第29話 村の子供たち ②
手を振りながら、それぞれ友達とも別れを告げて自分たちの家へと向かって行く子供達。その後ろ姿に手を振っていると、後ろから浅くない溜息が漏れた。
「……立花さんは、子供が苦手なんですか?」
「別に~。苦手ってわけじゃないんだけど、子供って大人と距離感が違いすぎてさ」
「……確かに」
同意しておいた。が、俺からしてみれば、何を考えているのか判らない分、大人の方が苦手だ。
「……それに、さ」
「それに?」
しかしそれだけに終わらず、何やら続きがあるようだ。言い辛そうにしているが、特に急ぐつもりもない。無言で続きを促す。
「実は──」
「──困るんだよなぁ、子供たちを
と、タイミング悪く万屋の店主がブチブチ文句を言いながらやってくる。おい、空気を読みやがれ。
「お前等には、この村から早く出てって欲しいんだからよぉ」
「そんな事を言われてもなぁ」
腕を組み、眉根に皴をよせている店主。
が、俺は知っている。こんな事を言っているが、俺たちの持ってくるドロップアイテムでかなり儲かっているらしい事を。今度行ったときに、バラされたくなかったらもっとサービスしてくれと脅してみるか。
「じゃ~ね~!」
「おう、明日な」
道の向こうに消える前、癖のある茶色髪の男の子が、大きく手を振ってきたので、それに応える。まぁ少なからず、この村にも味方が居るってのは心強く感じるものだ。
ちょびっとだけ胸の奥を熱くしながら、宿へと向かう。今日は何となく良い夢が見れそうだ。
◇
「今日はいつもよりも森の奥まで行ったので、魔物も多かったですね」
「……そうだね」
かなり暗くなった森の中を、相も変わらず満足にコミュニケーションが取れないまま、レベリングを切り上げて村への帰路につく。
いい加減機嫌を直して欲しいものだが、俺のレベルが上がった一方で、立花さんはレベルが上がらなかったのだから仕方ない。得られる経験値がゼロでは無いみたいだからまだマシだが、俺と比べてかなり上がりが悪いよな、ほんと。
クマ女神の言うタイムリミットがいつ来るのか判らないが、こう上手くいかないと俺もマジで焦ってくる。
だからといって、何時来るかも知れないタイムリミットを気にし過ぎてもしょうがないってのも解っている。やるべき事をやるだけだし、ミッションの正体が魔物の襲来ってことだから、やることも変わらない。でも、このままで良いような気もしないんだよなぁ。
森から出ると、かなり低くなった陽の光に照らされた畑は、いつの間にか小麦が刈られ、見渡しが良くなっていた。俺たちの関係性とは真逆である。
そうして、薄暗い道にも負けない暗い心を引きずって歩くと、村の門が見えてきた。……しかし、何だろう? 違和感がある。
そこにあるのは、いつもの木の門で、特に代わり映えのしない風景……なのに、消えない違和感。周りの柵の丸太が急に伸びたりとかはしていないだろうし。う~ん?
すると、黙って後ろから付いて来ていた立花さんが、その違和感の正体を口にする。
「……見張りが居ないね」
「え? あ、本当ですね」
確かに彼女の言う通りだ。普段なら居る門衛の姿が見えない。
まさか、どこかでさぼっているんじゃねぇよな? まぁ俺も、やる気が無くなった時は、営業の最中だろうが良くさぼっていたのでその気持ちも解らんでも無いが、村の安全を守る立場の人間がさぼっちゃ不味いだろうに。
「とにかく中に入りましょうか」
あの不愛想極まりない顔を見なくていいのは、精神衛生上とっても良い──はずなのだが、なんだろ、何か胸騒ぎがする。誰も居ないのに門が開けっ放しって、有り得なくないか?
そのまま門衛の居ない門を潜る。門衛が居ないだけという引っ掛かりが、村に入るとさらにデカくなった。
陽が暮れ落ちた村のあちらこちらで
その慌てぶりからするとかなり大事な物のようだが、一体何を探しているというのだろうか?
「何か探してるのかな?」
「そうみたいですね。だけど、一体何を探して──」
と、ちょうど良い所に、広場へと続く道の向こうから、松明をもってこちらへと向かってくる万屋の店主の姿が見えた。よし、事情を聴いてみるか。
近付いていくと、店主の他に複数の村人の姿が見えた。しかも、それぞれが松明以外に道具を持っている。見れば鎌や鍬、棒切れに始まり、中には弓矢やナイフ、ショートソードまで持っている人も居た。おいおい、物騒だな。どこかに殴り込みか?
「おい、店主──」
声を掛ける。
すると店主たちは、俺たちを見るなりいきなり走り寄ってきたかと思うと、大声で怒鳴りつけてきた。
「おいお前ら! 子供たちはどうしたっ!?」
「うぉ! なんだよ突然!? こ、子供?」
「しらばっくれても、俺たちは知っているんだべっ!」
「ち、ちょっと待ってくれ!?」
鎌を持った男性が凄い剣幕で突っかかってくる。子供って、何を言っているのか解らないが、取り合えず事情を話してくれ!
「落ち着いてくれ! 子供がどうしたってんだ!?」
すると、店主の後ろに居た女性が前へ出てくるなり、決して松明に照らされたわけではない顔の赤さで、服の袖をつかみ上げてきた。
「ジャンがっ! うちの息子が居なくなったんだべっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます