第62話

 

 「私なんて要らないんだ」

  冬華は泣きながら、ナイフを手に持っている。


 「お願い止めて、冬華!」


「お姉ちゃん、止めてよ!」

 二人は必死に止めようとしている。


「私なんて、私なんて!」

持っている手が震えている。


 そして、父親は強引に冬華を抑えている。


 俺はとりあえず警察が来てくれるまで眺めていよう。可能な限り関わりたくないし、


  「離して!離してよ!」


 「ゆうも手伝ってくれ!」

流石に手伝わないと駄目?怪我とかさせて責任とれとか言われたら面倒くさいぞ。勿論そんなことがあっても無視を続けるつもりだが、しつこく言われるのも嫌だな。


 「早くしろゆう!冬華が死んでも構わないのか!」


「冬華、とりあえず危ないから仕舞いなそれ」


「嫌だ!これを仕舞ったら、またゆうが私を無視するだけ!」

仕舞っても仕舞わなくても、無視は変わらない。死後の世界はまなちゃんと二人だけで、イチャつくって決めてるしな。


  「ゆう!」


「ゆうくん、お願い止めて!」


「お兄ちゃん、お願い!」


逆に止める気が無くなってきた。


 今の状況のまま警察に見せた方がいいよな。


 「止めてこないじゃん、ほらゆう全然止めてこない!私のことなんてどうでもいいんだ。要らないんだ!」


 まてよ、更にこの状況を生かせる方法があるのでは?


 「お兄ちゃん!止めてよ、お兄ちゃんしか止められない。」


 「何をしているゆう!ボーッとしてないで。」


 そろそろ警察が来る頃だな。


 「ゆう最後に一つお願い。私が死んだら、たまには私のことを思い出して欲しい。」


 やっぱり何もしないのが安定だな。


 「何してるのゆうくん!」


「お兄ちゃんも壊れちゃったの?」

 

パトカーの音が聞こえた。


 何度もすいません。


 鍵は開けたままにしてあるので、警察が入って来て冬華を抑えた。


 そして警察官にまた同情された。


 「何度もすいません。」


「いや、君はよく頑張ってるよ。」


ーーーーーーーーーーーーー

 

 今度は俺と父親だけ家に送って貰った。


 そして離婚の話の続きになった。


  「ゆう、やはり離婚の話は無しにしてくれ。」

だよな、分かりきってた。


 「今の冬華の状況から離婚をしたらどうなってしまうか分からない。」


「まぁ、いいよそれでも。」

父親と二人家族も嫌だし。


 「なぁ、金は幾らでも払うから家に帰ってきて欲しい。たまに冬華に会ってあげて欲しいんだ。」


「いやだ。」


「即答しないでくれ。」


「あと、俺疲れたから今日は寝る。これ以上起こすなら訴えるから。」

  完全に春香のこともあり、この家族は警察にマークされているからな。


 「ゆう、訴えるって」


  俺は父親を無視して寝る準備を始めた。



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