第78話 欠陥奴隷は称賛を受ける

「そういえば、俺達は昇級するのか?」


 ふと気になって質問する。

 目の前の男が最高責任者だから、すぐに答えが得られると思ったのだ。


 ギルドマスターは特に感情を見せずに頷く。


「もちろん。魔族を倒していくつもの街を救ったのだから昇級しないはずがない」


「じゃあ――」


「ただ、そこまで期待しないでほしい」


 ギルドマスターが遮るように言う。

 彼は少し苦い顔になった。

 ここから先の話は、俺達にとって良くない内容らしい。


「戦果だけを見ると、君達は二級や一級の冒険者だろう。しかし、制度上いきなりの昇級は難しいのだよ」


「なぜだ」


「前にも言ったが、冒険者の等級は実力だけを示しているわけではない。実績や信頼度も兼ねている。いくら強くとも、それらがなければ等級は上げられない」


 ギルドマスターが一瞬だけサリアを見る。

 サリアは素知らぬ顔で「面倒な仕組みね」と言った。

 この説明は確かに以前聞いたが、彼女の頭の中からはすっかり抜け落ちているようだ。


「本音を言うなら、君達には二級冒険者の英雄として活躍してほしい。しかし、特例とは極力作るべきではないのだよ。今後も腐らずに頑張ってくれるだろうか」


「そのつもりでいる」


「ありがとう。何かあれば相談してくれ。職務に反さない範囲で手を貸そう」


 それでギルドマスターとの話は終了した。

 部屋を出た俺達、職員から大量の報酬を貰うと、他の冒険者から羨ましがられながらギルドを後にした。


(えらく期待されているな)


 脳裏に浮かぶのはギルドマスターが最後に述べた言葉だ。

 あれは自らの立場を考慮せずに、個人として発言していたと思う。

 それだけ気に入られているのだろう。

 サリアはもちろんだが、俺にも助力の価値があると見ているようだ。


(考えてみれば当然か)


 俺はレベル6で、つい最近までは最弱で有名だった。

 それなのに急成長して魔族まで倒せる強さになって、しかもまだまだ強くなる余地を残している。

 ギルドマスターの関心が向くのもおかしな話ではないだろう。


「マイケルも真面目になったわねぇ。昔はあんなに暴れん坊だったのに」


「そうなのか?」


「金と名誉のために私を狙うのよ。よほどの変わり者だと思わない?」


「……確かに」


 俺はこれだけ強くなった。

 しかし、サリアと戦いたいとは微塵も思わなかった。

 どれだけの大金を積まれたとしても願い下げである。

 そう考えると、殺し合った仲だというマイケルは相当な命知らずだろう。

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