103、その表情はまるで子供のように

「だぁーかぁーらぁっ! 私はこいつらの仲間でも戦いに来たわけでもないのっ!」

「カカカッ! こりゃあいい。突けば突くほど面白いもん見せてくれるじゃないか!」

「聞いてって、ばっ!」


 もう穴だらけで役に立たない遮蔽物を蹴り飛ばして身体を捻り、最低限に魔法の壁を展開して身を守る。銃弾を跳ねかえすと特に跳弾が激しいので、狭い中で乱用するわけにはいかなかったが、それでも使わざるを得ない情況だった。目で跳弾の軌道を追い、それが誰にも当たっていないことを確認しながら、チカは止まない弾丸の雨に顔を顰める。


 女は話を聞かなかった。というか、聞く気すらないように思えた。

 タイミングが悪かった。ちょうどテルタニスの手下が全滅して、それからやってきてしまったのだ。あっちから見たら増援に見えている可能性があり、それが女の思い込みを増長させているのかもしれない。


 けど、だとしてもここまで容赦ないか普通⁈ 

 そう思いながらチカは特徴的な笑い声を上げ続ける女を睨みつけた。こちらはこんなに叫んでいるのだ、少しは人の話を聞くぐらいはしてもいいんじゃないだろうか。


 そんな苛立ちがむくむくと頭を持ち上げ始めた中、またあのヒールを打つ音が聞こえてきて、チカは再びその場から飛び上がる。恐らくあの音が銃弾を撃つ合図なのだ。そう思っていれば、想像した通りまたも女の後ろから一斉掃射が始まる。


「流石に気づいたかい。やっぱかっこいいからって乱用するもんじゃぁねぇなぁ」


 ヒールの音と共にその場から飛びのいたチカを見て、女は楽し気に目を歪ませながら、長い舌で唇を湿らせる。その表情は戦いを楽しんでいるというよりは、プレゼントを開ける間際の顔だった。ワクワクとしているような、次に何をするのか楽しみにしているような、好奇心に満ちた顔。

 やっていることは可愛くないのに表情はまるで子供のそれで、調子が狂う。


「当たらないってわかったでしょ。ならいい加減撃つのやめて」

「よーしよし。当たらないなら次はこの試作型熱源探知型自動追尾ミサイルのお試しを」

「聞 け よ!」


 その上効かないからといって攻撃をやめる素振りを見せないからますますたちが悪い。

 チカに銃撃が当たらないとわかった途端、女は実験のやり方を変えるかの如く、無骨な鉄の筒を軽々と肩に構えた。巨大なバズーカ砲のように見えるそれが黒々とした大穴をこちらに向けるのを見て、チカは大きく舌打ちをする。


 熱源探知で、追尾型のミサイル。そんなのを狭い通路で撃ち込んだら、チカどころかその周囲が散々なことになるのはわかる。しかも試作型なんて言葉が付いているのだ。碌なことにならないのは目に見えているようなものだった。


「やめろって、言ってん、でしょっ!」


 ミサイルを止めるべく、最小限の威力のビームがチカのステッキから威嚇射撃として放たれる。だがバズーカ砲を弾こうと撃たれたそのビームは、女が仰け反るようにミサイルを庇ったことで着弾点を大きくずらし、女の頬を掠める結果に終わった。


 ビームに切り裂かれた頬から血が流れ落ち、自分がつけた痛々しい傷跡に一瞬「しまった」と思ってしまったチカだったが、「そんな甘いことを考えている場合か」と浮かんだ申し訳なさを吹き飛ばす。大体あっちは問答無用で銃を使ってきたのだ。これぐらいはまだ正当防衛の範囲内だろう。


「……痛いでしょ。私、こんなのが後何発も撃てるわけ。だから」


 だからもうそのバズーカを捨てて大人しくしろ、そうチカが言おうとした時だった。女はぽかんとした表情で、チカと、そして己の血を見てプルプルと体を震わせると


「…………す」

「す?」

「すっっっっげぇなぁ! マジモンの最新型じゃねぇか!」

「……は?」


 思っていたものと違うキラキラとした眼差しを向けてきて、チカは想定外の表情に唖然とする。だが女はチカの反応にはさして興味がないようだった。

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