Become an Angel ビカムアンエンジェル ~ 天使になりたい悪魔に召喚されました ~
しゅがまる
序曲 召喚
深い青緑の森の中を
いつからか
ただ歩き続けている
濃く白い霧に包まれて
少しずつ
湿ってゆく服が重くなる
この先にある何かが
どこからか
こんなにも俺に訴えかけるのに
その先に広がる世界に
なにひとつ
「ホントウ」を信じられずにいる
木々を揺らす風は
厳かで
怖気づく心が言い訳を探す
… ピ ピ ピ ピ ピピ
繰り返し見る同じ森の夢…そして、今朝も同じ場所で目が覚める…はずだった。
ドンッ!!!!!
ギャッ!!
ニャッ!!
にゃ…? ね、ねこ??? あれっ、しっぽが、にっ2本…⁉
「ダンテ様、ご無沙汰しております!」
しゃ、しゃべった!
「ぎっぎゃぁあああ、ば、ばばば、化け猫ぉおおおお!」
「失礼な、吾輩は猫又である。」
「ね、ねねね、ねこまた…よよよ、妖怪…?」
「ん…?貴様、ダンテ様ではないな、何者だ?酒場で『ダンテ』と呼ばれているようだったが。」
「俺は、壇哲矢(ダンテツヤ)だ。学生時代に『ダンテ』って呼ばれてた。昨日はその頃の仲間と飲みに行ったんだ。おまえこそ、なんなんだよ。」
「ぶわはっはっはっはっは、吾輩は猫又にして悪魔である!地獄からやってきた!」
「あっ、悪魔ッ?今すぐ地獄に帰れよっ!」
なんて物騒なヤツが現れたんだ。どうせなら可愛い天使がよかった。
「断る!」
ぎゅるるるるるるる…
カッコつける猫又の腹の虫が鳴り響く。
「悪魔も腹へんのか。ほら、これやるから、とっとと地獄へ帰ってくれ。」
俺は「おつまみ煮干し」を差し出した。
「ふんっ、吾輩を誰だと思っておるのだ?貴様ら人間の、それも庶民の食い物など食わぬ…ん?いい匂いだな。パクッ…もぐもぐ…なんだこれは!」
「気に入ったか?」
「ふっ、ふん…ま、まあまあだな。食ってやってもいい。もぐもぐ…」
「気に入ったんだろ。食ったらさっさと地獄へ帰ってくれ。」
「『帰る』のは…もぐもぐ…むしろ貴様の方だな…もぐもぐ」
「どういうことだ。」
「もぐもぐ…さっき貴様と…もぐもぐ…ぶつかっただろ…もぐもぐ…あの時、なんと…もぐもぐ…貴様はこっちの世界に飛ばされてきたんだ…もぐもぐ」
「食べるか、しゃべるか、どっちかにしてくれよ。」
猫又は煮干しを飲み込むときっぱりと言った。
「貴様は吾輩に召喚されたのだ。」
「なに言ってんだ、ここは俺の部屋じゃないか。おまえが食べてる煮干しだって、俺が昨日の夜コンビニで…」
「なぜか部屋も半分ついてきた…もぐもぐ…」
「はあ?」
「うしろ、うしろ。」
幸せそうに煮干しを頬張る猫又が指さす方へと、俺は向き直った。
「うわぁああ!あの森じゃないかっ‼そうか俺は夢の続きを見ているのか…」
「貴様、あれを知っているのか?そうか、だから貴様が現れたのか。」
「おい、猫又、あの森はなんなんだよ。」
「吾輩の名は、昴(スバル)である。まあ、閣下でよい。」
なにその、無駄にすげぇいい名前。
「あの森の先には地獄の入り口がある。そし…」
「じゃあ、とっととそこから地獄に帰れよ!」
俺はイラっとして猫又の話を遮った。
「そうもゆかぬ。昨日、吾輩があの森へ出かけている間に、地獄の入り口の真上に、突然、異世界の扉が現れたのだ。つまり、地獄の入り口は閉ざされてしまっている。地獄に戻れず困った吾輩は、ダンテ様に助けを求めようと術を使った、というわけだ。そんなことより、もっとこれはないのか!」
猫又は煮干しがよほど気に入ったらしい。が、スルーしよう。
「さっきから、ダンテ様、ダンテ様って、ダンテって一体誰なんだよ。」
「貴様、あのダンテ様を知らぬのか?生きながらにして地獄と煉獄と天国を旅し、歴史的超大作を書かれた超有名なダンテ様を…」
「おい、おまえ、いつの時代の話をしてるんだ?」
「貴様らの暦で1300年頃だ。」
「今、2XXX年だぞ…」
「オーマイゴッド !」
「なんで神に叫ぶんだよ!おまえ悪魔だろ。」
猫又は高く飛び上がると、くるっと宙で一回転した。
「仕方ない、こっちのダンテモドキで我慢するか…貴様、ついてこい。」
「おまえ失礼なやつだな、やだよ。お前が探しているダンテは天国か煉獄か地獄にいるから、そっちをあたれ。」
「それは無理だ。」
「なんでだよ。」
「悪魔は天国と煉獄には入れないのだ。」
「おまえ、本当に行くとこないのか。」
猫又の瞳が悲しく光る。
「じゃあ、しばらく俺んちに住むか?」
「この半壊した家にか?」
「おまえがやったんだろ!」
この次の瞬間、俺はこの不躾な悪魔に同情したことをさらに後悔することになる。
「貴様、知らぬのか?こちらの世界に召喚された者は役目を果たすまでは元の世界に戻れぬのだ。無知なヤツめ…」
「おまえ俺にどんな役目を押し付けようとしてるんだ?」
「選ばれし者よ!」
猫又は偉そうに、蝶ネクタイを直して、カッコつけた。
「貴様は、地獄の入り口を塞いでいる異世界の扉を破壊し、地獄への入り口を取り戻す選ばれし者なのだ!」
「自分で壊せるだろ、俺んちみたいに…」
「貴様ぁ!異世界の扉をなんだと思っているのだ。強度が違うのだ!ちんけな貴様の家と一緒にするな。失礼な奴め。」
「どっちが失礼だ!とことん不躾な悪魔だな。」
「まあよい。とにかく、異世界の扉は『選ばれし者』にしか壊せぬのだ。」
「その扉って、どうやって壊すんだよ。」
「異世界へ行ってみなければ分からぬ。」
「適当過ぎるだろ!俺になんてことしてくれたんだっ‼」
「ところで、これもっとあるか?もぐもぐ…」
猫又は、隠してあったはずの煮干しの袋をひらひらさせながら、こちらを見ている。
「ふざけんなぁあああ!」
かくして俺は、この図太い悪魔の願いを叶えるために、異世界を旅することになったのだ。
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