっていて、今は何かの葉物野菜の苗みたいな小さな葉っぱが、規則正しい間隔で平らな畑に植えられていた。あまり農業には詳しく無いが、土の盛り上がった──たしか
「長閑ですね……」
「……だね」
歩いての旅行なんて、ほんと異世界旅行の醍醐味だよな。前の世界なんて、最短最安が当たり前だったし。やはり旅と言えば旅情だ。
朝早くにナバダ村を出た俺たちだが、途中で昼食を挟みながら、特に会話らしい会話をする事無く、ただただ歩いていく。
「……疲れました?」
「ん? 全然」
「そうですか。では休憩はまだ先で大丈夫ですね?」
「大丈夫だって言っているでしょ」
「そうですか」
……とまぁこんな感じである。
それでも、ナバダの頃に比べれば少しは会話らしい会話も出来る様になった。
しかし、正直気が持たない。
別にいきなりフレンドリーになれとは言わない。が、せめてもう少し位はこう、意思疎通というか、コミュニケーションというか、そういうのしませんか?と言いたい。
まぁ、立花さんからすれば望んでもいない異世界旅行だ。俺みたいな人間じゃなければ、こんなもんかも知れない。だがせっかくタイムリミットだミッションだ等と
いや、負けるな瑛士! 相手はたかが女子高生じゃないか! 引くな!
「……そういえば、立花さんは向こうの世界では、休日は何をしていたんですか?」
まるっきりお見合いのテンプレだが、話始めはこれで良し。というより、これが俺の限界だ。
「休み? 部活か家で稽古よ、稽古」
何故か不機嫌な顔をした立花さん。なんだ? 怒らせる様な事を言ったか? まぁ良いか。
「そうですか。自分は本を読んだり、スマホでゲームや配信動画を視ていたので、立花さんに比べたら少し不健康かも知れませんね」
はははと笑ってみせる。が、本心ではない。
社会人になって理解した事は幾つかあるが、五日間の仕事の疲れは二日間では癒せないってのが解った。
なので休日くらいはゆっくりと過ごし、次の週を乗り切るHPを回復させる必要があるのだ。休みにアウトドアとかスポーツとか、どんだけ体力モンスターなんだと言いたい。
「話していたら視たくなってくるもんですね。立花さんは配信動画とか視た事は?」
「……無いわよ」
おいおい、せっかく気を使って話し掛けているのに、なんでそんなに冷たい当たりなんだ? よし、少し意地悪してやるか。
「面白いんですけどね。ちなみに、配信動画は知ってますよね?」
すると、不機嫌な顔をさらにムッとさせ、
「バカにしないでよ。それくらい知ってるに決まってんじゃん」
「そうですよね、済みません。まぁ、視ないといってもそこは女子高生──」
「自分のプライベートを切り売りして、お金を稼ぐ番組の事でしょ?」
「うん、違うねそれ」
エッヘンと、少しだけ胸を張る立花さん。
恐らく自分の視てきた配信動画とは違うチャンネルでも視てきたんだな、うん。立花さんを侮っていた俺がバカでした。もういい、諦めよう。きっと時間が解決してくれるさ……。
「……そういえば、御供さんに聞きたい事があったんだっけ」
「え、なんでしょう?」
あの立花さんから話題を振るなんて! 名探偵もサスペンスの帝王も真っ青の、早い問題解決だったな。やっと俺の努力が報われたか!
「村が襲われた時にさ、私と御供さんは離れて戦ったじゃん? その時にさ、狼の上に乗ったゴブリンに襲われたんだよね」
「あ~、ゴブリンライダーですね」
アイツら、先に立花さんの所に行ってたのかよ。
「ゴブリンライダー? そういう名前なんだ。それで、私はそのゴブリンライダー三匹を相手にしていたんだけど、突然さ、唸り声みたいな大きな声が聞こえたと思ったら、そのゴブリンライダーが、その声のする方へ走っていったの」
「そ、それで?」
なんだろ、何やら嫌な予感がする。
「その声の正体さ、御供さんなら知っているんじゃない?」
……困った。
「そ、そうですか? 自分はそんな声、聞こえませんでしたよ? なにぶんゴブリンの相手をするのに必死で、それどころではありませんでしたし」
「え~? 結構大きい声だと思ったんだけどなぁ」
俯く立花さん。あっぶね~! なんとか誤魔化せたみたいだな。
別に本当の事を言っても、俺の力がバレる事は無さそうだが、そうすると彼女は俺をもっと頼ってしまうだろう。それは駄目だ。彼女こそが勇者なのだから。
勇者である事を楽しんでもらう。そのためには、勇者としてのプライドが必要だと思う。
だから、何でもかんでも俺が倒せばいいというものでは無い。
ゴブリンジェネラルとの戦いの後、俺は勇者の従者なのだから、縁の下の力持ちに徹すると決めた。それが正しいかどうかは分からない。最後まで分からないかも知れない。でも決めたのだ。
視線の先の道が、少しずつ傾いているのが判る。どうやら、ここから山へと登っていくのだろう。
「この先は山道っぽいですね」
「え~、勘弁してよ~」
少しずつ上りになっていく道。俺たちの道も昇りだと良いなぁ。
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